駆け付けた仲間たち

 焦りからメガに当たる来人だったが、対してメガは落ち着いた調子で、“そろそろ”と、まるで何かを待っていたかの様だった。

 そして、そのメガの言葉通り、待ち人は現れた。


「ジューゴ、待たせたな!」

「我々も戦うのですぞ!」


 水の大地からジュゴイチとジュゴツー、宙を泳ぐ二人のジュゴンの兵士。


「ジュゴイチ兄さま! ジュゴツー兄さま!」


 その姿を見たジューゴはぱっと表情を弾けさせる。

 そして、


「我々もライト様の為に、道を切り開くのだ! 皆の者、かかれ!」

「「うおおおおおお!!!!」」


 自然の大地からは、ジャックと率いる部下の獣たち。

 ジャックはイリスの元へと降り立ち、声を掛ける。


「心配をかけたな、イリス」

「お兄様、ご無事で何よりですわ。もう大丈夫なんですの?」

「ああ。メガというガイア族に助けられた。そして、力を貸せと言われ、今こうして駆けつけたんだ。ここは俺たち自然の大地の戦士たちが引き受ける、イリスはライト様と共に」

「ええ、分かりましたわ。お兄様も、ご武運を」


 立ち塞がるガイア族の竜の群れを、水の大地と自然の大地の戦士たちが薙ぎ払って行き、来人たちの道が産まれる。


「らいたん、今の内に!」

「ああ、行くぞ!」


 そうして、ついにレンズの示すルートの先、目的地へ到着。

 そこは中央都市メーテル、円形に作られた都市の中央部に位置する、高くそびえる塔だった。

 その頂上に、ゼノムは居る。


 螺旋階段を上り、中腹程に差し掛かると、大きなホールに出た。

 その部屋の中心に、バチバチと弾ける電気を纏った鳥が翼を羽ばたかせていた。


「ここにも居るか」

「あれを倒さないと、先に進めないみたいだネ」

「どう致しますか? 先程までの様に、わたくしが囮となって引き受けて、坊ちゃまたちだけ先に進むという手も――」

「いいや。イリスも、そして皆も俺と共に来てもらう必要が有る。そうでなければ、ゼノムは倒せない」


 来人には有る考えが有った。

 それはゼノムとファントムを見て思いついた秘策であり、それはイリスたち来人の契約者たちの力が必要だった。

 

「王様! なら、全員で力を合わせてさっさと倒してしまいましょう!」

「ああ。すぐに片を付けるぞ!」


 そう意気込み、電気を纏った鳥――サンダーバードへと斬りかかる来人。

 しかし、


「なっ――!? 速い、速過ぎる!?」


 サンダーバードは自身の身体の全てが電気となり、まさに稲妻のごとくホールの空間を縦横無尽に飛び回る。

 その間にもバチバチと電気のオーラを放ち、それに触れた来人たちはダメージを受けてしまう。


 速さ、それは圧倒的なアドバンテージであり、その速さをそのままぶつけるだけで必殺の威力となる。

 四人がかりでも手こずってしまう。


憑依混沌カオスフォームを使えば――いや、しかし、今やるわけには行かない」

「――じゃあ、邪魔だから、どいてなよ」


 そんな時、声と共に一閃。

 その瞬きの間の一閃――『光』の矢は、サンダーバードの身体を掠め、僅かに動きを鈍らせた。


「ティル!!」


 現れたのは、ゼノムの漆黒の一閃で受けた傷を包帯で覆った痛々しい姿のティルと、そして相棒のダンデだった。

 氷の大地での戦いで倒れたティルが、今は弓と矢を手に、立ち上がり、来人たちの前に現れたのだ。


「大丈夫なのか!?」

「腹立たしい事に、見ての通りだ」


 ティルが憎々し気に来人を睨み、ふんと鼻を鳴らすと、傍に居たライオンのガイア族、ダンデは主人にへりくだる様に、


「――どうやら、彼らは”この程度“の相手にすら手こずっている様ですね」

「なっ――!? ダンデ! あなた――」


 そのダンデの言葉にイリスが抗議しようとするが、ダンデはイリスがそれを言い終える前に言葉を被せて、


「――『電気』の鳥。しかし、自分の『雷』の前では、そしてティル様の『光』の前では、その速さなど止まっているも同然」


 そう言って、スキルを発動させて『雷』を纏ったライオンは来人たちの方に軽く目配せをする。

 そして、


「彼らの代わりに、我々が見せてあげましょう! 真の“速さ”というものを!!」

「ふん。元よりそのつもりだ。――行くぞ、相棒ダンデ

「はい。ティル様」


 ティルは弓の弦を引き絞り、ダンデは地を蹴る。

 ダンデは主人を駆り立て、来人たちの為に道を切り開く役目を買って出たのだ。

 

 本来であればティルは決して請け負わず、本丸を目指しただろう。

 しかし、一度漆黒の一閃を受けて傷は深く、完全に力を発揮出来ない事をティル自身が理解していた。

 だからこそ、ダンデは主人のプライドを傷つけない形で、“来人たちが勝てないガイア族を相手にする”という建前を用意して、主人を動かしたのだ。

 

 ティル自だってそれを理解していない程愚かでは無い。

 しかし、それでもティルは相棒の意を汲み、それに乗ってやる。

 

 ――これは、神々に綽名す反逆者を粛正する為の戦いだ。

 結果として、ゼノムが討たれればそれはティルの手柄となって返って来るのだから。


「――ここはダンデたちに任せて、行きましょう、坊ちゃま」

「ああ」


 来人たちは螺旋階段を上る。

 その先は、塔の頂上――つまり、ゼノムの元。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る