連携できたけど油断大敵です

「さあ、食事が終わったら早く寝よう」

「あ、私が見張りをします」


 あ、そういえば具体的には言っていなかったかな。


「寝ていて大丈夫だぞ」

「え、でもそしたらご主人様の休む時間が……」


 俺の心配をしてくれるとは、なんていい子なんだ。


「何を感動しているか分かりませんが、なんで大丈夫なんですか?」

「ああ、それは俺の張った魔法のおかげだな。さっき、認識阻害の魔法と言ったけどな、俺のそれは特別仕様で夜間でもそれこそドラゴンとかの超高位の魔物でもない限り、襲われることはないんだ。つまり、夜間の見張りも基本的に必要ない。さすがに場所にはよるけど、今回の依頼の間は問題なく対処してくれるだろう」

「防御系の魔法って便利なんですね」


 ルナが感嘆している。けど、これが普通だとは思ってほしくないな。


「一応、言っておくけど、この魔法の威力は普通じゃないからな」

「そうなんですか?」


 やっぱりルナはこれを普通の魔法と思っているかもしれない。その認識は早めに改めてもらわないとこれから魔法を習得していくうえで障壁となってしまうかもしれないな。


「そうだ。よく考えてみろ。もし、こんな魔法があったら世の中の冒険者はもっと積極的に依頼をこなしていくと思わないか?」

「確かにそうですね。私の故郷でも依頼を出しても日数の問題で受けてくれる冒険者がなかなかいなくて苦労したことがありました」


 そんなことがあったのか。ということはルナの故郷というのは結構街から離れた山の中にあるのかもしれない。


「そう、つまり冒険者の活動においての最大の障壁は移動をきちんとできるか、もっと言えば夜無事に何かしらに襲われずに済むかどうかということなんだ」

「えっと、ご主人様のお話から想像するに、今発動させている魔法は普通ではないとそういうことですか?」

「そういうことだ。だからこれ普通と思わないでいて欲しいということなんだ」


 ルナもこれで納得してくれただろう。


「さ、分かったのなら綺麗な星空を眺めて明日のために寝よう」

「はい、あの……いえなんでもないです」


 何か言いかけたみたいだけど、何が言いたいのだろう。でも今は言う気持ちにならないなら言う気になるまで待とう。

 テントに入って、寝る。こうやって外でも安心して寝られるというのは本当に嬉しいかぎりだ。


「私はずっと軍とか冒険者とか力のある人に守ってもらう立場だと思っていました。でも、今私がそういう風に誰かを守れるかもしれないっていうのはなんだか誇らしいです」

「そしたらその誇りのためにちゃんと強くならないとな」


 ルナがさっき言いかけたことではないだろう。でもこうやって危険でもある冒険者の仕事を前向きにとらえてくれてるのはいいことだ。鍛えがいがあるというものだ。それにしてもルナも変態プレイを要求してこないなんて、TPOとやらはわきまえているということか。もし、今日要求したら雷を落とさないといけなかったかもしれなかった。


「明日も頑張ります。おやすみなさいです」

「ああお休み」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ん……、朝か」


 森での朝は半袖で過ごせるような気候であっても肌寒く感じる。まして陽が昇ってすぐに起きるのだからそれも尚更だ。


「ルナも起きるんだ。朝飯を食べてしっかりと進むぞ」

「はいぃ……」


 少し眠そうだが、睡眠時間自体は結構とることが出来ているはずなので昨日の疲労が多分に残ってるということはないだろう。今日は二人で初めて連携をするしちょっと気合をいれないとな。


「さあ行くぞ」


 簡単な朝食を食べたら片付けをしてテントなどをアイテムボックスにしまい、装備を整えて出発の準備をする。


「それじゃ、魔法を解除するぞ」

「連携頑張ります」


 ルナも大丈夫そうだったので、魔法を解除して先へと進む。森の中なので代わり映えのしない光景だ。昨日からずっと同じものばかりを見ているとなんだか時間間隔や方向が分かりにくくなってくるが、そこは何とかするしかない。それにしてもなんだか、今日は落ち着かないな。こちらへ向かっているものはないけど、なんだか魔物の気配が普段よりも強い気がする。よくわからないけど、警戒をするに越したことはないな。


「この森、いつもより魔物の気配が多い気がするから注意してくれ」

「……気を付けます」


 ルナも気を引き締めたようだ。でもそれにしては、少し憎しみを感じる表情をしている。どうしたのだろうか。ルナは笑ってる方が可愛いのに。

 警戒したまま、しばらく歩いているとようやく魔物に遭遇した。朝っぱらから蜘蛛に遭遇するとはなんか気分が滅入る。でも、まだ中サイズくらいなのが幸いか。危険度もそこまでないが、魔物としての大きさはそうでもなかったとしても、蜘蛛として大きいことに変わりはないのでちょっと、というかかなり抵抗がある。もしかしたらルナの方が耐性があるかもしれない。


「大きいですね」

「言っている場合か! 昨日話した通りだ。行くぞ!」


 ルナは素早く魔法を発動させ、蜘蛛に浴びせた。俺はそれを確認してから蜘蛛に切りかかる。ここまでの連携は上手くいっている。後は俺が切ればおわりだ!


「しまっ……!」

「危ない!」


 蜘蛛が苦し紛れか毒を乱発して、それが俺にあたる寸ででルナがそれをはじいてくれた。


「この野郎ぅ……なめやがってからに」


 こういうときには焦らないことが大事だ。毒がある生物はやっかいだ。俺もルナがいて二人だからと心のどこかで少し油断していた。反省しなくちゃいけない。ルナに攻撃を止めてもらったおかげで、勢いを止めることなく、剣を入れることが出来た。


「さっきは助かった」

「いえ、この蜘蛛、しぶといですね」


 俺が剣を入れて、頭と胴体が真っ二つになっているというのにまだ動いている。魔物にはこんなのもいる。でもこれを無暗に傷つけるわけにもいかない。


「本当にな……こういう魔物は耐久力は素晴らしいんだよ。それだけにこの蜘蛛から得られる素材は高額で取引されている。これは少し小さいから値段は落ちるだろうけどな」

「これも素材になるなんて、毒だってあるのに最初にこれを利用しようと考えた人は色々な意味ですごいですね」

「まったくだよ。そういう一部のすごい変態たちのおかげで今の生活が成り立っていると思うと変態も馬鹿には出来ないよな」


 見た目どうこうの前に、あくまでも蜘蛛という虫を何かに使おうと考えるその発想に驚かされる。毒を利用するというのなら分かるし、実際に取引されているけど。


「これは丸ごとの方が高く売れるし、解体の必要はないぞ」


 解体の準備をしてくれていたルナに解体しないことを告げて、アイテムボックスにその死骸を放りこんだ。中がごちゃ混ぜにならないからこそできる荒業だな。少なくとも、俺のアイテムボックスは一つの大きな箱というよりも小さな箱がいくつもあるという感覚だ。ほかに持ってる人がどのような感じなのか聞いたことがないから知らないが、ギルドでも珍しさ以外に驚かれたことはないし、そう変わるものでもないとは思う。

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