『炎』の色

 来人はもう一人の神王しんおう候補者、陸と対峙する。


「はぁっ!!」

「おらああああ!!!」


 来人は十字架の剣を振るい、陸は大鎌を振り回す。

 互いに金色の弧を描き、刃と刃がぶつかり合う。


「なかなかやるじゃねえか。――なら、少し本気を出してやるか」


 数度の打ち合いの跡、陸は自身のスキルを発動させた。


「――陸のスキルは『炎』。全てを焼き尽くす、神の炎さ」


 陸の持つ王の証の大鎌、その刃に炎を纏う。


「――おらおらァ!! その程度かァ!?」


 陸はその炎を纏う煉獄の鎌を、まるで燃え盛る業火の様に激しく、それでいて舞う様に振るう。

 右から刃が向かって来るかと思えば、今度は左。

 激しい大鎌のラッシュが来人を襲う。


「ぐっ……」

 

 来人はその炎をなんとか剣で受け、いなす。

 しかし、ただでさえリーチの長い大鎌の攻撃に加えて、炎纏う事によって更にそのリーチは伸びている。

 炎が掠めるだけで、肌を焼く。

 来人の十字架の剣の有効範囲まで入り込めない。


 しかし、来人の『鎖』のスキルも負けてはいない。

 鍔迫り合いの間に鎖を巻き取る高速移動を絡めて縦横無尽に動き、手数で対抗する。

 

 しかし、陸はその高速移動も見切ったかの様に対応し、背後に回っても長い鎌の柄で防がれてしまい、ついには手数が追いつかれる。

 

「終わりだァ!!」

「しまっ――」


 来人の十字架の剣が陸の大鎌によって絡め捕られ、弾かれる。

 金色の剣の形をしていた柱は、主の手を離れて十字架へと戻り、砂場に刺さる。

 

 陸の持つ大鎌の纏う炎がより激しさを増す。

 そして、返しの刃でより強く大きな炎の斬撃が繰り出される。

 そのまま受ければ焼き殺されてしまうだろう。


「らいたん!!」


 ガーネは全力で波動を注ぎ込み、『氷』のスキルを発動。

 吹雪を起こしてモシャの作り出す風の壁を相殺する。

 しかし、来人の元へは間に合わない。


 大鎌が、来人に降り下ろされる。


 ――来人はユウリ先生の授業を思い出す。

 

 神の力は想像を創造する。

 しかし、それも無制限では無い。

 何故神は『鎖』や『氷』の様にスキルとして特定のイメージをメインとして使うのか。

 それはイメージを具現化するまでのタイムラグだ。


 自分中に強く残るイメージを魂の柱と紐づけて、器の上でスキルとして固定しておくことで、その力はいつでも即座に呼び出せる。

 逆に新たな物を想像しようとすれば、その骨格や形状、材質など全てをゼロからイメージして構築する必要が有るので、咄嗟の戦闘で上手く活用出来ないのだ。

 勿論スキルを幾つも魂の器に固定してしまえば、その分容量を食ってしまうし、器の世界には来人が夢で見た様に記憶なんかも保存されているのでその全てをスキルの固定には充てられない。

 

 パレットの上が絵の具でいっぱいになってしまえば、新たな色を調色する場所が無い。

 白い余白を残しておく事で、初めて赤と青を混ぜて紫を作る事が出来るのだ。


 ――来人君は、わたしよりも遥かに強い素質を持っています。

 

 普通の神々は魂の柱と紐づけたスキルを一つ持つのがやっと。

 スキルを二つも三つも持てる神は、それだけ器に余裕が有る者だけだ。

 

 しかし裏を返せば、スキルを二つ持てる程に器に余裕が有れば、そしてスキルと紐づけられる柱を二本持っていれば、それは理論上可能なのである。

 つまり――、

 

 ――王の血を継ぎ、破格の器と波動を持った来人君なら、出来るはずです。


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