VSポセイドン
――『岩』と水流を纏った槍がぶつかり合う、金属音が鳴り響く。
十二波動神の一柱、ポセイドン。
ゼウスの部下であり、今は共に邪神アークの側へと傾いてしまった。
その十二柱の最強格の波動を持つ神が、立ちはだかる。
対するは、来人の契約者たる三人のガイア族。
主人たる来人は、妹の世良を助ける為に、アークと戦う。
ならば、自分たちの役目は、その邪魔をされないように、他の敵を相手する事だ。
(王様の妹、世良――、それを僕は知りません。だけど、王様の大切は、僕の大切なのです)
ジューゴは先陣を切って、ポセイドンと戦う。
「ジュゴン六兄弟の五男としては、あなたのその『水』の
ジューゴは全身に岩の鎧を纏い、ヒレを鋭い刃の様にしてポセイドンの三又の槍と打ち合う。
その最中、突如身体を旋回させて、まるで戦いを放棄するかのように横へと逸れた。
「――所詮は『水』なんて、凍らせてしまえば何でもないネ!」
ジューゴが逸れたその空間、ポセイドンにとっての死角からぬるりと、日本刀を横に咥えたガーネが現れた。
ガーネの刀が、ポセイドンの槍を弾く。
すると、槍に纏っていた水流はたちまち凍り付き、そしてその槍はその場の空間へと張り付き、固定され、動かなくなった。
「何!? 貴様、小細工を――」
ポセイドンは槍を握っていた手を離し、武器を捨てようとする。
しかし、その動きも全て後手後手だ。
そして――、
「――今ですわ! ジューゴ!」
「はい!」
ジューゴは宙に数多の『岩』の礫の弾丸を生成。
そして、その礫の全てにイリスが『虹』のオーラを纏わせていた。
ジューゴは水を司るガイアの戦士、ジュゴン族の家系だ。
それでも、その中で唯一手に入れたスキルが水とは全く別系統であり、流れる水流の奔流に削り取られてしまう、『岩』だった。
それ故に、故郷では落ちこぼれとして、未熟者として扱われて来たジューゴ。
しかし、今は違う。
ここはあの海に囲まれた水の大地ディープメイルではない。
周囲の環境が違えば、優位となる能力も変わる。
そして、ジューゴには共に戦う仲間が居る。
ポセイドンの水は凍り付き、そして三又の槍という武器も失った。
奴は今、隙だらけだ。
「いっけええええ!!!」
そこに、ジューゴは礫の弾丸を叩き込む。
七色に輝くその弾丸がポセイドンの身体へと、まるで剣山の様に突き刺さる。
突き刺さる礫の刃の根元から、赤黒い血がどくどくと流れ出る。
それでも、十二波動神にまで上り詰めた神を相手にこの程度の傷では、致命傷へは至らない。
“治癒して行く自分自身”をイメージする事で、それを現実として創造し、すぐに回復してしまうだろう。
しかし、それはその礫がジューゴの力だけだった時の事。
イリスとの力を合わせたそれは、纏う『虹』のオーラによって、ポセイドンの身体を、そして魂を、じわりじわりと弱体化の力が浸食して行く。
神ではない、あくまでその使いのガイア族であるイリスだが、元はライジンの契約者であり、神格持ち。
神格――つまり、神に匹敵する、その名を持つ者。
その名への信仰が、想いが、力となる。
「同じくギリシャの神話の名を借り受ける者同士。しかし、わたくしの想いの方が強かった様ですわね」
勿論ポセイドンも身体の修復を、回復を試みる。
しかしそれよりも早く、イリスの七色に輝く色が浸食していく。
傷を負えば負うほど、出血が増えれば増える程ほど、“死”のイメージが刻まれて行く。
そして、信仰と想いにより力を増すのとは逆の現象、死というマイナスのイメージの蓄積により、死に至る。
「……ここまで、か。貴様らの様な、獣共に……」
ポセイドンは、膝を付く。
その瞳はもはや焦点も有っておらず、灰色の煙が薄く立ち昇る。
時期に死して、消え失せるだろう。
ガイア族の戦士は戦闘種族だ。
戦いにおいて、手加減も慈悲も無い。
一度敵と定めて相対すれば、常に全力。命を奪う事も厭わない。
特に、今の様な非常時であり、相手が格上の存在――神であるのならば、尚更だ。
殺らなければ、殺られる。
「――その驕りが、あなたの敗因ですわ」
「まあ、三対一だけどネ」
「それよりも、早く王様の元へ向かいましょう!」
三人はもはや脅威とはならないポセイドンをその場に置いて、今もアークと戦う来人の元へと――、
「――では、次だ」
ぼそり、とポセイドンが呟く。
同時に、漆黒の波動の奔流がポセイドンを中心としてうねり出て、黒い光の柱となって天へと立ち昇る。
「ガーネ! ジューゴ!」
イリスは咄嗟に二人を庇い、突き飛ばした。
「イリス!!」
「イリスさん!!」
漆黒の波動の奔流はやがて収束し、そして――、
「――もう一度、聞こうか。何が、私の敗因だ、と?」
まるで壊れた機械の様に、途切れ途切れに言葉を紡ぐポセイドンが立っていた。
剣山の様に刺さっていた礫の刃は炭となって崩れ落ち、傷口はまるで存在していなかったかのように消え失せていた。
ポセイドンの肌は浅黒い褐色となり、先程までの神々しさは無い。
まるや闇に呑まれた様な、その異色の姿。
「――そこの、ガイア族」
ポセイドンはジューゴを見て、言った。
「先程、私の
ポセイドンの背後から、“津波”が起こる。
ここは天界だ。だというのに、そのはずなのに、まるでディープメイルへと来てしまったかと錯覚する程の水――いや、潮の匂い。
「――否。『海』の
その津波に、海に、ジューゴが呆然と打ち震える。
「あ、あ……」
「ジューゴ! 落ち着くネ! それよりも――」
「駄目です、先輩! いくら先輩でも、海を凍らせる事なんて出来な――」
「――ジューゴ! イリスが!」
ガーネに言われて、ジューゴもはっとする。
自分たちを庇い助けてくれたイリスが、ポセイドンの黒い波動に呑まれて倒れていた。
「うっ……うぅ……」
幸い、イリスにはまだ息が有る。
「ジューゴ、お前は壁を造れ」
「でも、僕の壁なんてあの津波にすぐに呑まれてしまいます」
「一瞬で良い。後はネに任せるネ」
そう言って、ガーネは走り出す。
津波は今にも迫って来ている。
「やあっ!!」
ジューゴが倒れるイリスの前に『岩』の壁を造り、ガーネは足元を凍らせて、滑るようにイリスの元へと飛びつく。
そして、イリスの身体を丸呑みにした。
ガーネの口の中は弟の科学者メガによって改造され、器の世界へと繋がった異空間だ。
これならば、手負いで動けないイリスを運ぶことが出来る。
瞬く間にジューゴの元へと下がるガーネだったが、やはりジューゴの作る岩の一枚壁は、津波の圧倒的物量、その水流に抉られ、すぐに壊れてしまう。
「先輩、やっぱり……」
「次だネ! もう一回!」
「は、はい!」
弱気なジューゴを、ガーネが鼓舞する。
今度は小さく、ガーネとジューゴだけが収まる程のシェルターの様に、『岩』の殻を造った。
そして、その上からガーネが『氷』でコーティングする。
「もっと! もっとだネ!」
「はい! ……はい!」
岩、氷、岩、氷――。
二人で力を合わせて、二色の波動で、ミルフィーユの様に層を重ねて、ポセイドンの『海』の起こす津波から、身を守る。
津波が押し寄せる。
二色のシェルターの殻を水流の圧が抉り、削り取って行く。
「せ、先輩……」
「ぐっ、耐えろ、まだ、まだだ……」
やがて、津波は過ぎて行く。
シェルターの殻の層は、残り二枚。
ギリギリのところで持ち堪えることが出来た。
しかし、全力で守りに徹した二人はもう波動が尽きかけていた。
同じ攻撃が二度、三度と続けば、もう持たない。
「――ふん、生き伸びたか」
ポセイドンは嘲笑う。
「それは、こっちの台詞だネ。絶対、殺したはずだネ。それなのに、ぴんぴんしているどころか、最初より強くなるなんて――」
「ああ、私は一度死んだ。そして、生まれ変わったのだ」
ポセイドンはさも当然の様に、自分の死を語った。
「そんな! 死んだのに生き返るなんて、そんなの神様でも不可能です!」
「いいや、私は“再臨”した! それも、アーク様のお力が有ればこそ!」
ポセイドンは両手を広げ、何かを崇め奉る様に、嬉々として語る。
その言葉は既に流暢だ。
「――創造の前に、破壊有り! 私は自分自身を一度破壊し、そして再構築した。新たなこの身体はアーク様の恩寵を受けて、より強く生まれ変わった!」
神ポセイドンは、再臨した。
アークの『破壊』の
新たに生まれ変わったその姿は、アークと酷似した褐色の肌となり、漆黒のオーラを纏っている。
「まずいネ。この力が、他の十二波動神にも有るのだとしたら――」
他の皆が危ない。
アークと相対する来人。
そして、ゼウスと相対する、ティルとダンデ、ソル。
大鎌を持つ神と相対する、陸とモシャ。
それだけじゃない。援軍として駆け付けた神々も、他の十二波動神と戦っている。
その全ての十二波動神たちが“再臨”し、アークと同じ力――『破壊』の
その力は一端だとしても、アークそのものには及ばないとしても、圧倒的だ。
それはあの二代目神王ウルスを一瞬で屠ったゼウスの姿を見ていれば、分かる事だろう。
このポセイドンの姿を見て、理解した。
ゼウスは既に“再臨”している。
だとすれば、丁度今ゼウスと戦っているティルたちは――。
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