もう一歩先へ

 結局、美海は弁当の材料を買いに行くからとそのまま帰って行った。

 そう言えば何しに来たのかな、と思って聞いてみると、わざわざ心配させまいと元気な姿を見せに来てくれたらしい。

 可愛い奴め、うりうり。とじゃれていると、また生暖かい視線を感じて自重した来人だった。


 

 その後、テイテイも自分の家に届いた荷物の片付けにと帰って行った。

 そして来人とガーネは鬼退治にも慣れて来たから今日は少し遠出してみようと、鬼の反応を追って普段の生活圏を離れた所まで来ていた。

 ユウリは照子に捕まっていたので、後から合流するとの事。

 

 白金の髪の青年と、白銀の体毛の猟犬。

 屋根を足場に跳んでいるが、道行く人らは来人たちに注目する事は無い。

 まるで見えていないみたいだ。

 

 というのも、普通の人間は意識しなければ神々を認識できない。

 普通に生きていて神様を見た事があるだろうか?

 いや、一般的にそう言う経験をした事がある者は居ないだろう。

 

 神様というのは見えない事が、認識できない事が当たり前なのだ。

 もっとも、存在を心の底から信じている信仰の強い者や神との契約者、そして強い波動を持つ者なんかは例外だが。


「この辺は土地勘も無いはずなんだが、意外と迷わないもんだな」

「ある程度走れば辺りの地形くらい想像出来るネ」

「そういうもんか」


 想像を創造する、神だからこそ可能な芸当だろう。


「近いネ」


 そうして辿り着いたのは、無人の寂れた公園だった。

 

 その公園には四足歩行の獣の様な姿をした鬼。

 そして、傍には子供の様な小さな人影が倒れている。


「――!?」


 既に犠牲者が。

 しかし、もしかするとまだ生きているかもしれない。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 焦りから、咄嗟に身体は子供の方へと駆け寄る。

 しかし――、


「らいたん、危ないネ!」


 子供へと近寄ろうとした来人を、ガーネの声が静止する。

 反射的に身体を横へ捻る来人。


「がっ……ぐあぁ……」


 来人は脇腹を太い棘で抉られ、倒れ込む。

 見れば、その棘は子供の身体から何本も突き出ていた。

 

 いや、これは子供ではない。

 子供台のサイズで遠目では人型の様に見えるが、近づけば分かる。

 これは、人の子を模した釣り餌だ。

 

 その疑似餌は獣の鬼の尻尾に繋がっている。

 鬼から伸びた尻尾の先が人の子を模していて、それを餌として近づいて来た相手を棘で襲う仕掛けだ。

 

 アンキロサウルスの様な姿をしたその鬼は尻尾をぶんぶんと振り回し、棘がいくつも生えた尻尾の先をまるでモーニングスターの様に扱う。

 その棘玉の一撃が来人に向かって振りかざされるが、十字架の剣で受け止める。

 

 その隙にガーネが『氷』の斬撃を獣の鬼へ放ち、鬼は一歩退行。

 同時に棘玉も引き戻され、来人も体勢を立て直す。


「大丈夫ネ?」

「ああ、すまん。油断した」


 初めて見るタイプの鬼だ。

 まさか、こんな絡め手を使って来るとは。

 しかし、やる事は変わらない。


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