不死鳥
「――ま! ――ちゃま!」
「う……、ううん?」
自分を揺すり起こす声と、同時にぱちぱちと聞き慣れない音。
「――坊ちゃま! 起きてください!」
ぐっすりと眠っていた来人は、イリスに叩き起こされる。
「イリスさん? どうしたんですか?」
「大変です! 森が!」
ぱちぱち、ぱちぱち。
意識を覚醒させた来人は、外から聞こえて来る異音と共に何やら熱を感じる。
そして、イリスの言葉と同時に脳裏に浮かんだその音の正体に驚き、飛び起きる。
「ガーネとジューゴは!?」
「先に向かっていますわ」
「僕たちも行きましょう!」
来人とイリスは外へ出る。
「――酷い。どうして、こんな事に……」
来人の想像通りだ。
自然の大地リンクフォレストの森は火の海に包まれていた。
「分かりませんわ。わたくしも目が覚めたら、急にこんな事に……」
来人たちは周囲の様子を見回してみる。
ガイア族たちは消化に当たる者も居れば、騒ぎの中心に居る“何か”に向かっている者も居る。
ガーネとジューゴは消化班に加勢している様だったが、余りに火の手が早すぎて追い付いていない。
「向こうに何かあるみたいです。行ってみましょう」
来人の言葉にイリスはこくりと頷き、指す方に二人は走る。
少し進むと、昨日も通った橋まで来た。
しかし、その橋も既に燃え落ちていて通る事が出来なくなっていた。
「――イリス、跳ぶぞ」
「へ? 坊ちゃん?」
来人の髪色が白金に染まり、『鎖』の
まだ無事な大樹の上方へ向けて鎖のアンカーを放ち、鎖の先をぐっと引っ張り固定した後、イリスを抱き上げたままターザンの様に弧を描いて橋の落ちた先の大樹へと飛び移った。
そしてその先の大樹にアンカーを打ち直し、再び跳躍。
そうやって次々と木々を飛び移って行き、騒ぎの渦中へと辿り着く。
ガイア族たちが集まり、遠巻きに囲う騒ぎの中心に居た者。
それは、轟々と燃え盛る炎を放つ火の鳥。――巨大な
そんな暴れる鳥を諫めようと何人ものガイア族が立ち向かうが、翼の姿で暴走する
「――あれは、お兄様!?」
「お兄様って――、あの鳥が、ジャックなのか?」
「ええ。お兄様の翼の姿、それがあの
「あいつも、ジュゴロクや山の大地のグリフォンみたいに暴走状態に――」
来人は周囲のガイア族の群衆に目をやり、以前に水の大地で見たのと同じ怪しい人影が無いか探る。
しかし、誰も彼もが必死で消化や羽ばたく火の鳥を止める為に動いていて、この状況を傍観してほくそ笑む何者かの姿は無い。
「――居ないか」
「坊ちゃま! お兄様を!」
イリスの悲痛な訴えに、来人は一度小さく深呼吸をして、そして二本の柱を金色の剣へと変える。
「ああ。イリス、ジャックを止めるぞ」
その時。
一閃、そして一拍遅れての轟音。
来人たちは驚き、その閃光の根元を見る。
そこに居たのは、来人と同じ髪色をした金色の弓を構える青年、ティルだった。
「邪魔だよ」
ティルが次の光の矢を手の中で生成し、再び弓の弦を引き絞る。
「ティル!!」
「それはわたくしのお兄様ですわ! ティル様、お待ちください!」
ティルは来人とイリスを一瞥した後、それを一蹴する様にふんと鼻を鳴らして矢を放つ――、その直前。
「ティル様!」
ティルの傍に走って来たライオンのガイア族、ダンデはあろうことか主人であるティルに体当たりをした。
ティルの矢はその体当たりの勢いで狙いを反れ、大樹に命中。
光速の矢はその威力で大樹に風穴を空けた。
「おい、ダンデ。どういうつもりだ」
ティルは苛立ちを含んだ声でダンデを睨みつける。
「ティル様、あれは我々自然の大地の民の仲間です」
「それは先程聞いた。しかし、このまま放置していては全てが灰になる。だからこそ、私の手でそれを止めてやる」
しかし、ダンデは首を振る。
「ティル様の矢は強すぎます。それでは、あの者の命すら奪ってしまいます」
「私に、矛を治めろと」
「はい」
「お前は、私に楯突くというのか」
「……はい」
これまでティルの元でイエスマンとして従順に働いてしたダンデが、今日初めてその命令に背いて動いている。
ティルは苛立ちを更に募らせるが、ダンデは毅然としてティルの瞳を真っ直ぐとみて、言葉を重ねる。
「我々はこのガイア界に異変の調査に来ました。ですが、今のところ成果は上げていません。しかし、あの者を生かして救うことが出来れば、この異変を起こしている原因が分かるやもしれません」
「では、私の力も無しに、お前があの火の鳥を止められるのか?」
「それは――」
ティルの問いに、ダンデは言い淀んでしまう。
相手は巨大な
一分一秒でも早く止めなければ、ティルの言う通りリンクフォレストの森は全て燃え尽きて灰になってしまう。
しかし、ただでさえ強いジャックが暴走状態となり更にその力を増している。
ダンデもまた翼の姿となって挑んだとしても、勝機が有るかどうか。
そうしていると、別の方からダンデに声がかかる。
「ダンデ、そのままティルを抑えておけ! ジャックは、俺たちで何とかする!」
そう言って、来人が颯爽と駆けて炎を撒き散らすジャックに向かって行く。
イリスも四肢を獣の爪へと変え、『虹』を纏い後に続く。
それを見たティルは、やはり苛立ちを多分に含んだ声色で声を荒げる。
「おい! 待て! そいつは私の獲物だぞ!」
しかし、その声に来人が答える事は無く、既に『鎖』での拘束や『泡沫』の水のバブルでの消化を試み始めている。
両の剣は
「――くそっ。このままでは、また手柄をあいつに……」
そうティルは苦い心の内を漏らす。
ここに居る者は自身の相棒を含めて皆森を守る事とジャックを救う事、その二つの共通の目的を持って動いている。
しかし、ティルの持ち得る手札では、殺さずに事を治める事は出来ない。
今ティルが独断で動きあの
それをティル自身も分かっているからこそ、相棒という絶対の味方を失った今下手に動く事は出来なかった。
歯がゆさに苦心するティルに対して、ダンデは更に一つ進言する。
「ティル様、今あそこで暴れている者――ジャックはこの大地の長の側近です」
「そんな事は、知っている」
「ええ、ですから。今、長のリーンを守る者は居ないのです。きっと今頃どこかへ避難しているか、もしくは逃げ遅れてまだ長の間に居る可能性も――」
そこまで言われれば、ティルにだって分かる。
つまり、ダンデはこう言いたいのだ。
自然の大地の長を守るという大義を果たす事は、ここで事件を治める事に等しい。
そして、それはティルの手柄として評価されるだろう、と。
「――長を探す。行くぞ、ダンデ」
「はい、ティル様!」
その進言にリーンを心配するダンデの私情が含まれている事はティルには秘密だ。
こうして、ティルとダンデは長リーンの救出に向かい、来人とイリスは
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