休日を楽しみます

 朝は遅い。昨日あれだけのことをしていたから、必然的に寝る時間も遅くなってしったのだ。結果、今日、俺とルナの朝は随分と日が昇ってからになっている。休みだからこそできる遅さでもある。こういう怠惰な行為もたまになら悪くない。


「おはようルナ」


 昨日遊んでいてそのまま俺と一緒のベッドで寝てしまったルナを起こす。なんだかすごい恰好になっているな。結局あのあと、ぬくもりを感じたくて手枷は外したのだが、なんだか甘えられてしまい、それがかわいくていじめたくなくなったのは秘密だ。


「うーん……ご主人様おはようございます」


 眠そうな目をこすっているな。昨日は楽しかっただろうか。まだそれは表情から読み取ることはできない。少なくとも俺は結構楽しませてもらったが。


「着替えたらでかけよう。色々なところを今日は行こうか。旅に必要な道具を一緒に見よう」

「ひゃい……楽しみですね」


 ルナはまだ寝ぼけている感じがする。外にある井戸で顔を洗えば眠気も取れるかな。ここの井戸、冷たくてこの季節は気持ちいい。冬なら凶悪な冷たさともいえるだろうけど。その井戸に行き、顔を洗うと、しっかりと眠気は飛んだし、引き締まった感じがする。ルナはというと、一瞬、ぶるっと震えていた。どうやら普段よりも冷たく感じたらしいが、おかげで眠気は冷めたらしい。せっかくの休日なのに寝ぼけて過ごしたらもったいないからよかった。


「まずは武器屋に行って剣のメンテナンスをお願いするから。ルナも短剣を見てもらうんだ」

「メンテナンスは大事ですもんね」


 一番最初に行くのは武器屋だ。あれだけの激闘のあとだ。何もなくとも絶対に本職に見てもらう。じゃないと実戦で使い物にならないなんてことが起こるかもしれない。不測の事態を防ぐためのリスクヘッジだ。絶対にやっておくべきだ。ルナの短剣も見てもらうようにいったが、当然同じ理由だ。


「そう備えあれば憂いなしと言うしな。備えは万全にしておかないと」


 そうしてこの前ルナの武器を買ったときと同じように武器屋には最初に行くことにした。


「武器屋の次は馬車でも見に行くか」

「いいと思います。どこにあるんでしょうか」

「俺もよく知らないんだよなあ。ギルドで聞いてみるか。いい所教えてくれるだろう」


 こういうよくわからないことは誰かに聞くのが一番だ。武器屋の用事はメンテナンスの依頼だけなので、さっさと終わらせてギルドに足早に向かう。


「少し聞きたいことがあるんだがいいか?」

「はいなんでしょうか」

「馬車を売っている店を紹介してほしい」


 ギルドの受付嬢は少々お待ちくださいと行って奥に行き棚から地図を出してきた。この街の地図のようだ。


「こちらのお店とこちらのお店の2件がギルドとして確実に斡旋できる業者になります」

「以前、教えてもらった服屋の近くなんだな」

「あのあたり区画の関係で大きな土地が確保しやすいようで、大きな敷地が必要になるお店が多いんです」

「そういう事情があるのか」


 二件とも近くにあるし両方見て比較できるな。手間も省けるしちょうどいい。


「ありがとう。助かったよ」

「いえ、また何かありましたらいつでもどうぞ」


 ギルドではこの程度のことなら聞けばいつでも丁寧かつ的確に教えてくれる。他の街のギルドでも同じかは分からないが、とてもありがたいと思っている。


「歩いていこうか。途中で買いたいものあったら都度寄ろう」


 ルナも欲しいものはあるだろう。そういえば、服屋にルナも予備の服注文してあるな。ついでに取りにいこう。メイド服も頼んであるからきっといいことできるぞ。


「ご主人様、昨日私とあれだけ遊んだのにいやらしい顔するだなんて何を考えていたんですか?」


 ジトっとした目で見られてしまった。まあ、割といやらしいこと想像していたから仕方ないかな。でもその目もそそるから違う場面でもう少し見せて欲しいかな。奴隷商で見せてくれたあのきつい目線はたまらないものがあったからな。


「どうしたんですか?」

「いや、ルナも最初に俺のところに来てもらってから日は浅いけど、表情とかそこら辺が随分と穏やかになったと思ったんだ」

「そう、ですかね。そうだったとしたら、ご主人様が、安心できる環境を整えてくださったからじゃないでしょうか。人は誰しも、極限というか厳しい環境に置かれればその通りの表情になりますから……」


 そう言って遠い眼をする。あえて聞こうとしないほうがいいのだろう。ルナもきっと、いや確実に奴隷商で散々な目にあっていることは想像に難くない。奴隷にされた状況を聞いても、身体が綺麗なままだったのも奇跡と言っていいかもしれない。それ以外では何かあった可能性の方が高いだろうが。


「これからも出来る限りルナが幸せを感じることができるようには努めるから穏やかなままでいてくれよ」

「それは私が意識していないので分からないです。でもご主人様がご主人様である限りは私は幸せと言いますから」


 嬉しいこと言ってくれるなあ。ここで思い切り抱きしめてしまいそうなほどに愛おしい。奴隷とこんな関係性もいいではないか。


「さ、言い忘れそうになっていたけど、馬車を見る前に服屋で頼んでいた品物受け取るから」

「あ、そういえば私の服をたくさん注文していたんでした。あんなに必要だったんでしょうかね」


 ルナにも言われてしまったが別にいいじゃないか。それで生活に困ることはないんだし。それにアイテムボックスに入れておくのだから場所だって取らないし。あ、ついでに水着みたいなのも買っておくか。ルナに会う前、面白い施設のこと聞いたし、水着だってあってもいいじゃないか。俺も持っていないし。


「水着も買おう。これから旅の段階で使うかもしれないし」

「水着ですか……着たことも買ったこともないです」


 ルナは着たことがないらしいが、この世界、どういうわけかこういった手合いのものは非常に発展している。昔地球で縫製とかに詳しい転生者でもいたのかもしれないな。


もしくはあの神様の気まぐれでそういった部分だけ発達させたのか。いずれにしても現代に近い服や下着をつけられる点で違和感なく生活できているからありがたいことではあるのだが。


「あの服屋で買うからあの店員の変態性は置いておけば腕は間違いないし大丈夫だろう」

「ああ、あの店員さんですか。目つきと手つきがすごく怖かったことを覚えています」

「ははは……」


 乾いた笑いしか出せないぞ。あの店員ルナに何をしていたと言うんだ。今回はそれがないことを祈るしかないな。あと、これ以上被害者も増えないことを祈っておこう。





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