第17話 下準備

「諜報班?」

「そうだ。」

 

 砂漠の蠍創設前。

 世界が軍縮を推し進める中、軍縮により職にあぶれた俺とスミスは同じ中隊の奴等と民間軍事会社を創設することとした。

 

「俺達は砲兵だ。そんな知識はない。無理だ。」

「……そこについては考えがある。入ってくれ。」

 

 二人きりの部屋。

 後の俺達の事務所となる部屋に、ある一人の人物が訪れる。

 

「こいつは俺が昔個人的に世話になった奴で探偵をしている優秀な奴だ。」

「……どうも。」

 

 コートを羽織り、帽子を深く被るいつもの装いであった。

 後に柏木と協力することとなる男だ。

 

「成る程な。そいつを入れて諜報班を作るというわけか。」

「いや、少し違う。」

 

 探偵も同じテーブルを囲み座る。

 

「見込みのある新隊員をあえて不採用とし、コイツの元で働かせる。コイツの運営する探偵事務所が俺達の諜報班って訳だ。密かに情報を渡してもらうんだ。」

「……何故そんな事を?」

 

 俺は探偵と目を合わした。

 探偵は頷いた。

 

「良いか?俺達には共通する認識がある。」

「……あぁ。」

 

 どうやら、ここの認識に齟齬は無いようだった。

 

「アメリカは俺達を捨てた。国の為、命を懸けた俺達をなんの保証もなく解雇した。」

「……俺もだ。俺もアメリカに恨みはある。」


 スミスの言葉を聞き、ずっと黙っていた探偵が喋りだす。

 

「俺はネットでとある情報を発信していた。なんの根拠もないほんのお遊びだった。だが、それが図星だったようでな。ある日家に帰ると家族が警察に捕まっていた。」

 

 相変わらず表情は見えなかった。

 が、その口ぶりから怒りが伝わってくる。

 

「俺は捕まること無く命からがら逃げれたが、国から追われている。実名が使えない上に家族がどうなったかは分からない。俺は一から人生をやり直したと言っても良い。……アメリカは臆病だ。」

 

 俺とスミスも黙って話を聞いていた。

 

「人から褒められるような事をしない割にそれが知られそうになると隠蔽する。自分の国に危険がありそうな国は理由をつけて侵攻する。俺の家族が一人中東で戦死しているんだ。恨まない訳が無い。」

 

 探偵は口を閉じた。

 暫くすると、顔を上げこちらを見る。

 

「俺はアメリカに復讐がしたい。真実を世間に公表したい。家族も救いたい。だから、お前らに全力で協力させてもらう。」

「俺達もアメリカの言いなりにはもうならない。アメリカが一番だと言う自惚れを認めるわけには行かないんだ。いずれわからせてやりたい。」

 

 そう話していると、スミスが止めに入る。

 

「待った。それはテロの相談か?もしそうなら快く首を縦にふる訳には行かないぞ。」

「何も荒々しい事をしようというわけじゃない。だが、今後どうなるか分からない以上、志を同じくする同志と協力関係にあったほうが良いんじゃないかという話だ。」

 

 そう言うと、スミスは暫く考えた。

 

「……分かった。じゃあ俺はお前らが暴走しないように見張っておくとしよう。」

「……じゃあ、決まりだな。」

 

 そう話し合ったのを今でも鮮明に思い出せる。

 しかし、今ではその同志も俺だけ。

 でも仲間は増えた。

 準備は整ったのだ。

 さあ、復讐の時間だ。

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