第13話 陽翔と家事
碧が陽翔にりんごの皮を初めて渡してから、五日後のことだった。
急遽、県外での撮影の仕事が入ったとの電話を事務所から受けたのは、昼過ぎのことだったので、学校でいない陽翔に向け、居間のテーブルにその旨を書いたメモを置いて、碧は家を後にした。
一週間の滞在なのだ。
お土産をたくさん買って来よう。
移動時間がたくさんあって疲れて買えるかどうかわからないけど。
そもそも、お土産を買える店があるかどうかも、立ち寄れる時間があるかどうかもわからないけど。
買えたらいい。
のほほんと考えた。
(陽翔ちゃん。今のところ不眠もりんごの皮で解消できてるみたいだし。このままずっと眠れたらいいけど)
「やった。これで本当に一人きり。自由だ、って言っても、あの人ほとんど干渉しないから、そもそも自由なんだけど」
学校から帰って来た陽翔がテーブルに置かれたメモを見て喜んだのも束の間、別にあの人がいようがいまいが、あまり生活環境は変わらないかと思った。
平日は学校、土日は朝から夕方まで塾だから、ご飯を作るのは朝と夜。
登校前と塾に行く前に洗濯も済ませて、帰って来てから洗濯物を取り込んで畳んで箪笥に収めて、掃除は勉強の息抜きに夜やって。
まあそもそも家事をするのは苦じゃなくて勉強の、生活の気分転換になるから、どっちかって言うと好きだし。
あの人は夕飯時に家にいる時にご飯はまだと催促する以外、話しかけることはほとんどないし。
(不眠解消に、りんごの皮を毎日持って来てくれるけど。どうぞって一言だけで、すぐに部屋から出て行くし。自分でりんごをむいていいんだけど、あの人、持って来てくれるし)
「あ、そっか。今日からあの人が帰って来るまで、自分でりんごをむかなくちゃ」
客間で制服から私服に着替えた陽翔が、夕ご飯を作るために冷蔵庫を開けた時だった。
目に飛び込んで来たのが、ビニール袋に入っているりんごの皮だった。
数えると、七つあった。
「………自分でむくのに」
陽翔は呆れつつ、ありがとうと呟いた。
あの人と電話番号もラインも交換してなかったので、帰って来たらちゃんと言おうと思ったのであった。
(2023.10.29)
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