観察して
鈴乱
第1話
彼だけが、嫌そうな顔をしていた。
涙に暮れる私を遠目から見て、彼だけが同情や寄り添いとは違う表情をしていた。
『おや……?』
彼のそぶりに気がついて、私は胸中で静かにほくそ笑む。
『あぁ、あの人は"騙されない人"だ。彼女はいい人を捕まえたね』
私は発狂しながら、その一方で冷静に状況を分析する。
はてさて、この状況、この場合で、信用できそうな人は……っと。
ただ発狂するだけでは、面白くない。悲しみに潰されて感情的になった私を見て、周りの人々がどう出るか。
それを今、チェックしておかなければならない。
今後のために。
共感や同情を示し、力になろうとするのか。
それとも、対応に困って遠巻きに見ているのみか。
はたまた、私の意図に気づいて、関わること自体を避けるのか。
さぁ、どう出る?
……君たちは、こんな人間を、どう思うんだい? 非礼と評するか? 仕方ないと評するか?
人間、表の顔もあれば裏の顔もある。
表でいい顔をしているからと言って、裏までいい顔をしているか、など分からない。
人間にはたくさんの面があるから。
別にそれはそれでいい。
それをどうこうするつもりはない。
私が知りたいのは、彼らの示す態度と行動。その場で、どんな役を演じることを選ぶのか。
人間同士、少なからず化かし合いをしているから、それ自体はどうってことない。
ただ、本人が「どんな人間」だと思ってもらいたいのか、他者に対してどういったポジションを取ることを選ぶのか。
そこには、非常に興味があるよ。
そこに、「人」が出るからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます