天才の最高傑作

 そんな訳で、『ハッキング・ゲート』の白い光を潜って違法転移をした一行は陸と合流した。

 勿論陸には移動手段の事は秘密だ。


「やっほー、来人。ただで核貰えるって言うから来たよー」

「突然ごめんね、陸」

「いいよー、勝手にやってたら血祭だったけどー」


 やっぱり陸はちょっと怖い。


「あ、初めまして。来人の妻の天野美海あまのみみです。来人がお世話になってます」

「あ、これはご丁寧にどうも。初めまして、大熊陸おおくまりくですー」

「待って、だからまだ結婚してないから! 苗字も勝手に名乗らない!」


 そんな物騒な事を言う陸を物ともせず、美海がいつのも挨拶をするので、来人は改めて紹介し直す。


宇佐見美海うさみみみちゃん、この前一緒に食べたお弁当作ってくれた子だよ」

「ああ、あの時のー」

「そう言えば、陸にもお弁当を作ってくれた幼馴染の女の子が居るんだよね」


 確か、名前は――。


「そうそう、あいもとっても料理が上手なんだー」

「そうなんだ、私も会ってみたいなあ」

「いいよー。今度来人と一緒に遊びに来てよー。藍はあまり家から出たがらないから、良かったらお友達になってくれると嬉しいなー」

「やったー!」


 そんな感じで、勝手に陸の家に遊びに行く予定まで立ってしまった。

 

「ていうか、これから鬼退治に行くんだけど、美海ちゃんも来て大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫、いざって時は来人が守ってくれるでしょ?」

「まあ、それは勿論……」


 二人がそう話していると、美海の腕の中のメガが口を開く。


「ま、ボクの最高傑作が鬼を討ち漏らす訳無いから、心配しなくても良いヨ」

 

 そんな様子を見ていたガーネがぴょんぴょんと跳ねながら来人に飛びつく。


「メガだけ抱っこされててずるいネ、らいたんもネを抱っこするネ」

「お前普段は自分で歩くだろ」

「歩き方忘れたネ」

 

 そんなこんなで、今ガーネは来人の腕の中、メガは美海の腕の中に納まっている。

 その来人の隣で、何を思ったか同じくイタチのモシャをおもむろに抱きかかえる陸。


「俺は別にいいよ」

「まあまあ、折角だし抱っこさせてよー」

 

 そして先頭を歩くのは、タブレット端末の画面に表示されたマップデータを見て目的地を目指すギザ。

 まるでペットランにでも来たみたいになっている一行を連れて、異界の反応が有る地点へ。


「多分、この辺だと思うのデスが……」


 すると、ガイア族三匹がぴくりと反応を示す。

 

「ギザ、そこだ」


 メガの指す方を向けば、そこには空間が歪み、異界への入り口が出来ていた。


「それじゃあ行くよ、美海ちゃん。離れないようにね」

「う、うん……」


 美海はぎゅっと腕の中のメガを抱き締める。

 そして、一行は異界の中へ。


「ここは……神社?」


 異界の入り口を抜ければ、まるで神社の様な空間。

 ここが今回の異界だ。


 カンッ……、カンッ……。

 そして、その異界に響く奇怪な音。


「ギ……ギギギ……」


 全身を丸い甲殻で覆った鬼。

 両手の甲殻は全身を覆う物より更に肥大化しており、その様はまるで――、


「差し詰め、”『盾』の鬼“――と言ったところだネ。反応からしてこの異界の主で間違いないヨ」

「おいメガ、何呑気な事言ってるんだ、鬼が出たぞ。例の最高傑作ってどこに有るんだ?」

「どこって、“目の前”だヨ。――さあ、ギザ、やってしまいなさい」


 メガがそう言うと、ギザが静かに答える。


「――イエス、マスター」


 ギザが地を蹴る勢いで、爆風が吹き荒れる。

 『盾』の鬼はギザの動きの速さに付いて行けず、ギザの蹴りを受けて吹き飛ばされる。


「ちょ、ギザって人間だよな!?」

 

 なんと、メガの言う最高傑作とはギザそのものだった。

 そして、その動きは人間のそれを遥かに超えていた。


「ああ、人間だヨ。――脳みそだけネ」

「はい?」


 『盾』の鬼の反撃、大きな両手の盾を使ってギザに向かって突進――シールドバッシュだ。

 今度は逆にギザが弾かれ、後方に吹き飛ばされる。

 

 そして、ダメージを受けたギザの衣服と表皮が剥がれ、内から黒い金属の肌が露出する。

 

「ちょっと、ギザがやられてるわよ!?」

「大丈夫だヨ。ギザは波動を帯びた攻撃では壊れないからネ」

「どういう事だ?」


 メガは嬉しそうに自身の最高傑作の紹介をする。


「あの黒い金属は“メガ・ブラック”――波動を完全に拒絶する特殊な鉱石を用いて作った物だヨ」

「そんな物がこの世に存在したのか」

「とある国の紛争地帯で採れる希少な物だヨ」

「もしかして、その国って――」

 

 とある国、その言葉が来人の中で繋がった。


「ああ、流石ライトは聡いネ。ギザの生まれ故郷だヨ」


 メガはギザとの馴れ初めを語る。

 その間にも、ギザは『盾』の鬼と戦い続ける。


「ギザの生まれ故郷は紛争地帯で、その戦火に幼いギザは巻き込まれてしまった。丁度その時、ボクがメガ・ブラックの採掘に赴ていたんだヨ」

 

 ギザと鬼は互いに殴り合うが、鬼の堅牢な盾はギザの打撃を全て防ぎ切り、一方的にギザだけがダメージを負い続けている。


「ギザを助けたのは気まぐれだった。もはや死にかけのギザから脳を摘出し、手に入れたばかりのメガ・ブラックで肉体を再構築した。つまり――」

「――つまり、ワタシはサイボーグなのデスよ!」


 サイボーグ女子高生社長のその言葉と同時に、掌底打ち。

 するとこれまでとは比べ物にならない程の衝撃。

 その一撃によって、鬼の盾が砕け散る。


「――『ギザ・バウンド』」


 ギザの必殺技が、炸裂。


「そして、メガ・ブラックと対を成すもう一つの鉱石。名を“メガ・ホワイト”――波動を拒絶するメガ・ブラックとは真逆の、波動を吸収して内側に記憶する性質が有るんだヨ」

「鬼の攻撃のダメージをブラックの肉体で実質無効化しつつ、ホワイトに吸収して溜め込んだ後倍にして解き放つ。それがギザの必殺技なのデス!」

 

 神の力――スキルを用いずに、魔法と見紛う程の科学技術の力によって、鬼の上位個体が撃破されてしまった。

 いや、そんなはずは無い。


「おいおい、食べ残しがいっぱいだぜ?」


 いち早くそれに反応したのは陸だった。

 いつの間にか、『盾』の鬼が背後から襲い掛かって来ていた。

 陸は神化して盾の攻撃を大鎌で受け、『炎』のスキルで燃やし尽くした。

 二匹目の『盾』の鬼が討たれる。


「こいつ、さっきギザが倒したはずじゃ……」

「百鬼夜行は鬼の群れ――なるほど。小鬼が居ないのは不自然だと思っていたが、『盾』の鬼は複数体で一体の上位個体、という事だネ」


 そして、そうしている内に周囲から同じ『盾』の鬼が何体も出現。

 一行の周りを取り囲む。


「――メガ、美海を頼めるか?」


 来人の髪が白金に染まる。

 

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