宿に奴隷を連れ帰りました
買って早々、奴隷に変態なのかと冷たい目で問われた。
「どうしてそう思ったんだ」
「だって、私を見る目線が、そのいやらしかったので……」
おっと、表情に出ないように気を使っていたが、どうやらそれはかなわなかったらしい。
「それでも俺は君のご主人様だ」
「そう、ですね。あなたは私のご主人様ですので私は逆らうことはできません。逆らったら私は激痛に襲われますし、ご主人様からの罰だってあるでしょうから」
態度や目つき、言葉の節々は確かに従順でないが、内面的な部分では理解しているのかもしれない。
「それを理解しているなら俺から言うことは何もない。今日は疲れているし、服とかを買うのは明日にしよう」
俺は首輪から伸びている鎖を奴隷商の建物を出ても持っているし、枷もまだ外してはいないので、その鎖を無理やり引けばついてくるはずだが、あくまでも自分の意思でその場から移動することを俺は望んでいるので引っ張ることはしないし、頑張ってついてこようとしてこけて怪我でもされたらいやなので歩くペースも普段よりも少しゆっくりにした。
「私を買ってどうするつもりなんですか」
どうも立派な耳と尻尾はしゅんとしていてどうも元気がないように見える。質問からしても不安なのだろう。それをできるだけ解消してあげるのもご主人様の仕事の一つだろう。
「俺は冒険者をやっていて旅をしたいと考えている。そこで誰か仲間が欲しかったから選択肢の一つとして奴隷を考えただけだ。だから、冒険者稼業と日常のことをしてもらいたいと考えている」
「私をいやらしい目的で買ったのでは?」
「それについてはないと言えば嘘になるが、正直一人だと限界を感じていたからな。旅をするというのなら尚更だ。稼ぎも二人のほうが段違いに良いはずだから買ったんだよ」
「やっぱりいやらしい目的でも買っているんじゃないですか。……でも、それでもそのいやらしい目的が先行していない目的で買われたというのなら、その少し安心しました」
「そうか」
その言葉を聞けただけでも収穫があったとみるべきだろう。冒険者でパーティをこの奴隷と組む以上、行動それ自体は命令で縛れてるがそれ以外のことは信頼関係が非常に重要になる場面もあるだろうからこの会話は厚い信頼関係の第一歩というわけだ。
そして、そのような会話をしている内に、拠点にしている宿についた。部屋はシングルで狭い部屋だったが、二人になった以上、少し広い部屋に移らなければならないだろう。開いているかどうかが不安だ。
「おう、帰ったか。おっと、ということは部屋を変えるんだな。ベッドは二つあったほうがいいか?」
宿屋のオヤジは察しが良くて助かる。おそらく、今までも俺と同じようなことをした奴がいたのだろう。ベッドはまあ、二つあったほうがいいだろう。本当は一つの方がいいのだけど、疲れが取れないかもしれないから、また不便が生じるようなら部屋を変えればいいだけの話だしな。
「ベッドは二つで頼む」
「あいよ。それじゃ、これが部屋のカギだ。一応、前の部屋の鍵も渡すから荷物があるならさっさと回収してくれ。鍵を返すのは明日で構わない。それと費用だが、きちんと計算するからちょっと待ってくれ。明日の朝には精算できるようにはしておく」
ひと月まとめて契約しているマンスリーマンションのような感じなので料金体系の問題で計算には少し時間がかかるということだろう。それを律義に言ってくれるのもありがたい。
「あいよ。途中で部屋を変えてもらって悪いな」
「問題ないさ。それよりも今日から楽しむのなら音だけは気をつけろよ。それでうるさくて嫉妬を買っても知らないからな」
宿屋のオヤジは豪快に笑った。まあ、普通はそういうことをするという反応で来るだろうな。若い男と逆らえない女が密室で行うことは大体想像がつくということだろう。
鍵を受け取って、前の部屋から荷物を回収したうえで新しい部屋に移った。
「その、ベッドは一つでなくてよろしかったのですか?」
「自分からそんなことを聞いてくるとは思わなかったぞ」
「だって、私は奴隷なので……、床で寝るものかと思っていましたから」
ああ、なるほど。奴隷とはそういうものなのか。確かに、奴隷商の檻の中も簡素な作りだったしな。
「冒険者稼業みたいな体力が必要な仕事もしてもらうんだ。下手な寝床で疲れを残される方が困る。それともなんだ、お前は床で寝たいのか?」
「そんなわけない!」
おう、言葉遣いが崩れる程度には強く否定したな。
「なら今日はそこで寝るんだな。それとこの宿は風呂が一階にあるから入ってこい。風呂の入り方くらいは分かるだろう。というか、分からなくても、混浴ではないから教えられないからな。何とかしてくれ」
「お風呂、あるんですか?」
耳がピコピコ動いていて明らかに嬉しそうだ。
「あるな。だから多少高くともこの宿を選んだんだ」
「全身暖かいお湯につかれるお風呂久しぶりです……」
そういう反応をしてくれると嬉しい。だがすぐに表情が暗くなった。
「でも私着替えもってないです。」
少しくらい顔になってしまった。
「着替えはその棚の中に寝間着が入っている。簡素……まあ、今着ている服よりはマシだろうから問題ないだろう。あと身体を拭くための布やらなんやらは受付のオヤジに言えば貸してもらえるから問題はないだろう」
実はその受付で貸してもらえるものは有料で後で精算することになっているが、まあそれはいいだろう。ちなみに俺はマイセットを持っているのでそれを使っている。
「あと、その……」
はっきり言えと言う前に俺の前に差し出された枷につながれた両手で言わんとしていることが分かった。
「なるほど。それを外してほしいということか。さすがに風呂でそれがあると洗えないだろうからな」
耳も尻尾もしゅんとなって小さくうなずいた。
枷に捕らわれていいる姿を見るのも好きだが不便が過ぎるから外そう。奴隷商から枷の鍵は受け取っている。
「じゃ外すから」
両手両足の枷を外した。久しぶりに自由になったのか、手首をさすっていた。
「奴隷商にいる間はずっと嵌めていたのか?」
「たまに外してもらってました。でもほとんどつけっぱなしで……」
「まあ、俺と遊ぶ以外でつけることはこれからないから」
「え? お風呂から上がったらまたつけるんじゃないですか?というか、遊びってなんですか」
少し驚いているように見える。この世界ではそれが常識なのだろうか。
「常識がどうなのかは俺には分からないけど、ずっと言っているように冒険者稼業もやってもらうんだ。そんな行動が制限される枷などつけていたら、非効率極まりないだろう。わかったらさっさと風呂に入ってこい」
「ありがとうございます!」
笑顔で頭を下げて部屋を出ていった。というか、あんな顔も出来るんだな。堕ちるのも早いかもしれないな。その時が楽しみだ。
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