観察して

鈴乱

第1話


 彼だけが、嫌そうな顔をしていた。


 涙に暮れる私を遠目から見て、彼だけが同情や寄り添いとは違う表情をしていた。


『おや……?』


 彼のそぶりに気がついて、私は胸中で静かにほくそ笑む。


『あぁ、あの人は"騙されない人"だ。彼女はいい人を捕まえたね』


 私は発狂しながら、その一方で冷静に状況を分析する。


 はてさて、この状況、この場合で、信用できそうな人は……っと。


 ただ発狂するだけでは、面白くない。悲しみに潰されて感情的になった私を見て、周りの人々がどう出るか。


 それを今、チェックしておかなければならない。


 今後のために。


 共感や同情を示し、力になろうとするのか。

 それとも、対応に困って遠巻きに見ているのみか。

 はたまた、私の意図に気づいて、関わること自体を避けるのか。


 さぁ、どう出る?


 ……君たちは、こんな人間を、どう思うんだい? 非礼と評するか? 仕方ないと評するか?


 人間、表の顔もあれば裏の顔もある。

 表でいい顔をしているからと言って、裏までいい顔をしているか、など分からない。

 人間にはたくさんの面があるから。


 別にそれはそれでいい。

 それをどうこうするつもりはない。


 私が知りたいのは、彼らの示す態度と行動。その場で、どんな役を演じることを選ぶのか。


 人間同士、少なからず化かし合いをしているから、それ自体はどうってことない。


 ただ、本人が「どんな人間」だと思ってもらいたいのか、他者に対してどういったポジションを取ることを選ぶのか。


 そこには、非常に興味があるよ。


 そこに、「人」が出るからね。



 

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