第6話 ぼくと栗のたい焼き




 成績が上がらない。

 一定のレベルから上に行くことができない。

 まだ中学二年生だから焦るなよ。

 志望高校にまだ及ばないと知っている担任の先生もそう言って鼓舞してくれるし、ぼくもその通りだと思っているので、気にはしない。

 最終的に志望高校に合格すればいいのだ。

 まだ一年と五か月はある。

 時間は優にあるのだ。

 焦ったところで何にもならない。

 と、思ってはいる。

 本当だ。

 けれど。


(ん~~~)


 どっか寄ってこうぜと誘ってくれる同級生に断りを入れて帰宅中。

 眉根を寄せながら、今日はどういった勉強のスケジュールを組もうか思案しながら歩いていると、ふと、たい焼きの幟が視界を掠めた。

 糖分は脳を活性化するけれど、摂り過ぎはかえって集中力を欠くことになる。

 から。

 一個だけ買うか。

 ポケットから財布を取り出して、期間限定の栗のたい焼きを買おうとした時。

 あの絶対に見習いたくない、反面教師にしている男の顔が頭に過った。


(今日は一緒に出なかったからな。昼からか、もしくは、夜、夜中)


 帰っていなかったとしても、電子レンジかトースターで温めるか焼けばいいわけだし。


(別に買う義理はないけど。ぼくが世話しているわけだから、逆に何か買って来てほしいくらいだけど)


 一時とはいえ、一緒に暮らしてはいるのだ。

 あの男にも充実した生活を提供してやらないと。

 ぼくは栗のたい焼きを二つ購入して、帰宅した。

 あの男はいなかった。


「さて。栗のたい焼きを食べたら、夕飯を作るか」


 栗のたい焼きは、黒餡子の中に大きな栗の実が二つ入っていた。











(2023.10.26)



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