作戦会議

 イリスに連れられて、ガーネとジューゴを連れた来人がテントを出れば、皆昨晩と同じ様に集まっていた。

 来人を見つけた秋斗が声をかけて来る。

 

「おはよう、来人。少しは疲れも取れた?」

「おはよ、秋斗。うん。、腕もこの通り」


 そう言って、来人は腕をぐるりと回して見せる。

 秋斗の隣にはテイテイの姿も有った。


「来人、話は聞いたか?」

「うん。十二波動神が現れたって。地球に現れた十二波動神は人間の血を忌み嫌っている。母さんや、関わりのある大切な人達、もしかしたら他の人間も襲うかもしれない」

「ああ。美海や奈緒はギザが連れて来ているが、まだ地球には皆の家族や、他の友人たちも居る。全てを救う事は――」

「うん、分かってる。それで、皆に話が有るんだ」


 そして、来人は一同の前へと立った。

 ゆっくりと皆を見回して、それから話始めた。


「昨日の話だけど、僕はやっぱり、崩界へと向かう。でも、今地球に現れた十二波動神も放っては置けない。だから、皆に力を貸してして欲しい」


 皆一様に、来人の言葉に強く頷く。

 命の掛かった、危険な戦いだ。しかし、ここに集まった者は皆戦う覚悟を持っていた。


「この異界の存在も時期にバレて、十二波動神か天界からの追手か、どちらかが攻めて来るかもしれない。その前に、僕は“崩界”へ向かって、アークを討つ。――メガ、ゲートの進捗は?」


 そう問えば、メガは大きな溜息と共に答えた。


「やれやれ、本来は成功するかどうかという作業だというのに、簡単に言ってくれるネ。まあ、ボクは天才だからネ。当然、問題は無い。明日には開通する、と言っておくヨ」


 メガの言葉に、隣のギザも頷き、来人へ向けて親指を立ててサムズアップのポーズを返してくれた。

 メガのその迂遠な言い回しながらも頼もしい答えに、一同から感嘆のどよめき声が上がる。


 来人はメガのぞの技術を信頼していたからこそ、ゲート開通はほぼ確定事項として考えていた。

 ガイア界へ行った時も、そして憑依混沌カオスフォームをコントロールする為のメガ・レンズも、メガはあらゆる面で来人をバックアップしてくれた。

 それは来人の相棒がメガの兄であるガーネであるという理由も有っただろうが、それ以上に来人とメガの間には奇妙な信頼関係が産まれていた。


 それから、各自の役割分担を決めて行った。

 

「それじゃあ、崩界突入組と、地球防衛組、あと異界でのバックアップ組に別れて、それぞれの対処に当たろうと思う」

「ボクとギザは勿論バックアップ組だネ。ギザが連れてきちゃったお友達たちも居るしネ、こっちで面倒を見るヨ」

「ああ、お願い」

「でも、崩界はガイア界の時とは違って、レンズを通しての通信は出来ない。ゲートを潜った後のバックアップは出来ないから、基本的には地球側の支援って事になるヨ」

「分かってる。それ大丈夫だよ」

 

 次に、鬼人の会を代表して藍が手を挙げた。


「それでは、私たちは地球で動きますね。異界の維持も勿論ですが、我々ではアークと戦うには力不足ですから」

「藍さん。じゃあ、僕も――」


 秋斗が藍の言葉に続こうとしたが、その言葉を藍が遮った。


「いいえ、アギト。あなたは彼と共に行って下さい」

「でも、僕も鬼人の会の仲間だ!」


 藍は首を横に振る。

 

「いいえ、折角再会した友なのですから。私たちは、大丈夫」


 そう秋斗と藍が話していると、陸が手を挙げた。


「じゃあ僕とモシャも地球防衛組に回ろうかなー。アークに力を与えられた十二波動神に対抗する為にも、来人とは分かれた方が良いよねー」


 対アークにおいて、『破壊』の黒い波動への耐性のある王の血が武器となるのは明白だ。

 王族と、その契約者がキーとなる。


「それに、僕が天界じゃなくてこっち側に居る理由は、藍が居るからだしね」


 そう言って、陸が藍の方を見れば、藍も答える。


「そうね、陸。私たちは一緒。もう、どこにも居なくならないから」


 鬼となった藍の表情は読みとることが出来ない。

 それでも、きっとその奥の表情は優しく微笑んでいた事だろう。


 話はまとまったと見て、来人がまとめる。


「じゃあ、陸とモシャ、鬼人の会は地球の防衛に。秋斗も本当はこっちに残して行きたいけど――」


 どうなるか分からない崩界へ行くよりは、まだ地球に残る方が安全だろう。

 しかし、それも比較的の話だ。

 地球に現れた十二波動神ですら、今のこの戦力では手に余る程に強い。それは天界の戦力がほぼ壊滅状態となっていたのを見ても明らかだろう。

 なら、どこに居ても一緒だ。それなら、


「――うん。一緒に、行こう」

「ああ!」

「勿論、俺もな」


 そこにテイテイも加わる。

 約八年振りに、絆の三十字で結ばれた親友同士の三人が揃い、肩を並べる。


 そして、ガイア族の契約者たち、ガーネとジューゴも続く。


「ネはらいたんの相棒だからネ! 勿論、一緒に行くネ!」

「僕も行きます! 王様のお役に立ちたいですから!」


 頼もしくも主人について行こうとする契約者たち。

 しかし、来人は首を横に振った。


「二人の気持ちは嬉しい。一緒に来てくれた方が心強いよ。でも、敵の数が、地球側の方が圧倒的に多い。イリスと一緒に、こっちの戦力に加わってくれ」


 そんな契約者の二人の姿を見て、イリスは少し申し訳なさそうに、


「本当は、わたくしも共に行くと申し上げるべきなのでしょうが――」

「ううん。イリスさんは、母さんの事をお願い」

「はい。必ず、お守り致しますわ」


 本来であれば、『憑依混沌・完全体カオスフォーム・フルアームド』を使う為に、ガイア族の契約者たちも来人と共に崩界へと向かうべきだろう。

 しかし、だからと言って来人も家族を、母を放っては置けなかった。


「父さんが居たら、いいんだけどね……」


 今この瞬間、来人の父ライジンが居るだけで戦況は一変した事だろう。

 自らの妻の照子を救うだけでなく、そこら一体の十二波動神を蹴散らして見せる事だって想像に難くない。

 しかしアークはライジンは殺したと言っていたし、少し前から全く連絡が取れていない事がその言葉の信憑性を高めていた。


「全く、旦那様あのデブは肝心な時に居ないのですから」


 そうやってライジンに悪態をつくイリスの姿を久しぶりに見た気がして、来人はついクスリと笑ってしまう。

 その姿を見て、イリスも優しく微笑む。


「きっと、旦那様はご無事ですわよ。わたくしたちの、そして奥様の危機には必ず駆けつけてくれますわ」

 

 それは無意味な気休めでしかなかったが、その言葉を強いて否定する者はここには居なかった。

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