第4話 ぼくとモデル




 こんな男にはなるまい。

 陽翔は碧を見下していた。

 こんな家ではぐーたらな人間にはなるまい。

 家事も仕事も育児も何でもテキパキやり遂げる人間になる。

 何でもテキパキやって、充実した人生を送るのだ。


(仕事をしているからと言って、家事をしない理由にはならないだろう)


 思いながらも、陽翔は碧に対して何も言わず、黙々と家事をこなしていた。

 これさえこなしていれば、あとは自分の時間。

 息抜きに、やれ遊ぼう、やれ遠出しよう、やれ買い物に行こうと誘う母はいないのだ。

 思う存分、勉強できる。


(何だって、母さんはぼくの邪魔をするんだか)


 息子が頑張っているのだ。

 息子が将来を考えて行動しているのだ。

 頑張ってと応援して、そっと見守ってくれればいいのだ。

 息抜きにと言って、自室から連れ出そうとするなんて。

 勉強の邪魔をしているとしか言いようがない。


(けど、あの人。何の仕事をしているんだか)


 登校する時に一緒に家を出る時もあれば、平日の真夜中に出る時も、休日の真昼間に出る時もあるという、てんでばらばらな出勤時間。


(ライター、ブロガー・アフィリエイター、ユーチューバー、システムエンジニア・プログラマー、農家、ウェブデザイナー、タクシードライバー、トラック運転手………まあ、どうでもいいか)


 客間のベッドに寝転んで、スマホで出勤時間が自由な職業を検索しては突き止めようか考えたが、止めて机に向かった。

 勉強道具、制服や洋服、生活雑貨など必要な物はすでにこの客間に送ってもらっていた。

 姉と弟の二人で住んでいるので、てっきり二つしかない個室は二人が使っていると思っていたが、そうではないらしく、ひとつの個室は姉が使っていて、弟はリビングで過ごしているらしい。


(まあ、おかげで、個室が使えて幸運だったけど)


 電子辞典辞書はあるが、紙の方が好きな陽翔が英和辞典で英単語を調べようとした時だった。明らかに辞典の紙とは違う色の紙を発見して、その頁を開いてみると。


「………母さん」


 母が今、熱中しているモデルの写真が挟まっていたのだ。


『この人はね、オラオラ系破壊モデルでね。アオ様って言ってね。ほら。見て。心がスカアってするでしょ。物を壊すなんてダメな事だけど、ストレスが溜まって破壊衝動に駆られる時があるじゃない?アオ様が代わりに破壊していると思ったら。もうストレスなんて、ぶっとぶわ。それに何て言っても!この破壊している時のアオ様のお顔。あああ。もう。さいっこう』


「物を破壊するなんて、そんな暇ないし。もうヤバイ犯罪者の顔にしか見えないし」


 こんな職業がこの世の中にあるなんて、信じられない。

 陽翔は写真をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てようとしたが、母が悲しむ顔が過ったので、何も入っていない机の引き出しの中に仕舞い込んだのであった。












(2023.10.25)



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