第6話 どうする間宮。


(で、どうするよ。)


かなり息巻いてみたのは良いものの、過去を変えるって結構ムズくないかと秒で躓(つまず)く。


(こういう時に何かお助けアイテムとかないものなの?)


とりあえずポケットに何か入ってないか見た。


(あ。ボタンじゃん!こんな所にあったんだ…!)


好奇心でボタン(スイッチの方)を押すように

ボタン(洋服に付いてる方)を押した。


「……。」


何もなかった。


「え、花柰ちゃん何してんの?」


(それならこれはどうだ!)とボタンを数秒見つめた後、思いっきり圧縮しようと力を入れてみる。


「ーハァァッ!」


「…ぇっ。」


(いや、流石にそれはないんか……。)


「あ、出来ないんだ。」


…特に何も起きなかった。


(過去に戻ったからといって特別な力(怪力)を手に入れた訳でもないのか…。)


「え、今、ボタン潰そうとした?…指先でスーパーサイヤ人みたいな声だして潰そうとした…?」


「うるせぇな、黙ってろ!」


(ここまで漫画みたいな展開が起きてたら、

一瞬誰もがジャンプの主人公になったと思うだろ!)


ここまでくると明らかに迷走していることは

自分でも分かっていた。

なんなら、考え付く展開のすべてが懐かしのジャンプ過ぎて改めてアラサーを感じた。


「ねぇ、ホントに何…どうしたの?」


オロオロしている巽を無視して私は思考を巡らせた。


(集中、集中。)


「…眉間に手を当てて考え混む人初めて見たんだけど…。そんなあからさまに考え込む事ある?…古畑任三郎か悟空が瞬間移動する時でしか見たことねーよ、どんだけ集中してんだよ。」


「……。」


「ねぇー大丈夫ー?」


(迷子の子犬みたいな顔しやがって。こういう所であの高スペックイケメンも落としやがったんか…。)


「…花柰ちゃん?」

(※背後に浮かぶ悲しそうな子犬の顔)


「……。」



ただ、流石に可哀想なので(すまねぇ、チチ。オラは今地球を救うのでせぇいっぺぇなんだ。)と心の中で謝る。


「ーあっ!」


「っ今度は何ぃ!?」


(異世界転生玉ねぎ!)


3年前、玉ねぎがチート過ぎてヤバイ!と興奮して薦められたが、最後まで読まなかった漫画の存在を思い出した。


(あった!)


本棚から取り出して、パラパラと捲り内容を確認する。


「…これ面白いよね。異世界転生した社畜リーマン忠夫(ただお)が魔界の玉ねぎになって魔王を倒しに行く奴…。」


「ほぉ、ほぉ…」


「これさ、ただの玉ねぎなのに喋れたり、使い魔いたりする時点でヤバイんだけど…主人公がゲーム感覚で天の声から出される選択肢を選んで物語進めていったりとか、失敗したら巻き戻って選び直したりとか割りとチートなんだよね!」


「なるほどぉ!」


(…そういうパターンか!)

※彼女はアホです。


「……これだ。」


「…え、花柰ちゃん今から戦いに出るつもりだった?地球を救いに行くとかそういう奴?」


「元気玉なら力を貸すよ。」とか意味の分からないボケをかます巽をよそに電流が走ったように閃いた私は辺りを見回す。


「えっ無視?」


(画面が表示されて選択肢をチョイスしていくんだったら私でも出来る!)と天の声を探したり…最悪、使い魔が出るかとかキョロキョロしたけど普通に何もなくて…。


(……あっないんだ。)


「ねぇ、なんで無視するの?」


(まさかの過去に人を飛ばしてといて放置プレイみたいな事ある?)と身一つで過去にすっ飛んだ私はなんとも言えないガッカリ感と、

急に外国に飛ばされたみたいな孤独感から心細くなって現代に帰りたくなった。


(過去を変えるって一体どうしたらいいんだよー、。)


「…はぁ、もう何なの、ホントに。」


(一端のただのしがないアラサーに何が出来るんだよ…)と力なくへたり込み、不安でいっぱいな気持ちになる。


「…何、仕事で何かあったの。」


「えっ?」


頭の上に暖かい感触がして、すぐに頭が撫でられてると分かった。


「…いや、そーいうんじゃないけど…。」


「さっきから、挙動不審だし大河ドラマの人みたいに怖い顔して考えこんでるよ?」


(誰のせいだと思ってんだよ!)とムッとして顔を上げたら、今じゃ考えられないくらい巽はニコニコ笑っていた。


(あ、懐かしいこの顔。)


「っ…大河ドラマってなんだよそれ!誰か武将じゃ!控えおろう!」


恥ずかしくなって、視線を外してまたチラッと気付かれないように視線を戻した。腹を抱えて笑う巽を見るのは3年ぶりだ。


「…乗っかってんじゃんw」


(さっきからガン無視を決め込んでいたのに…。喧嘩してても、落ち込んでたら『そんなのお構い無し!』ってすぐに察して慰めてくれるんだよなー…。)


「仕事で上司に嫌な事を言われたら言って?

一緒に魔王を討伐しに行こうよ。」


「巽……。」


…どうやら巽は職場で嫌な事があって、上司をぶち殺そうとしてると勘違いしている。


(こいつ、私の事をなんだと思ってんの…。)


でも、こういう優しい所は今も全然変わっていない。


(……今さら現代に戻っても、どっちみち悲惨じゃん。)


26歳で結婚間近の彼氏に浮気され、相手は韓ドラ俳優級だった現実と向き合うか、過去で廃人間近の巽(浮気進行形かもしれない)を救って未来を変えるか…


(はぁー、どうしよう。)


ますます怖くなって俯いた時、


「大丈夫だよー、元気だしてー!」


グダグダ悩んでると、慰めようとした巽に抱き締められてスッポリと体に収まった。



胸に顔を埋めて心臓の音を聞いていると、急に気持ちがすーっとスッキリして、気が楽になる。


(憑き物が落ちてくみたい…。)


「…太ってるね、巽。」


「えっ。」


(今は、あんなにガリガリなのに。)


服越しに分かるたくましい腕、柔軟剤の匂い、暖かい体温。


「あーくそ、やっぱり好きだ…。」


「えー、何それw」


何も無くたって、出来なくたって、ただのアラサーだって大丈夫。


(やれば、出来る。頑張れば変えれる。)


未来を変えて、幸せになりたい。

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