決戦、ガイア界

 道中、『メガ・レンズ』を通した通信上で、メガが事の顔末について話してくれた。

 

「――ファントムの持っていた肉塊、あれこそがゼノムの波動の残滓の集積した物だったんだヨ。

 ファントムはウルスとの戦いの後、『蜃気楼』のスキルで自身の死を隠蔽し、ギリギリの所で難を逃れたのだろう。そして、友であるゼノムの『分解』され塵となった欠片を、長い年月をかけて集めていた。

 しかし、それでもウルスの『分解』のスキルを諸に受けたゼノムが完全に復活出来るはずも無い。ファントムがどれだけ身を粉にして集積しても、集まったのはあの肉塊くらいが限界だった。

 もちろんそれだけではゼノムの復活には至らない、それを収める器が必要だったんだヨ」


 そこまで言われれば、来人にも言わんとする事が分かる。


「つまり、その器として目を付けたのがバーガの遺体だった訳だ」


 メガは自分の祖父の事を、どう思っているのだろうか。

 ガーネと違い表に感情をあまり出さないメガだが、この時は少し返答に間が有った。

 

「――そうだヨ。お爺ちゃん――バーガの遺体は『氷』のスキルによって時が止まり、保存状態も良好。何より同じ原初のガイア族であるとう点において親和性も抜群だっただろう。

 しかし、それでも問題が有った。バーガの遺体は誰の手も届かぬ禁足地、閉ざされた氷の大地の最奥に後生大事に保存されていた。

 だからファントムはガイア族たちに翼を与え、事件を起こす事で神を呼び寄せた。ガイア族たちは決して開ける事の無い氷の大地の門も、神ならその限りでは無いからネ。

 そしてやって来たのがライトと、そしてティルだった。ティルなんてファントムが求めていた都合の良い神そのものだっただろうネ。何せ、あの『光』の矢ならバーガの氷塊を砕く事くらい造作も無いだろう」

 

 メガの話を聞き終え、来人は溜息を小さく溢した。


「つまり、俺たちは、まんまとあいつの策に乗ってしまった訳か」

「と言っても、ライトの目的も氷の大地にあったんだから、どちらにせよ、だろうヨ」

「なんだ、フォローしてくれるのか?」

「まさか。むしろその逆で、事実を事実として述べているだけだヨ。ライトはファントムの思惑を知っていたからと言って、自分の目的を――、望む物を諦めたのかい?」

「――いいや。俺は分かっていても、秋斗を完全に取り戻す為に氷の大地の門を開けていたよ」


 そうしてメガと通信をしながらも、来人は前へと進んで行く。

 そして瓦礫の山を飛び越え、角を曲がった先、そこには――。


「くそっ、流石にタダでは通してくれないか……」


 『メガ・レンズ』の映し出すルート上に立ち塞がる暴走状態のガイア族。

 八つの頭を持ち、それぞれの頭部から炎のブレスを放ち辺りを火の海へと変えている。

 “ヤマタノオロチ”の姿をしたガイア族だ。


「メガ、他のルートは無いのか!?」

「計算結果では、こいつを倒して行くのが最速だ。空を飛ぶ多くの飛竜を掻い潜るよりも、迂回して毒の霧を吐くヒュドラを相手にするよりも、一番マシな相手だヨ」


 地獄か地獄か超地獄か、どうやら来人たちにはろくな選択肢が無いらしい。

 この大きさのヤマタノオロチ相手に素のままで戦えばパワー負けし兼ねないし、何より相手は罪の無いガイア族の民、殺してしまってもいけない。

 シンクロ率を無暗に上げない為にゼノム戦までに温存しておきたかったが、来人が覚悟を決め、再度の憑依混沌カオスフォームで立ち向かおうかとしていた、その時――。


 どこからか、遥か空からもの凄い勢いで飛んできた二つの物体。

 それはその勢いを落とす事無く、ヤマタノオロチへと突っ込んで行った。


 激しい衝撃音と共に、立ち上がる土煙。

 そして、その煙が晴れると、その突っ込んで来たのが何者かの正体が。


「よう、鎖使い! 援軍だぜ!」

「カンガスさん!」


 現れたのは山の大地で再会して、そして共にアビスプルートで戦い、来人が助手となった、あの武器屋の神カンガスだった。

 あの時と同じ身の丈を超えるサイズの大剣を担いでいる。

 そして、カンガスの隣にもう一人カンガスが――、いや、同じ姿をした獣人の男が居る。


「と、もしかしてそっちが、言っていた――」

「おう! 俺の相棒、山の大地の長、ユキだ! どうだ、格好いいだろう!」

「……」


 ユキはカンガスと違い寡黙な男の様で、こくりと頷くだけでそれを返事の代わりとした。


「俺たちがこいつを引き受ける! お前らは先に行きな!」

「ありがとうございます! 気を付けて!」

「おうよ! 帰ったらうちの店、手伝ってもらうからな!」


 カンガスとユキ、二人の獣人に任せて来人たちは先へと進む。

 しかし、少し進めばまた暴走状態のガイア族が立ち塞がり、倒して進めばまた同じ様に行く道の先に現れる。


「切りが無い。ゼノムの元まで、もう少しだって言うのに……!」

 

 レンズに映し出されているルートはもう少し。

 あと少しだというのに、道中に立ち塞がる竜たちが、来人たちの進行を鈍らせる。


「なあ、メガ!」

「落ち着け、そろそろだヨ」

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