影武者CEO、ギザ

 そうしている内に、結構な時間が経っていたらしい。

 美海と奈緒の社内見学の案内をしていたギザが戻って来た。

 

「メガさん、ただいま戻ったのデス」


 先程の私服姿とは違い、学生服の上に白衣を纏った格好に変わっている。

 これが彼女の研究所ラボでも正装なのかもしれない。


「ああ、お帰りギザ。そっちはどうだった?」

「ナオはトレーニングルームに興味を示して、そっちに夢中になっちゃったのデス。なので――」

「――来人! 私もこっちに来ちゃった!」

「美海ちゃん!?」


 研究所ラボの方に美海もやって来た。

 まあしかし、美海にも神様の事については伝えているので、問題は無いのかもしれない。

 ここが秘密の研究所ラボという点を除けば。


「トレーニングルームも凄かったんだよ! 普通のジムよりも色んな施設が揃っていて、奈緒も喜んでた!」

「そうなんだ、みんな楽しそうで良かったよ」


 美海たちもメガコーポレーションの社内見学を楽しんでいた様だ。

 そんな様子を見てメガははぁと大きく溜息を吐いているが、お構いなしで美海はメガのところまで行って、そのまま抱き抱えた。


「うわっ、ちょっと、止めるネ」

「よーしよし、君も可愛いわね~。君がギザの言ってたメガ?」

「そうだけど……」

「そっか、メガもよろしくね~」

「うぎゃー!」


 そのまま美海はメガの座っていた椅子に座る。

 一応神様の事やガイア族の事についても来人が伝えたはずだが、この感じだとちょっと喋る犬くらいに思っていそうだ。

 しかし、メガも可愛い女の子に抱っこされて満更でも無いのか、すぐに大人しくなって美海のされるがまま。


 そんな犬とじゃれる美海の様子を眺めていると、ギザが来人の方に寄って来る。


「やっとライト先輩とゆっくりお話出来るのデスよ。噂にたがわぬ良い男なのデス」

「あ、こら! ギザー? 私の来人を口説かないの!」

「ごめんなのデス。ミミの男を取ったりはしないのデス」

「あはは……」


 いつの間にか美海とギザ、二人の女の子に挟まれてしまった来人。

 それを誤魔化す為に、適当に美海の真似をしてガーネを抱き上げつつ別の話題を投げる。

 

「でも、ギザは何で僕の事を先輩と――あ、そうか」


 言いかけてから、すぐに気づいた。

 ギザが白衣の下に着ている制服が来人と美海の通っている高校と同じ物だ。


「はい。ワタシは先輩の後輩なのデスよ」

「ボクは学校何て行かなくても良いって言ったんだけどネ。でも、ギザがどうしても青春を体験したいと言うから――」


 ギザの答えに、メガが横から小言を入れる。

 メガが本来の代表であり、ギザはその影武者に当たる。

 それ故の上下関係が会話の端々から垣間見える。

 

「だって、ワタシの居た国では学校何て通えなかったんデスよ? 知識や技術はメガさんから学べても、それだけは他では得られないモノなのデス」

「そっか、ギザは外国の出身だから」

「なのデス。お友達になってくれたミミたちには感謝なのデス。まあ、メガコーポレーションのお仕事が忙しくてあまり通えてはいないのデスが」


 そう言った感じで、ギザはどこか遠くの学校も通えない様な国から影武者役としてメガに連れて来られたらしい。

 それでも別に無理やりではないし、本人も楽しそうなので上下関係は有っても利害の一致したウィンウィンの関係だ。

 

「ま、それよりも。折角ギザも戻って来た事だし、最後にボクの最高傑作を見せてあげるヨ」

「最高傑作?」

「ああ、きっとライトも驚くヨ」


 魂のスキャンや異界の映像を撮影したドローン、それらのメガの技術に良いリアクションを見せていた来人たちに気を良くしたメガが、うきうきで次の玩具を自慢したがっている。

 何だかんだで、秘密裏に発明していたあれやこれを見せたがる、子供の様に可愛いらしい一面だ。


「俺はさっき話していたトレーニングルームを使わせてもらいたいんだが、構わないか?」

「ええ、大丈夫デスよ。これ、社内の施設を利用できるフリーパスなので、お持ちくださいなのデス」


 ギザはテイテイにフリーパスを手渡す。


「あれ? テイテイ君はメガの最高傑作見て行かないの? 面白そうなのに」

「ああ。『赫』の鬼との対決も近い、少しでも鍛えておきたいんだ」

「そっか、分かった。頑張ってね」


 テイテイはトレーニングルームの方へ向かった。

 もしかすると身体を鍛えるついでに奈緒に会いに行ったのかもしれない。


「よし、それじゃあ丁度小さな異界の発生地点が近いから、そこでお披露目としようか。ギザ、準備しておくんだヨ」

「はい、メガさん。承知なのデス」


 どうやら、話から察するに最高傑作というのは対鬼の戦闘用兵器の様だ。

 しかも、異界――つまり、上位個体の鬼を倒せる自信が有る程の傑作らしい。

 

 来人がメガの指す“異界の発生地点”を覗き見ると、地図上に表示されたその位置に覚えが有った。


「あ、この辺りって陸の狩場が近いから駄目かも」


 それは以前来人が行った寂れた公園の近くで、陸の活動範囲内だった。

 また神化して戦闘モードの陸と遭遇すれば、揉めてしまうかもしれない。


「む、リクと言うと、もう一人の半神半人ハーフだったか」

「そうそう、下手に陸の邪魔すると鎌で襲われるよ」


 メガは「うーん」と少し考え込み、そして再び口を開く。


「――よし、じゃあライトからリクに取り計らってくれヨ。ボクたちは核を必要としていないから、狩った分の核は上げると言えば問題無いんじゃないかネ?」

「うーん……大丈夫かなあ」


 来人は不安になりつつも、陸に連絡を取る。

 なんだかんだ仲良くなったので、連絡先を交換していた二人だった。

 

 そうしてメッセージを送ると、陸からはすぐに返信が来て、二つ返事の了承の意。

 親指を立てたサムズアップのスタンプが返って来た。

 陸の扱い方が何となく分かって来た、神化する前の冷静な内に話を付けるのだ。


「あ、おっけーだってさ」

「よし、それじゃあ行くヨ」


 そう言って、メガは美海の腕をするりと抜けて部屋の奥へと歩いて行く。


「あれ? そっちは入り口と反対側じゃー―」


 その問いに、ギザが答えてくれる。

 

「これもメガさんの発明――、その名も『ハッキング・ゲート』です」


 部屋の奥には機械で出来た扉の枠縁だけが有った。

 そこからは何本もの太い機械のくだが伸びていて、如何にもメカメカしい。

 

 メガがその扉の枠縁の横にあるノートパソコンを操作して起動すると、枠縁の中に白い光が現れる。

 その白い光を来人は知っていた。

 それは、天界に行くときに通った扉の光と同じ物だ。


「天界へ行くの?」

「いいや。これは世界中にある天界へ繋がるゲートを文字通りハッキングして、横から割り込む装置だヨ。今これが繋がっているのは天界側ではなく、地球側の扉。つまり、地球上のあらゆる場所に好き放題移動出来るんだヨ」


 天界へ繋がるゲート、あの神々の紋章が目印の「1・0・5・9」のパスワードで天界へ繋がる隠し扉の事だ。

 つまり、以前に来人が陸たちと一緒に天界へ行くときに通った、あの廃アパート群の扉にもここから一瞬で行けるのだ。

 

「ええ……、ハッキングって……。それ、まずいんじゃ……」

「そうデスね。天界にバレるとぶち殺されるので、ライト先輩も秘密にしておいてください」

「ぶ、ぶちころ……」


 勝手に犯罪の片棒を担がされた来人だった。

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