第16話 陽翔と夜
「何なんだ、あいつは!?」
客間のベッドで仰向けになっていた陽翔は、抱えていた枕をぎゅうぎゅうと押し潰した。
「ぼくが破壊を望んでいるみたいに言いやがって。誰が望むか。そんなことを望むくらいなら、勉強できる時間を増やせって望むわ!」
『おまえが破壊したいと願えば、俺がいつでも破壊してやる』
無限に頭の中で流れるアオの言葉と顔が、憎たらしいったらなかった。
「カッコいいからって調子に乗るなよ。ぼくの好みじゃなかったらな、尻を蹴飛ばして追い出していたからな!」
陽翔は受け入れていた。
あの犯罪者ばりの凶悪な顔をカッコいいと思ってしまう自分を。
抗い続けるのは時間の無駄だ。認めてやる。半ば怒りながら。
「まあ。食器を台所に持って行ってちゃんと洗って乾燥機に入れたのは、人として好感度が上がったと認めてもいいが」
帰る。
食器を洗い終えて乾燥機に入れたアオはそのまま玄関へと一直線に向かった。
このまま酔っぱらいを野放しにしていいのだろうか。
きちんと家に帰れずそこら辺で眠ってしまって誰かの手を煩わせてしまうのではないか。
家に帰れず外で眠ってしまって風邪を引いてしまうのではないか。
家に帰れず外で眠ってしまってストレスが溜まった誰かに憂さ晴らしに殴る蹴るの暴力を受けるのではないか。
瞬時に可能性が浮かんだ陽翔は、靴を履くアオの背中に向かって誰かに迎えに来てもらった方がいいんじゃないですかと言った。
「いい。帰れる。すぐそこだ」
「同じマンションに住んでいるんですか?」
「ああ」
「そうですか。だったら、さようなら」
「ああ」
かちゃり。
玄関の扉を開けた音と閉めた音がやけに大きく聞こえた。
「あの人。帰って来ないな」
ひとしきりアオへの不平不満を言いまくった陽翔が、勉強する為に机に向かい合って時間が過ぎて、時刻は十二時を迎えようとしていた。
碧はまだ帰って来なかった。
「仕事が長引いているのか」
寝る準備はすでに済ませていたので、ベッドに入って目を瞑った。
「あ。りんごをむくの、忘れた」
碧が用意してくれたりんごの皮はもう昨日の分までしかなかったので、自分で用意しなければならなかったが、もう動く気力も気分もなかったのでそのまま目を瞑ったままにしたのであった。
(2023.10.31)
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