第18話 賊の襲撃

 馬車はどんどん山奥に入って行きレンゼ山に近づいて来ています。

周りの風景は木々も減り荒涼とした風景になってきましたが

レンゼ山周辺は火山が多く、温泉が湧いていますが、魔素も多く体調を崩すしやすいそうです。

そして、魔素によって命を落とす事もあるそうなので、早く通り過ぎたいです。


「なにか変な臭いがしますね」

「これは温泉がある臭いだけど、危険な臭いだよ」

「トリシャ様、危険な臭いとは?」

「この臭いがすると、鳥や動物が死んだりするけど、人間も死ぬこともあるよ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。魔素と言われるけど、どうも自然に発生してるものらしいんだ」

「自然に……ですか?」

「あたしもよくわからないけど、火山がある所にはこういう所が多いから、魔素の正体は自然にでてる目に見えないものだと思うんだ」


トリシャ様がおっしゃるには、風や空気など目に見えないものが地下から出てるのではないかと言う事です。


「どうあれ、危険な所だから早く通り過ぎたいね」

「アランは大丈夫でしょうか?」

「ちゃんとついてきてますから、大丈夫ですね」


アランもついてきているので、大丈夫なようです。

ただ、馬車の中は嫌な臭いが充満しています。


「この臭いは不快ですね」

「でも、この臭いのする白く濁った温泉は気持ちがいいんだよね」

「そうそう、他の火山の麓に沸いてた温泉は気持ちよかったですね」

「あの温泉はあたしも好きだったけど、行くまでに動物や鳥の死骸がたくあんあったけどね」

「それぐらい、気になりませんよ」


2人の話から記憶をたどりますと、どうやらククリ火山の麓にあった温泉らしいです。

ただ、ククリ火山は魔王城があった場所から、かなり遠い所にいあります。


「ククリ火山の温泉ですか?」

「多分、そうかな」

「魔王城からは遠く、方向も違ちますよね?」

「伝説の聖剣があるって話だったけど、行ってみたら朽ちた柄の一部があっただけだったよ」

「村人の話だと、金属がすぐに痛んでしまうので農具が持たなくて困っていると言ってましたね」

「そうみたいですね。しかし、その後は温泉を堪能していますね」

「ないもなかったんだから、温泉ぐらい楽しみたいよ」

「そうですよ、聖剣なんてなかったのですから」


確かに、伝説の聖剣があると聞いて同じ臭いがするきつい山道を登った先にある

洞窟に辿り着きましたら、朽ちた柄の一部のみしかなったので、骨折り損のくたびれ儲けですよね。

しかも、魔素……と言う事にしておきますが、にやられて全員ふらふらでしたからね。

なので、温泉を堪能するぐらいは良いですかね。


 しばらく進むと馬車の中の臭いが消えましたが、相変わらず荒涼とした風景です。

木はほとんどなく、草もあまり生えていません。

人家はもちろんなく、茶店などもありません。

ただ、この辺りにも賊が出没するというなので、賊とはどこにでもいるのですね。


 そんな事を考えていたら、馬車が止まりましたが……これはまさか。


「た、大変です、賊が、賊がでました!」


御者が窓を開けて慌てて報告しますが、やはり賊でした。

アランも馬車が止まったので、馬を横につけますがトリシャ様は


「こっちに来てるけど、今度の賊は本物みたいだね」


と言って、魔法を詠唱しながら馬車から降りますと、大量の火の玉をだします。

わたしからも賊がこちらが向かって来ているのが見えますが、結構な数です。

多分、20人前後入ると思いますが、トリシャ様はその火の玉を賊に向けて放ちます。


 賊は突然飛んで来た火の玉に怯みますが、それでも構わずこちらに向かって来ます。

数人、火の玉があって火だるまになっていますが、それでこちらに向かって来るのはやめません。


「5人ぐらい仕留めたけど、根性がある賊だね」

「こんな所で襲いますから、根性はかなりありますよ」

「しかし、この人数は厄介ですね」

「次の攻撃はギリギリかな」


アルニルも馬車から降りて、剣を構えてますがトリシャ様は再び魔法を詠唱すると

今度は地面を凍らせて、進ませないようにします。

流石に、足元が凍ったら動きが止まりましたが、馬車からかなりの至近距離です。


「ギリギリでしたね」

「トリシャが次の魔法を詠唱してるけど、何人かは氷を抜け出したから

その間はわたしたちが迎え撃ちますよ」

「わかりました」


距離が近いため、氷から簡単に抜け出してこちらへ向かってきます。

御者も馬車の中に避難しますが、アルニルとアランで応戦します。


「剣は我流の割に、実戦慣れしてます!」

「騎士君、実戦は初めてかな?」

「実戦らしい、実戦は初めてです!」

「まったく、自信満々に言わないの。でも、2人仕留めてから腕は悪くないね」


氷を抜けだしてきた賊をアランとアルニルで倒してると、トリシャ様の魔法の詠唱が終わります。

トリシャ様は雷撃の魔法を使い、残りの賊を倒したました。


「どうやら、全員倒したかようかな」

「見えてるいる相手は全部ですよ」

「ということは、まだ居るのかな?」

「ええ、居ますよ」


アルニルがそう言いますと、また前方から賊がやってきました。


「ほう、これだけの人数を3人で倒すとはすごい連中もいたが、騎士様がいらっしゃるってことは王族の馬車だったか」


賊の長らしき男が何かいいならがら、こちらに向かってきますが後ろには

先程と同じぐらいの人数がいます。


「俺はどこかの甘ちゃんと違って、王族だろうが王様だろうが襲うけどな」


わたしには何と言ってるか聞こえないですが、アルニルの


「その甘ちゃんも居ますから、ご本人に直接言ってください」


というのが聞こえました。


「ほう、エモリーもいるのか。王族についてくるなんて、あいつらしいよ、くくくく」


賊の長は笑っているようですが、昨日の賊の長はエモリーというのですね。


「まったく、メイドのお嬢さん、俺がいる事をこいつにばらさないでくれないかな」


 馬車の後ろから何か言ながら、エモリーが馬に乗りながら来ましたが

馬車の横で馬を降りますと歩いて男の方へ向かいました。


「エモリー、こんな上等なのが居るのに、襲わないなんてバカか?」

「これはこっちのセリフだ。王族なんて襲う方がバカだ」

「賊が襲う相手を選ぶなんて、相変わらずどうかしてる」

「王族なんて人質にしても、碌なことはない。特にこの国ではな」

「確かに、今まで王族を誘拐した奴らは皆捕まって、首をはなられさらし首にされてるな」

「そう、死んだら意味がねえよ」

「しかし、盗賊なんてもんは何時捕まるかわからないもので、捕まったらどっちにしろ首は飛ぶ」

「そうだな。ただ、捕まってない奴らもそれなりいいるし、お前だってこんな所で仕事をしてる割に捕まってないだろ」

「捕まらないために、場所を選んでるのはお前もだろ」

「ああ、そうだな。10年間賊をしてるが、この通り捕まってないしな」

「俺もだぞ」

「そうだな、ハハハハハ」


エモリーが笑ってますが、何を話しているのでしょう。

ただ、2人が話してる間、アルニルが馬車に乗ってきました。


「アルニル、大丈夫ですか?」

「はい、人数は多いですが、これぐらい汗もかきません」

「2人は何を話してるのですか?」

「なんて言いますが、お互いの悪口ですかね」

「はぁ、そうですか」

「会話の内容はともかく、あの賊を何とかしないと先にすすめません」

「そうですね。倒せますか?」

「倒せますが、エモリー……と言うらしいのですが、あの方に任せますかね」


アルニルがそう言いますが、後をつけ来た賊はエモリーというらしいのすが

あの方に任せてもよいのでしょうか?


「エモリー……ですか、あの方に任せて良いのですかね?」

「ええ、どうもあの2人の仲は良くなく、わたしたちを襲うよりもエモリーと決着をつけたいようです」

「そうなのですか?」

「ええ、わたしたちよりもそっちの方が気になっているようですから。

ただ、それが終わらないとどのみち先に進めませんが」


どうやら、賊の長は目的が変わったようですが、トリシャ様も馬車に乗り込んできました。


「あたしたちの出番はひとまず終わったから、次の出番まで馬車で高みの見物かな」


トリシャ様もアルニルと同じように出番が終わった言いっております。


「トリシャ様、アルニルさん、馬車に乗り込んでますが良いんですか?」

「騎士くん、あたしたちは蚊帳の外だからいいんだよ」

「そうですよ、わたしたちが馬車に乗っても見向きもしませんから」

「確かにそうですけど……」

「騎士くん、相手にされてない時は気楽にして、体力を温存しようよ」

「そうだよ、騎士君」

「お二人ともその騎士君と言うのをやめて頂けませんか?」

「まだあたしたちに名前を呼んでもらえる所まで行ってないってことよ」

「そうですよ、名前で呼んで欲しかったら実績を作りましょう」

「わ、わかりましたよ。ひとまず、ここは休ませていただきます」


アランは馬車に乗る訳にはいかないので、道の脇にあるちょうどいい石に腰掛けて

エモリーたちの様子を見ているのでした。

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