27話 連携
「ごふッ」
いくらわたしが戦闘職ではない女子だからといって、不意打ちのみぞおちへのこぶしはそれなりに衝撃があったらしい。体勢を崩したルークス王子は、左手で木の幹にしがみつこうとしながらも叶わず、ずるずるとしりもちをつく。“何か”を握りしめている右手の拳はかたくなに開こうとしないが、それでも謎の詠唱は止まった。
「馬鹿な。この魔術は、「隠密」を使う相手にも効果があるはずだが。それにお前は一体」
ぶつぶつ呟くルークスに構わず、わたしは半身分右に移動して、視線を目の前の男に向けたまま呼びかけた。
「ヴィド!」
彼にはそれだけで伝わったらしい。直後、わたしのすぐ横を風が吹き抜ける。
「ぐぅあああ!」
ヴィドの美しい矢が、真っすぐにルークスの右手の拳に突き刺さっていた。わたしのこぶしには耐えたルークスも、直接的な右手への攻撃には耐えられなかったらしい。こぶしを開くと、矢先がクィルダイトの原石に刺さっているのが見えた。
「ぐっ」
そこまで確認したところで、わたしの傍にいた――そしてルークスが詠唱をはじめてから動きを止めていた――『光陰』が飛び出し、ルークスを拘束する。その勢いで矢が刺さったクィルダイトは弾かれ、地面を転がる。わたしはそれをゆっくり拾い上げた。
「危険です」
「ううん。危険なのはクィルダイトを使って変な術を使っていたこの人だよ」
ルークスを拘束した『光陰』に短く返して、『光陰』とわたしを繋ぐ情報伝達の術が元に戻っていることに気づいた。どうやら全員、『影』の拘束には成功しているようだ。さすがにルークス王子よりも大物がこの場に現れるとは考えにくい。となると今からすべきは、ルークスが使っていたクィルダイトの調査と、ルークス自身への尋問だ。
わたしは、ヴィドの矢が刺さったクィルダイトをよくよく観察する。クィルダイトの原石は今も肌身離さず身につけている特大サイズのものしか見たことがなかったので、ルークスの部屋でのひとりごとを聞いていなかったらこれがクィルダイトとはわからなかっただろう。確かに薄い水色ではあるが、わたしの人差し指の関節二つ分くらいの大きさしかないそれは、あまりにも小さかった。
「ヴィド、クィルダイトってこんなに小さいの? それでこんなにもろいの?」
「通常は、それくらいの大きさが主流です。硬度はそれなりにありますが、今回は俺からの射程距離が近かったこと、それにルークス王子が何かに使用していたからもろくなった可能性があります」
「そう」
もっといろいろとヴィドに聞きたいことはあるけれど、ここは敵の目の前だ。不用意にクィルダイトの話を続けるのはよくないだろう。
「お前……オルセン王国の第一王女、オルセン・マイエンガルドだな」
そう思っているそばから、目の前で『光陰』に抑え込まれてうつぶせに倒れているルークスが声を発した。当初の予定では、わたしは姿を現さないまま撤収までこなすつもりだったから、姿を見られた以上正体を看破されるのはやむを得ない。だから、せめて皮肉たっぷりに返してやった。
「あなた、王族のくせに他の国の王族への敬意ってものがないの? ミドガルド王国の第二王子、ミドガルド・ルークス」
「お前も呼び捨てじゃないか。だがオレがルークス王子であるという確証はお前にはないだろう」
「笑わせないでよ。ヴィドを捕らえた時、あなたの『影』は言っていたよ。『「自分たちはミドガルド王国、第二王子直属の精鋭部隊『影』の一員だ』ってね。いくら血で血を洗う王権争いをしているあなたの国だって、第二王子がふたりいるなんて話、聞いたことがないもの。おおよそ第一王子のような功績がないのを焦っていたんでしょう、ルークス」
わたしの言葉に、ルークスは顔を赤くした。
「敵に所属を名乗るような間抜けは、オレの『影』にはいない」
「そう。でもいま、ヴィドたち我がオルセン王国の優秀な猟師たちに手を出そうとしたのはあなた。だからわたしは、あなたに聞きたい。ルークス、クィルダイトの原石を使って、何をしようとしていたの?」
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