第5話 実戦データ

 数日後、柏木の申し出により、実戦データを収集するため戦場へと訪れた。

 スミスが念のため予備の依頼も確保していたようでそれをうまく活用することとなった。

 

「別に付いてこなくても良かったんじゃないか?俺達の事務所で遠隔でモニタリングしてるでもよかったんじゃないか?」

「確かにスミスさんの言う通りですが、現地での調整も必要になるはずです。それに恐らくCIAに追われているんです。ゆっくりしていられません。」

 

 スミスの言うことも最もだが、柏木の言うことも道理である。

 

「まあ、足は引っ張るなよ。」

「カイルさん。ありがとうございます。」

 

 俺達は天幕の中で広げられた地図を見る。

 

「俺達の現在地はここ。今回の主目標はこの地点にいるとのことだ。」

「かなり離れていますね。」

 

 今回の依頼はよくある紛争の依頼。

 反政府軍からの援軍の依頼である。

 

「柏木。俺達が何の部隊か知ってるか?」

「いえ、知りません。」


 やはりか。

 こういったことには疎そうだし説明しておいたほうが良いだろう。

 

「俺達はいわゆる大砲屋だ。日本の自衛隊では野戦特科なんて呼ばれたりするがな。」

「成る程。でも、私が見たことある装備とは違う気がします。」

「そうか、それなりに知識はあるんだな。現在、先進国の砲兵の主要装備は自走式の装輪車、つまりタイヤの物に変わって来ているが、こんな荒れ果てた戦場では装軌車、つまりキャタピラのほうが使えるんだ。柏木さんの言っている事はそういう事だろう。」

 

 どうやらある程度の知識はあるらしい。

 ならば、気にせず話せるな。

 

「俺達砲兵は戦場の女神と呼ばれるほどに戦局を左右する存在だ。既に前進観測班が敵を確認、砲班へと座標を伝えたところだ。」

「早いですね。まだ展開してからそこまで時間は経っていないと思うんですけど。」

「砲兵の戦いはイタチごっこだ。敵に攻撃したらおおよその座標を絞られてしまう。敵の反撃が来る前に次の陣地に移動して攻撃する必要がある。つまり先に攻撃を仕掛けたほうが勝つんだ。」


 すると、柏木少し意外そうな顔をする。


「すごいですね。もう少しその……。」

「練度が低いと思ったか?」

「……はい。ここまでの練度がありながらなんで最弱なんて呼ばれてるんですか?」


 痛いところを突いてくるな。

 まあ仕方が無いか。

 

「現代の戦争はミサイルが主流だ。ミサイルに比べ敵地に接近しなければならない十分な訓練が必要な砲兵は世界情勢の軍縮に伴い徐々に縮小されてきている。で、俺達は活躍の場を減らされて少しでも稼ごうと安い依頼を受け続けた結果不利な戦場に赴いて、あんの場負け続けていいるわけさ。他の砲兵の傭兵も同じような状況だ。」

「それに加えて前線を張っているのは依頼者だ。いくら俺達が頑張っても前線が崩れれば負けてしまう。でも俺達は後方にいるから被害は少なく後退出来るというわけだ。」

「成る程……。」

 

 そんな事を話していると、砲声が鳴り響いた。

 何発も鳴り響き、戦闘が始まった事を知らせていた。

 

「さあ、おしゃべりの時間は終わりだ。博士、実験を始めるぞ。」

「はい!」

 

 柏木はパソコンを開く。

 さて、久々の戦場。

 依頼者に良いとこを見せなければな。

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