馬車を買います

 せっかくルナと旅をするのだからいい馬車が欲しいな。それこそ幌馬車じゃなくて貴族が使っているような箱馬車でもいいかもしれない。


「ルナは幌馬車と箱馬車のどちらが良いと思う?」

「そうですね。御者さんがいるというのなら箱馬車でも問題ないと思いますが、そうでないのなら幌馬車にしたほうが意思の疎通は図りやすいと思います」


 なるほど。俺は浮かれてばかりでそういった考えはなかったな。御者も交代でしなければならないだろうから、幌馬車の方が優れているな。空間魔法が馬車にかかっているのなら話は別だけどそんな便利道具ないだろう。仮にあったとしても多分、国宝レベルの逸品な気がする。見てみたいなあ。おとぎ話でにも出てきそうな馬車。中に入ったら実はすごく広いです的なの。空間魔法の練習を真剣にしてみるか。


「なら幌馬車メインで見ていこう。幌馬車ならそこまで高くはないとおもうから中の居住性を増すためのオプションとかに資金を使えそうだな」

「乗り心地の向上は大事ですね」

「そう。のんびりとした旅には快適さも必須だろうからな。そこは妥協しないで付けられるものはつけていこう。後は予算と交渉だな」


 予算内に収まることを祈るばかりだ。大丈夫だとは思うけど。例の魔物の一部は俺に入ってくるわけだし、明日にでもギルドでいくら入っているか確認をしよう。きっととんでもない額になっているに違いない。


「ですね。なるべく大きなものがいいかもですね」

「その理由は?」

「荷物も沢山乗りますし、馬車の中で休めるだけの広さがあれば安心ですから」


 ルナの知見は参考になるな。俺の足りないところを補ってくれている。


「なるほどな。確かにテントではダメな時だってあるかもしれないもんな。それにアイテムボックスがあると言っても荷物がたくさん載せられるのは割と都合がいいかもしれない」


 俺のアイテムボックスは大きいとは言っても残念ながら限界はあるから長期の旅に必要な食糧なんかは積み込める方が嬉しいし、馬だというのなら飼い葉だって必要だろう。まさか魔物をテイムして使役するなんてことはないだろうし。


「ここか」

「奥にすごい数の馬車が見えますね」


 一件目の馬車屋だ。在庫は多いようだ。


「いらっしゃい。どんな馬車を探しているんだい?」

「長期的な旅をすることも可能な幌馬車を探している」

「なるほど。そうであれば、あのあたりからが幌馬車だな。もし値段を抑えたいのなら中古も取り扱ってるから言ってくれよ」


 ここの店主は若くて気さくだ。とりあえず馬車を見てもみよう。商品をみてからじゃないと買うことなどできないからな。


「これはどうなんだろうな。種類は多いけど、特段性能がいいものは少ないかもしれないな。それにホロが全体的に汚い」

「それは直せばいいですけど、車輪とかも傷が入っています。この店、中古がメインなのでは? それに新品であっても値段もかなり抑えられています。その分、品質に帰ってきているように見えます」

「それを聞くとちょっと怖いな。掘り出しものがあるかもしれないからもう少しだけ探してみてから二件目にいくか。そっちは当たりであってほしいよ」


 妥協をしないと決めている以上、この店で買う可能性はほとんどない。そもそも野ざらしで置いてあるのは仕方ないにしても値段くらい提示してあってもよいではないか。なんか信用できない店だな。おいてあった馬車もそこまで気にいるものがなかったので早々に切り上げて二件目に向かう。ギルドで紹介されているわけだから悪くはないと思うが何かあったのだろうか。それともこの世界ではこれが標準以上ということなのだろうか。ちょっとわからないけど、少し気落ちしてしまうな。


「次はきっといい馬車がありますよ」

「だといいな」


 歩く途中の足取りも重い。これは最悪オーダーで依頼することも視野に入れないといけないかもしれないな。もしくは既製品に相当手を加えるかのどちらかだな。


「ここか。ここも立派だな」

「ですねえ」


 立派な工房が併設されている立派な建物だ。さっきの店と違い、製造まで手掛けているようだ。ここならばオーダーも可能だろう。少し安心して見られそうだな。


「いらっしゃいませ。どのような馬車をお求めで?」


 出てきたのはきちんとした格好をしている老人だった。上流階級も相手にしている店であることはこの対応から嫌でも分かる。


「長期的旅をすることができる馬車が欲しい。箱馬車よりは幌馬車の方がいい。乗り心地優先で選びたい」

「左様でございますか。でしたら予算にもよりますが、基本となる型をお選びいただいたうえでお客様お望みのオプションをつけていくセミオーダーメイドの方がよろしいかもしれませんな」

「そういうことができるのか。フルオーダーよりは費用も抑えられそうだ。でもとりあえず既製品の方を見せてくれ」

「かしこまりました。こちらでございます」


 販売されている馬車には全て屋根がかかっており、雨がかからないようになっていた。この店は相当丁寧に馬車を扱っていることが分かる。


「これは既製品とは言っても相当いいものだな」

「ありがとうございます。こちらの馬車は当店でも売れ筋でございまして、乗り心地もかなりよいと評判の代物です」


 乗り心地は抜群なのか。でも車輪は木だし、結構揺れそうではあるな……。

 そこから一通り既製品を見たがどれも素晴らしいものばかりだ。話を聞くに、幌もかなり丈夫であるらしく、浸水してくることはほぼないという。浸水するにしても、その前に幌自体の寿命で交換の時期に差し掛かるとか。そんなことあるのか。


「さてと、オプションを付けられるとか言っていたな。そのカタログのようなものはあるのか?」

「はい、こちらでございます」


 大きめの本を出してきた。これがカタログなのか。


「ルナはどうだった?」

「さっきの店とは比較するまでもないと思います。買うのなら多少値が張ってもこちらの方が安全な気がします。正直、値段はびっくりですけど」

「そうか、とりあえずカタログを見てみようか」


 ルナのお墨付きがもらえたところでカタログを開いて中身を見ていく。


 荷台のサイズはもちろん、車輪の大きさや幌の種類まで選べる。なんなら荷台の床の木も選択できるのか。結構いいな。車輪の方の材質はなにかないかな……。おや、これは。


「この車輪について詳しく聞きたい」

「そちらの車輪は最近、開発された素材で作られておりまして、乗り心地も段違いとなるようですな。ですが使っている素材が非常に高価なこともありましてお値段も高くなっています」

「いくらくらいになる?」

「この車輪四本と馬車の値段が同じでございます。ですので倍以上の価格になってしまいます」


 倍の値段であっても全然出せるな。乗り心地が最高ならこの車輪にしようではないか。大きさについてはルナも俺も気に入ったサイズがあったのでそれにしよう。


「この車輪で荷台の大きさはこれで頼む。それから幌は丈夫なのにしてくれ」

「承知しました。契約書をお持ちしますので少々お待ち下さい」


 金の準備をしていく。これでもまったく懐は痛まない。大金貨二枚程度では痛くも痒くもないわい。でもよく考えなくても高額ではあるよな。地球で言ったらかなりいい車が買える値段じゃないか。馬車ではあるから車には違いないけど。


「お待たせしました。代金の方ですが、引き渡しの際で構いませんが購入金額の一割を前金としていただくことになっていますのでよろしくお願いいたします」


 前金だけで、今全額払わないといけないわけじゃないのか。それならそれで別にいいけど。


「分かった。これで頼む」


 老人は俺が出した金貨を丁寧に数えると問題がないといった。もうこれで契約はしたので後は完成を待つだけだ。時間がかかるかと思っていたが、意外にも数日でできるらしい。セミオーダーの強みということなのだろうか。なんにしてもいい馬車が買えてよかった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る