一騎当千の父

「――という訳で、非常に小規模な物でしたが、日本での百鬼夜行の第一波を確認しました」

「うむ、ご苦労だったね」


 来人の言葉に、アナは満足気に頷いて応える。


 来人はまた天界の王の間へと来ていた。

 先日、ショッピングモールで発生した異界――百鬼夜行の最初の波をユウリと共に撃破した。

 今日はその報告と、両手で抱える程の大きな核の換金の為の訪問だ。


「百鬼夜行の本体が現れるまで、まだまだ異界の発生は続くだろう。気を引き締めて行こう」

「はい」

「ま、気楽にやればいいよ。ボクはここから動けないから応援してるね」


 アダンが気の抜けた声で真面目な空気を弛緩させる。

 

「あはは……。アダン君も、その内元に戻れるといいね」

「そうだね。でもその為には新たな王の擁立は必要不可欠だ。頑張ってね、ライト?」

「うーん、それはあまり期待しないで欲しいけど……」

 

 結局、最初の邂逅の接し方が抜けずに来人は初代神王アダンを“アダン君”と呼ぶフレンドリーな関係性に落ち着いてしまっている。

 しかし、他の純血主義の神々にその様子を見られるとまた厄介な事になりそうなので、来人自身は公的な場ではちゃんとしようと思ってはいる。


「それよりも、日本以外の百鬼夜行はどんな感じですか?」


 百鬼夜行は世界各地で断続的に発生している。

 来人の手が届くのは日本の、それも限定的な範囲だけだ。

 もしかすると、海外で発生した異界に秋斗の仇の鬼――『あか』の鬼が居たかもしれない。

 来人はそれが気になっていた。


「うん? そうだね。ヨーロッパの方にはゼウスの部隊たちが派遣されている、あっちは問題ないだろう」

「ゼウスって言うと、確か――」


 確か、陸が以前にその名を出していたはずだ。


「ああ、三代目候補のティルの祖父に当たる、古い神だね」


(ティルかぁ……)


 来人は以前に混血だなんだとの理由で来人たちに突っかかって来たので、あまりいい印象を持っていなかった。

 まあ、ライバル関係なので敵対心を持つこと自体は普通の事では有るのだが……。


「ははっ、ウルスにちょっと話は聞いたよ。喧嘩してんだってね?」

「喧嘩っていうか、まあそんな感じかな」


 喧嘩出来る程仲良くはないので、あれは普通に嫌われているのだ。

 しかし、祖父であるウルスからすれば孫たちの争い事は全て子供の喧嘩扱いなのだろう。


「あと、北米には君の父親ライジンが向かっているよ」

「そうなんですね、父さんが――」


 そこで、来人はアナの言い方に少し違和感を感じた。


「待ってください」

「どうした?」

「今“ライジンが”と言いました? “ライジンの部隊たちが”ではなくて」

「ああ、そう言ったね」


 アナはさも当然と言った様に頷く。


「つまり、父さんは単身で北米の異界を……?」

「ああ、そうだね」

「ええ……、それ、大丈夫なんですか?」


 ヨーロッパには部隊を導入して北米にはたった一人、もしかして天界はそんなに人手不足なのだろうか。


「ああ、気にしないでいいよ。ライジンは特別だから、下手な奴を行かせるとかえって足手まといだ」


 父来神はとても強いと聞いていたが、それ程だったとは。

 来人自身も直近で『あぎと』と『針』の二体の上位個体と戦っているから、その強さは分かっているつもりだ。

 単身で北米全土の百鬼夜行を掃討するとなると、その強さは計り知れない。

 来人は流石に驚きを隠せなかった。

 

「ま、キミもそのライジンの息子な訳だから、ボクとしては期待しているんだよ?」

「まあ、お手柔らかに」


 来人からすると、どれだけ父親が強くても来人自身は半分は人間なのだ。

 あまり期待されては困る。


「でも、流石に最後の波には応援を寄越そうと思っている」

「どうだろうね? 案外、さっくり全部やっちゃうかもよ?」

 

(父さん、大丈夫かなあ……)


 滅茶苦茶期待されているのか、来神は訳の分からない量の仕事を押し付けられている。

 いや、来神はあまり天界に顔を出さないと言っていたし、都合よく使われている気がしなくも無い。

 どちらにせよ、百鬼夜行という大仕事をワンオペさせる天界は間違いなくブラック企業だ。

 

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