陸VS『藍』の鬼①
日本の百鬼夜行、その大異界の主は炭のように焦げて黒くなった人型の身体を、“青い炎”で覆った姿をした、『蒼』の鬼に酷似した鬼だ。
その主さえ倒していまえば、天界軍の勝利だ。
「――おい、てめェら! 全部まとめてぶっ殺せ!!」
「「うおおおおおお!!!!」」
神化した
その先頭を切るのもまた、他ならぬ指揮官の陸自身だ。
「おらおらァ! 邪魔だ邪魔だァ!!」
赤き炎を纏う大鎌をぶんぶんと大きく振り回し、骸骨の姿をした鬼の軍勢をまるで雑魚の様に蹴散らしていく。
陸は正面しか見ていない。
サイドから襲い掛かって来る骸骨たちは、肩に乗る相棒モシャの『風』の
陸はそれらの雑魚を相棒に任せる事で意識からシャットアウト。
『風』を纏い、突っ走る。
全てをを無視して、『
そして、後ろに続く神々の戦士たちが陸が放置したその骸骨の鬼の軍勢の相手をする。
百を超える屈強な神の戦士たちは次々と骸骨を骨の山に変えて行く。
間違いなく、陸の家族と幼馴染の命を奪った『
あれは似て非なる別物だ。
しかし、それでも陸の心をざわつかせるには充分な存在だ。
そこに在ってはならない。
陸のその手で、殺してやらなければ気が済まない。
そして、陸は蹴散らされ骨の山を飛び越え、青い炎を纏うこの大異界の主の元へと辿り着く。
「よう、殺しに来たぜ」
陸は地に転がる骸を片足で踏みつけ、大異界の主を見下す。
「グ、ギリリリ……」
主は青い炎を揺らめかせ、奇怪な鳴き声を上げる。
そして、一瞬の見合いの後、両者は同時に動き出す。
陸の赤い炎と、鬼の青い炎。
二つの炎がぶつかり合う。
「おらあああァ!!!」
陸は柱たる王の証を大鎌の形に変え、大ぶりな動きでそれを振るう。
鬼は炎を纏った両腕、そこから生えた長い爪でその大鎌の攻撃を弾き、受け流す。
相手は大異界の主、百鬼夜行を成す鬼の上位個体。
一筋縄で行く相手ではない。
その後も、荒廃し崩壊したビル群を駆けまわり、幾度にも渡る打ち合い。
陸はすんでのところで致命傷は避けるが、身体には傷が増えて行く。
そして、再び陸は何度も見せた同じ大鎌の大振りで単調な薙ぎ払い攻撃。
勿論鬼はもうその大鎌の薙ぎ払いの軌道を見切っている。
避けようと後方へバックステップで回避を試みる。
しかし――、
「俺の事、忘れがちだよね。ま、だから刺さるんだけど」
陸の肩に乗り、主の鬼との戦いの間ずっと息を潜めていた相棒、イタチのモシャ。
モシャの
それを使い、鬼の背後に風圧の層を作り出していた。
結果、背後への回避を試みた鬼はそれを許されず、逆に前方へ押し戻される。
「悪いなァ、元から二対一なんだよォ!」
鬼の右腕が大鎌の斬撃によって刈り取られ、宙を舞う。
「ギ、ググ、ギグァァァ!!!」
鬼は雄叫びを上げ、傷口を左腕で押さえて苦悶し、膝を付く。
血液の代わりに、鬼の腕の傷口からは青い炎が吹き上がる。
「こいつ、やっぱり『
「だから言っただろう。こんなやつ、陸の敵じゃないよ」
陸は膝を付く鬼向かって、もう一度大鎌を振り終ろし、今度は左の腕も刈り取った。
傷口からは同じく青い炎が溢れ、ぼとりと落ちた左腕は炭化して塵と成って消失。
「終わりだ、失せろ」
そして、陸はトドメの刃を振る為に大鎌を振り上げる。
しかし、その時。
「何ッ――!?」
鬼の両腕から漏溢れる青い炎の火力が一気に強まり、天へと向かって吹き上がり始める。
「陸、危ない!」
咄嗟に反応した陸は、モシャの言葉と同時に後方に退避。
「ギ、ググ、ギグ、ギグ、ギグ――リ゛ク!!」
鬼は青い炎を吹き荒らし、暴れ回る。
そして、その炎の嵐が収まれば、失った両腕の代わりとして“藍色の炎”で腕を形作り、それを補っていた。
『
「なあ、モシャ。今アイツ、オレ様の名前を読んだ気がしたんだが――」
「まさか。鬼が喋る訳無いだろう? 気のせいだよ」
「そう、だよな……」
しかし、陸はどこかでそれを感じていた。
間違いなく、目の前の鬼が自分を呼んだのだと。
「ドウシテ……、ドウシテ。イタイ、イタイ……!!」
やはり、藍色の炎を纏う鬼は間違いなく言葉を喋っている。
そして、傷の痛みを陸に訴えながら、本能のままに藍色の炎で出来た両腕の爪を振るい、再び襲い掛かって来る。
陸はその爪を鎌の柄で受け詰める。
互いの力と力、色と色、波動と波動をぶつけ合った両者。
その結果、魂同士が触れ合い、『藍』の鬼の核の内側にあった生前の魂を呼び起こした。
「オマエ……、
鍔迫り合いを続ける中、陸は無意識の内に口からそう溢していた。
「陸、何言って――」
戦いの最中にそんな事を口走る陸に、モシャは困惑する。
そんな訳がない。
禍々しい炎を纏った鬼の姿で、見た目も声も何もかも違う。
しかし、それでも核の内に秘めた魂の色に触れた陸には解ってしまった。
鬼とは、殺された物の魂が歪に変質した存在だ。
つまり、鬼に殺された者もまた、鬼になる可能性が有るという事。
どうして今までその可能性に至らなかったのだろうか。
まさかそんな事有るはずが無いと、考えもしなかった。
しかし、間違いない。
目の前の鬼の核の内に有るのは、幼き頃に『蒼』の鬼に殺された幼馴染、
そう認識してしまうと、陸の鎌を握る力が緩んでしまう。
そして、それが隙となって押し負ける。
「陸!!」
肩の上に乗るモシャは堪らず弾き飛ばされ、地面に転がる。
『風』で反撃を試みるが、その小さな体躯では『藍』の鬼には敵わない。
炎の爪の一振りで一蹴される。
「ドウシテ! リク! リク!!」
相も変わらず陸の名前を叫び続け、そして言葉とは裏腹に鬼の肉体は暴れ回り、炎の爪を振り回す『藍』の鬼。
しかし、一度相手が幼馴染の藍だと認識してしまえば、陸は鎌を振るうことが出来なかった。
防戦一方で、最初よりも力を増した『藍』の鬼の攻撃を受け続ける陸。
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