託された物
話はまとまった。
それと同時に、状況も動き始めた。
地球に現れた十二波動神たち。十二の柱全てではないが、一人、また一人と姿を現し、そして地球上の至る所で暴れ始めた。
街を破壊し、人々を襲い、まるで人類の文明全てを焼き尽くさんする勢いだ。
早急に、対処に当たる必要が有った。
そして天界側にも動きが有った。
アークによって破壊されていたゲートがいくつか、再開通した。
それは天界側でゲートが復旧されたという事であり、来人への追手がやって来るという事だ。
その天界の神がこれまで鬼を討ち人間を庇護するように動いて来た様に、今の状況でも十二波動神の対処に人員を割いてくれるかは、分からない。
何よりそれに割ける人員が残っているのかすらも怪しい所だった。
それを踏まえて、組まれた人員配置はこうだ。
まず、異界での支援組。
メガとギザのバックアップ組を中心として、数人の鬼人がサポートに回る。
美海と奈緒もここで食事や細かなサポートをしながら待機してもらう予定だ。
テイテイ曰く奈緒は戦えるらしいが、それでもただの人間であり、
戦場に出るような事態は、それはもう全てが手遅れとなった時だろう。
次に、地球防衛組。
このグループは地球に現れた十二波動神の対処に当たる事になる。
陸と相棒のモシャ、そして藍が中心となったA班。
そして、ガーネとジューゴ、二人の来人の契約者であるガイア族が中心となったB班に別れて動く。
鬼人の会の面々も、それぞれ数人ずつバックアップに当たる事になる。
イリスも天野家へ向かい来人の母、照子を救出した後、B班に合流する予定だ。
最後に、崩界突入組。
来人と、その親友の二人。人間のテイテイと、鬼人の秋斗だ。
たった三人だが、多くの人数はこちらに割けないし、何より半端な者ではアークの波動に当てられただけで気を失ってしまう。
アークの『破壊』――黒の波動に耐性を持つ、王族またはその契約者でなくてはならない。
来人たち崩界突入組は、メガとギザがゲート開通をさせるまでのしばらくの間待機する事になる。
なので、地球防衛組は先に異界を発ち、戦場へと向かう。
陸と藍のA班と、ガーネとジューゴのB班。
来人はその見送りに来ていた。
「――それじゃあ、頑張って」
命を懸けた戦いになる。
何を言っても嘘くさくて、陳腐になる気がして、気の利いたことは言えなかった。
だからシンプルに、激励だけを投げかけた。
「うん、ありがとー。まあ程々に、頑張るよー」
程々に、その言葉はそのままの意味なのだろうと来人には分かった。
それは同じ王族だからであり、そして天界で陸に会った時の姿を見ていたからだ。
他の神はアークの
しかし、陸も同じく十二波動神の一柱と対峙したというのに、大きな傷も負っていなかった。
その戦いに勝利とまでは行かなかったかもしれないが、それでも大きく優位に立っていた事は見るに明らかだった。
そして、来人自身も相手がアーク本人で無く、ゼウス以外の王族ではない十二波動神なのであれば、同じかそれ以上のパフォーマンスを発揮して勝利する事が可能であろうと思っていた。
それが王の血が成せる優位性であり、そして現行の神王候補者は王族の中でも、今この瞬間最も強くその力を振るえるのだった。
王の証が選んだ存在、それは信仰にも等しい。
この世界の全てが、彼ら三人の王子を信じ仰いでいるのだ。
それから、陸は来人の言葉に答えた後、ふと来人の様子を見て不思議そうに首を傾げ、それからすぐに何かに気付いた様だ。
「あれ、来人。もしかしてイメチェンした?」
「え?」
そう言って、陸は自分の白金色の前髪を片手でちょいちょいと触って見せた。
来人もそれを真似して、自分の髪を触ってみる。
「何か変かな?」
「白髪生えてるよー」
「え!? うそ!?」
スマートフォンのカメラを起動して、インカメで見て見る。
そこに映し出されていた自分の姿は、確かに陸の言う通り綺麗に染めていた明るい茶の髪色の中に、何房か白い髪が混じっていた。
というより、これは――、
「白髪というか、これって陸と同じ――」
白金。それは神化した時に起こる髪色の変化。
目の前に居る陸と同じ、白金色の髪だった。
「あはは、そうだねー。ごめんごめん。でも、来人も自分の中の神の本質に辿り着いた、って事なのかなー」
「そう、なのか……? まあ、インナカラーみたいでそんなに悪くないし、良かった」
前にも陸はそんな話をしていたな、と思いつつ、来人は白髪が生えていない事に安堵していた。
そして、陸はもう一つ。
「あと、もう一個。王の証持ってないみたいだけど」
来人はいつも絆の三十字と一緒に王の証も携帯していた。
それが、今は無い。
天界で、勢い任せに付き返してきてしまったのだ。
陸の言うイメチェンとは、髪色だけでなく見に付けていたアクセサリーの話も含めての話だったとい事だ。
「あー、うん。置いてきちゃった」
それだけで、陸も何となく理由や経緯の察しが付いたのだろう。
少しの間笑った後、自分の持っていた王の証を差し出してきた。
「じゃあ、これ」
「え? でもこれ、陸の――。これが無いと、戦えないんじゃないの?」
陸も普段、王の証を柱として、それを大鎌の形へと変えて、それを武器として戦っている。
それを今手放してしまえば、武器が無くなってしまうのではないか。
「ううん。大丈夫」
そう言って、陸は自身のマントの内から、『影』で形作られた大鎌を現した。
それはつまり、王の証を持たぬとしても武器はあるということ。
“古の神は柱を必要としなかった”、“強い神で有る程柱を必要としない”、“柱とは描く為の筆であり、あくまで力を振るう為の補助である”
来人はかつて家庭教師のユウリからそういった話を聞いた事が有った。
陸は既に神の高みへと至り、王の証という力を振るう為の筆――補助を必要としない。
だから、
「だから、これはお守りとして、君に託すよ。僕の代わりに持って行ってよ」
だから、これはただのお守りだ。そう言って、王の証を手渡した。
来人は僅かな逡巡の後、それを受け取った。
「――分かった。ありがとう」
来人は再び、王の証を手にした。
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