もう一本の柱

「何ッ……!?」


 確実に攻撃が通ったと思っていた陸は、驚きの声を上げる。


「らいたん! それは――」

 

 柱である十字架を弾き飛ばされたはずの来人の手には、もう一本の金色の剣。

 その剣の柄と刀身の間には「く」の字と「V」の字の広がった方同士を合わせた特徴的な“王の証の意匠”が残っている。

 来人の二本目の魂の柱――王の証の剣だ。


 来人はその二本目の剣で陸の鎌を受け止める。


「――継承戦なんてどうでもいい。でも、俺は秋斗の仇を討つんだ。――だから、こんな所で、負ける訳にはいかない」


 そして、弾く。


「――はあああぁぁ!!!」


 そして、来人が王の証の剣の切先を陸に突き付ける。

 その切先からは“泡”が産み出され、水球の弾丸となって放たれる。

 来人の二つ目のスキル、それは陸の『炎』を掻き消す水――『泡沫ほうまつ』のスキル


「ぐあああああ!!!」


 『泡沫』のスキル、バブルの弾丸を受けて後方へ吹き飛ばされる陸。

 陸の鎌に纏っていた炎も鎮火し、手元を弾かれる。

 

 主の元を離れた柱はその形を鎌から王の証へと戻し、からんと地面に落ちる。


 来人の隠していた懐刀、王の証。

 見事陸の裏を掻き、形勢逆転。


 しかし、陸も折れない。

 

「クソッ! まだだァ!! オレ様にだって、負けられねえ理由があんだよォ!!」

 

 陸はむくりと身体を起こし、後方へと腕を伸ばす。

 すると、弾かれた王の証はひとりでに動き出し、陸の手元へ戻って再び鎌の形を成す。


「なるほど、そういう事も出来るのか。なら――」


 来人はそれを見て、自分も砂山に刺さる十字架へと手を伸ばす。

 すると、同じく魂の柱たる絆の三十字さんじゅうじもまた来人の手へと帰って来て、剣の形を成す。

 

 来人の右手には十字架の剣、左手には王の証の剣。

 金色の二刀流だ。


 陸は鎌の先で炎を練り上げ、巨大な炎球を作り上げる。

 そして、来人もまた二本の切先にバブルを作り出し、対抗する。


 『炎』と『泡沫』、相反する二色のスキルが、ぶつかり合う。

 互いに譲れぬ物の為に、目的の為に。


 そして、二人の全力の攻撃が放たれようとした、その時――。


「ちょっと、待ったー!!」


 間にユウリが割って入って来た。

 ユウリの放った『結晶』の弾丸によって、二人の作り出していた炎球とバブル――王の血筋の二人の神の作り出した渾身の技が、一撃で弾け飛ぶ。


「ちょ、ユウリ先生!?」

「なっ……誰だ?」


 驚く来人と、再びの見知らぬ神の来襲に怪訝な表情を浮かべる陸。


「こらっ! 継承戦前に勝手に戦ってどうするんですか!」


 どこから持って来たのか、はりせんで二人の頭をぺしりと叩く。


「「いや、でも――」」


 二人が言い訳を並べようとする。

 しかし――、


「でもやだってじゃありません! そこに座りなさい!」

 

 ユウリ先生のお叱りを受けて、その場で正座させられる来人と陸。

 すっかり毒気を抜かれた二人。

 

 二人の柱は元の形に戻っていて、来人の髪色も白金から茶へ。

 そして、陸の髪も黒になっていた。


「あはは、怒られちゃったねー」


 陸は先程までと打って変わって、照れ臭そうに優しい声色で話しかけて来る。

 

「うぇっ!? お前、そんなキャラだっけ……?」

「陸は戦闘になると頭に血が上って、人が変わるのさ」


 モシャが補足してくれた。

 つまり、この柔らかな方の陸が本来の性格なのだろう。


「いや、ならお前が止めるネ」

「むりむり。俺には出来ないよ」

「諦めるなネ!」


 旧知の仲らしいガーネとモシャは何やらじゃれ合っている。


 話してみれば、陸は何てことない優しい青年だった。

 ただ自分の狩場に知らない神が居たものだから、得物を横取りしに来たのかとついかっとなったのだと言う。

 

「――って、二人共、聞いてますか?」

「はいっ」

「ごめんなさーい」


 その後、二人はしばらくユウリ先生のお説教を聞く事になるのだった。

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