器の世界
二人と一匹は階段を上り、来人の部屋へ。
テイテイはガーネを抱き上げて膝の上に置いて、椅子に座る。
「ああ、これ――」
そう言ってテイテイが興味を示したのは来人の机の上に置いてある小箱だ。
それを開ければ、中には
来人の物でも無く、テイテイの物でもないそれは、亡き秋斗の形見だ。
「うん、もうすぐ命日だからね。墓参りの時に持って行こうと思って」
「そうだな。行く時は誘ってくれ、一緒に行こう」
そう話していると、テイテイの膝の上に居たガーネが口を挟む。
「ネはその秋斗に会った事が無いネ、どんな奴だったんだネ?」
「ああ、そういやそうだな」
秋斗が亡くなったのは十歳の頃の事で、ガーネが来たのはそれよりも後の事だ。
「秋斗は良い奴だったよ、誰にでも優しかった」
「でも、会った頃は苛められてたよな」
「射的が上手かったから、祭りの時期は僕たちのヒーローだったよね」
「ああ、一発ででかいプラモを三枚抜きした時はびっくりした」
来人とテイテイは口々に思い出を語る。
「……大好きだったんだネ」
「ああ」
「もちろんだ」
しかし、その秋斗はもう居ない。
鬼の手によって、殺されてしまった。
その少ししんみりとしてしまった空気を変えようと、ガーネが明るく口を開く。
「ところで、らいたん。そろそろ核を持って天界へ行こうと思うネ」
「ああ、そうだ。働いた分のお給料貰わないとね」
天界へ行くのは以前にイリスに無理やり物置の扉に押し込められた時以来だ。
また天界へ行けばアダンに会えるのだろうか。
「だネ。いっぱい頑張ったネ」
ガーネが口の奥から核の入った袋をげろりと出す。
じゃらりと小さな袋の中に中身の詰まった音が鳴る。
「それどうなってんだ?」
「ちょ、やめるネ!」
テイテイがそれに興味を示して、ガーネの口の周りを物色し始めた。
その微笑ましい様子を来人が笑ってみていると、揉みくちゃにされた勢いで今度はガーネの口からいつも戦闘時に使っている刀が飛び出て来た。
げろり。
「ネの愛刀が~」
来人が床に落ちたその刀を拾い上げる。
「これだって、どう見てもガーネの身体のサイズより長いよな」
「な、不思議なもんだ」
「弟がネの器を改造したおかげで、器の世界と口が繋がってるんだネ。いっぱい収納出来て便利だネ」
器、つまりは魂を魔改造している。
最初の授業でユウリが紙に描いた鳥を実体化させていたのと逆の原理で、実際の鳥を絵として紙の中に仕舞い込む、みたいなイメージだろうか。
「お前の弟、
「天才科学者だネ」
「犬、だよな……?」
「そうだネ」
テイテイが疑問の声を上げるが、ガーネの弟という事はガイア族だ。
メイドのイリスも同族だと言うのだから、犬の科学者が居ても今更だろう。
と、来人はそろそろ神様関係の不思議な事にも慣れて来た。
その日の夜、イリスの作ったご馳走を食べた後、二人は同じ部屋で眠った。
広い天野家には部屋も布団も来客用の物が用意されている。
そして――、
「うん? ここは……」
来人は、知らない場所に居た。
見渡せば、真っ白な空間が無限に広がっていて、その白い空間に泡の様な球体がいくつも浮かんでいた。
泡の中には記憶のビジョンが浮かんでいる。
どれも、これまでの来人の過去の記憶、思い出たちだ。
来人は不思議に思いつつも、辺りを見て回ろうと泡の森を掻き分けて歩を進めてみる。
数歩歩いた辺りで、じゃりんと金属音。
「これは、鎖……」
音は来人右腕からの物で、いつの間にか鎖が絡みついていた。
鎖の先は、白い空間の先に繋がっていた。
そして、何故だかその鎖の先にテイテイが居る気がした。
来人はゆっくりと鎖を辿って、その根元を目指す。
すると、無限の白の先から、人影が見えて来た。
向こうも来人の方へと向かって歩いてきている。
「――テイテイ君!」
来人は足早に駆けて行く。
近づいて見れば、テイテイの左腕にも同じ様に鎖が絡みついていた。
「来人。やっぱり居たのか」
「うん。僕もテイテイ君が居るんじゃないかって、そんな気がしてた」
「ここは夢の中――多分、来人の器の世界だ。ほら、来人の髪」
そう言って、テイテイが来人の頭を視線で指す。
自分では視界に入り辛く気付かなかったが、神の力を使っていないというのに、白金色に染まっていた。
「ほんとだ。でも、僕の世界なら、どうしてテイテイ君が?」
「契約しているから、じゃないか。この辺りの泡は、俺との思い出が集まっているみたいだ」
来人もそう言われて、周囲の泡を注視する。
確かにテイテイの言う通り、直近では一緒に夕食を食べたシーンが、そして古い物では出会った頃の一緒にボードゲームやスポーツで勝負した思い出が、泡の中に記憶のビジョンとして浮かんでいた。
器の世界――ガーネも昨晩そんな話をしていたな、と来人は思い返す。
どうやら契約を交わした魂同士は器の世界で繋がっているらしい。
そして、それが夢という形で現れたのだ。
「じゃあさ、もしかして、秋斗との思い出もどこかに――」
契約者であるテイテイとも器の世界で繋がっているのなら、同時に契約を交わした秋斗とも同じのはず。
そう来人が口にすると、今度は来人の左腕に絡みつく鎖が現れた。
まるで来人の想いに、想像に呼応するかの様に。
「行ってみよう」
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