第19話 エモリーの剣

わたしたちは賊に襲撃されて足止めをされていますが、何故か賊同士の争いになり

馬車の中からその様子を見ています。


「馬車の中からでは話も聞こえませんし、様子もわかりませんね」

「だったら、話を聞くための魔法というか、精霊を読んで聞く事が出来るよ」


トリシャ様は馬車から降りて


「妖精よ、わが目と耳となりあの者たちの姿と声を伝えよ」


と唱えると、絵本で見る妖精が召喚されました。


「あそこで言い争ってる男たちの側に行って、声と姿をこの魔導通信の魔石に届てくれないかな」


すると、妖精はエモリーたちの近くに飛んでいきました。


「うん、ちゃんと映ってるし、声も聞こえてる」

「トリシャ様は妖精も召喚できるのですね」

「少しだけどね」

「しかし、これでは小さくて3人で見るには見にくいですね」

「そうですね。では、わたしの魔導通信の魔石も使いましょう」


アルニルは荷物の中から魔導通信の魔石を取り出します。

魔導通信は妖精または精霊の能力を元に開発されましたので、魔導通信の魔石で見る事が出来ます。


「トリシャ、こっちにも映す事は出来るかな?」

「もう1体妖精を呼ばないとならないけど、構わないよ」


トリシャ様は再び馬車から降りると、同じように妖精を呼び出しまアルニルの魔石に

姿と声を送るようにというと、同じように飛んでいきました。


「どう、映った?」

「映りましたね。だた、こちらの音は切っておきます」


魔導通信の魔石は映像のみや音声のみにする事が出来ますので、アルニルの方は映像のみにします。


「それじゃ、お茶でも飲んでのんびり見ようか」

「お茶はありませんよ?」

「お茶ぐらい、魔法で出せるよ」


トリシャ様はお茶の魔法の呪文を詠唱しようとしますが、その前に飲みたいお茶を聞きます。


「飲みたいお茶があったら言ってよね。なかったら紅茶でいいかな?」

「わたしは紅茶で構わないよ」

「わたしもです」

「わかった。そうだ、騎士君も飲むか聞いてくるよ」


トリシャ様は馬車を降りてアランにお茶を飲むか聞きに行きましたが、すぐに戻ってきました。


「騎士くんも堅いね、任務中だからお茶なんて飲まないと言ってとりあってもくれなかったよ」

「いいんじゃないですか、こちらはのんびりお茶をしましょう」

「そうだね」


トリシャ様は「お茶の精霊よ、紅茶、3人分を出したまえ」というと、紅茶が入ったカップが

3人分でてきましたが、カップは宙に浮いていますが、お茶の精霊もいるのですね。


「さ、カップを手に取って」

「ありがとうございます。では、いただきます」


カップを手に取り、一口飲みましたが美味しいですね。

わたしたちはカップを手にもち、魔導通信でエモリーたちの様子を見る事にします。



『今日こそ決着をつけるぞ、エモリー!』

『ああ、こいよベアグ!』

『言われなくても、行くぞ!』


剣を抜いてベアグ、つまり襲ってきた賊の長がエモリーに斬りかかっていきます。


『まったく、我流の剣は構えすらなっていない』


エモリーは剣すら抜かず、ベアグの剣を簡単に避けました。


『剣を抜かないなんて、相変わらず余裕だな!』

『おまえの剣はもう飽きるほど見てるから、もう抜かなくても避けれるんだよ』

『舐めやがって!』


ベアグがエモリーに向かって剣を振りますが、全くなっていません。

我流といってましたが、確かに基本はなっていません。

しかし、実戦を重ねている剣なので荒いながらも確実に相手を攻撃します。

ただ、問題は冷静さが無いた剣の筋が単純であため、実戦経験がある者ならば

簡単に読めるため、防ぐどころか簡単に避けられてしまいます。


 一方、エモリーの方ですが、避けてばかりいますが相手の動きを確実に読み

最低限の動きで剣を簡単に避けています。

さらにベアグと違い、冷静で相手の動きを確実に読んでいます。

これだけでもかなりの経験がある事がわかりますが、剣の腕前の方はわかりません。

なので、早く剣を抜いて欲しいのですが、剣を抜く気配はありません。


『避けてばかりでなく、剣を抜け!』

『お前が剣を振ってくるから、剣を抜く暇がないんだよ』

『よし、わかった。剣を振るのをやめるから、抜くんだ』

『わかったよ』


ベアグが剣を振るのをやめますと、エモリーは剣を抜きます。

そして構えますが、構えからでもエモリーは剣の習っている事がわかります。


「エモリーは剣の基本がしっかりしていますね」


わたしが言いますとアルニルも


「そうですね、ベアグでしたっけ、それと比べると基本がしっかりしています」


とアルニルも剣の構えから剣を習っている事がわかります。


「へー、構えからわかるんだ」

「はい、わかりますよ」

「少なくても我流ではないですね」


トリシャ様は剣の事まではわからないようですが、説明を聞いてなるほどと言ってます。

そして、2人が戦うのを再び見ます。



『剣を抜いたぞ、来いよ』

『言われなくてもな!』


ベアグは剣を抜いたエモリーに向かいますが、相変わらず大振りの剣で

簡単に見極めてエモリーは避けます。

そして、避けたあと、剣の柄頭つかがしらでベアグの背中を小突きました。


『相変わらず舐めやがって!』

『おいおい、俺が本気だったらおまえはとっくに死んでるぞ』

『黙れ!何年もバカにしやがって、今日こそ決着をつける!』

『だから、決着をつけたらおまえは死ぬぞ。部下たちはどうすんだ」

『俺が勝てばいいだけだ!いいか、本気を出せを!』

『人を斬るのは気はしないが……そこまでいうなら、しゃーなしだな』


エモリーは仕方がないという言う感じ、首を横に振ると剣を構えます。

すると、今までと違がい気迫を感じます。


「これは……やばいね……」


アルニルがつぶやきますが、わたしもエモリーは本当にベアグを殺すのでは息を飲みます。

わたしは本当の剣の戦いを見た事がりませんが、ファーガスの記憶から本当の戦いの

緊迫した空気と駆け引き、そして命を懸けるという事を知っています。

ファーガスも何度も大きな怪我をしいますが、幸いな事に治癒魔法で命を救われています。

しかし、それでも一度生死の境をさまよった事もあります。

それを思いだして、わたしは背中に冷や汗をかき始めています。


『死にさらえ!』


ベアグがそう叫び、エモリーに斬りかかってます。

しかし、ベアグの剣は見切っているため、ベアグが降った剣は空を切る。

そして、エモリーは身体を翻した勢いのまま剣は孤を描きながらベアグに向かいって行き

ベアグの背中に一筋の線を付けました。


『……』

『……』



沈黙の後、斬りつけられたベアグの背中からプチプチと肉が裂ける音(実際に聞こえていませんが)し

背中の一筋の線が赤くなり始めたと思ったら、その赤い線からいく筋の流れに変ってわていきました。


『ま、この程度では死ぬことはないが、それでもちゃんとしないと死ぬぞ』


エモリーは剣の血をぬぐいますが、剣は鞘に収めません。

切られたベアグは倒れ込み、痛みからうめき声をあげています。


『まったく、かっとなる割に斬られたらこれだ、情けねえな』

『う、うるさい……殺すなら……殺せ……:

『俺は弱い相手にとどめを刺さない主義でな。もっと強くなれよ』

『う、うるさ……い……』


背中の真ん中あたりを斬られ、痛がって膝をついているベアグに部下たちが集まります。


『おい、頭の早く傷の手当てをしろ!』

『へい!傷に効く薬草はありますぜ』

『その前に血を止めろ!』


部下たちは大慌てで傷の手当をします。

それをみて、エモリーは剣を鞘に収めるとこちらに来ますが

アランは剣の抜き、こちらに向かってきましたがアランの前で足を止め、話しかけます。

馬車のドアは開いていますので、その会話が聞こえて来ます。


「よう、騎士様、俺の剣はどうだった」

「騎士の剣とは違うが、腕のある師匠に習ったのか」

「師匠は一応居るが、破門されたから2年しか習ってないけどな」

「それでも、基本はしっかり出来ていて、実戦で腕を磨いたようだな」

「ほお、ついさっき実戦が初めてだった騎士様にしてわかってるね」

「ああ、今の自分ではあなたには勝てません」

「かもな。そういえば、姫さんたちは馬車の中か」


アランはエモリーの事をあなたと呼びましたが、騎士であるアランが

エモリーをあなたと呼ぶ事は認めたという事でしょうか。

そして、エモリーは馬車に近づこうとしますが、それを見てアランは

素早く剣を抜いて制止します。


「騎士として、馬車に近づける訳にはいかない」

「おいおい、俺が姫さんたちを襲うと思うか?襲わないって」

「だとしても、王女殿下に賊を近づけないのが自分の役目だ」

「しかし、今、俺に勝てないと言ったばかりだろ」

「だとしてもだ」


アランは立ち上がり、剣をエモリーの喉元に剣を向けています。。


「わかったよ。馬車に近づかないから、剣をどけてくれよ」

「立ち去るまではそうはいかない」

「立ち去っても、俺は姫さんの後をつけてけどな」

「それは好きにしろ。しかし、王女殿下は自分が命を懸けてお守りする」

「まったく、騎士様は大袈裟だな。ま、それが騎士でもあるが」


エモリーはやれやれと言う感じで首を振ると、素直に馬車の横を距離を取って通り過ぎました。

アランはおかしなことをしない様にと、エモリーと馬車の間に入りますが

馬車を通り過ぎた所で足を止めると


「姫さん、悪いけど1度姿を見せてくれないかな。俺みたいな賊が姫さんを直接見ることなんてないからさ」


と言いますが、アランは


「王女殿下がお前みたいな奴の前に姿を見せる訳にはいかない」


と返しました。


「姫様、どうする?」


トリシャ様が聞いてきましたが、わたしは何も言わずに馬車を降りました。


「やっぱり、こうだよね」

「まったく、フローラ様が馬車を降りたらわたしも行かないとなりませんね」


アルニルも剣を持って馬車を降りてきました。


「フ、フローラ様、馬車から降りるなんて危険です」


アランはこう言いますが


「いいじゃありませんか、姿を見せるぐらい」


と返します。


「そうだよ、アラン君」

「アルニルさん、今、アラン君といましたか?」

「フローラ様の護衛中だよ、集中する」

「は、はい」


アルニルはニヤニヤと笑いますが、名前で呼ぶという事はそう言う事ですね。


「わたしは王国第1王女、フローラ・フォル・ラインです。この姿を目に焼き付けてください」


わたしが言うと、エモリーは


「……可憐だ」


と言って、頬を赤くしてました。


「あれ、もしかして純情なのかな?」

「どうも、そんな感じですね」


アルニルとアランは予想外のエモリーの反応で戸惑っています。


「う、うるせ!ど、ど、ど、ど、童貞じゃねえよ!」

「そんな事、誰も言ってないけどね」

「この反応は自分から童貞って言ってるようですね」

「う、うるせえ!俺は姫様を見たから、行くぞ!後はつけるからな!」


トリシャ様とアルニルに言われて、エモリーは顔を真っ赤にしてこの場から

慌てて立ち去りましたが、乗って来た馬はどうするのでしょう。

そう思ったら、エモリーは慌てて戻ってきて馬の所に行くと

顔をさらに赤くして馬に跨ると馬車の後方、つまり進行方向の逆へと駆けていきました。


「冷静な男と思いましたが、あの反応は意外ですね」

「純情……って言う年齢かな、若いね」

「トリシャからしたら、人間はみんな若いよ」

「どうあれ、わたしには手を出す事はありませんし、敬意はあるのでしょう」

「敬意があるかはわかりませんけどね」


アルニルはこう言いますが、今までの様子からエモリーは王族に敬意を思っていると思っています。


「では、先を急ぎましょう。賊たちは手当に大慌てでこちらに構っている暇は無いようですから」

「そうですね、今のうちに急ぎましょう」


わたしたちは馬車に乗り、アランは馬に跨ると急いで急いでこの場を離れます。

賊たちは手当に手間取っていおり、こちらに気付く事なく無事にこの場を去る事が出来ました。

そして、なんとか日が暮れる目にレンゼ山の麓の町到着する事が出来ました。

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