過去との融解


「なんで、お前が」


困惑しているケリーに微笑みを浮かべながら近づくリシャーラ。


「……敵じゃないさ」


「……は?」


ケリーが驚くのも無理はない。

リシャーラは「カルロス」でも屈指の実力を持つ武装軍団に所属しており、チームのリーダーでもあったからだ。


「……俺を、殺しに来たのか!?」


「いやいや、そんなわけないぞ。ただ窮地に立った友人を助けただけさ」


首を横に振るリシャーラ。

警戒を解くことなく銃口を向けるケリー。


「リーダーっつっても、それ、3年前までだからな?」


「は?」


ここ数年、全くケリーの元に情報が入ってきていないとは言え、余りにも起きたことが異常すぎた。

リシャーラが言ったことに嘘はない。


「なんで……」


「嫌気がさしたんだよ……アイツらのやり方に」


事実として、彼は自分が率いた軍団「リベッド」を裏切った。


「立ち話もあれだ、乗れよ」


彼は親指で何かを指す。

その方角を見ると一台の車があった。


(信じて……良いのか?)


考えるのがめんどくさくなってきたのと、いい加減体力に限界が来ていたので、諦めて乗った。


「ていうか、お前カルロス脱退したんならなんでまだ、アメリカに残ってんだ?」


エンジン音が扉越しに響く。

バイクとはまた違った音。

周りの景色が変わっていく中で、ケリーが口を開いた。

北米大陸の崩壊が広まった頃、ユーラシア大陸はアメリカを完全に切り捨てた。

ユーラシア大陸の国々はユーラシア同盟を組み、共同経済を行っていた。


「生まれ育った地だからな、此処は。更に言えば、俺は今、カルロスからのお尋ね者だからな。迂闊に動くわけにはいけない」


運転に集中しながら答えるリシャーラ。


「さて、今更だが俺はこれからカルロスに向かう。もし、お前が行きたくないと言うのなら、此処で降ろすが」


「……」


ケリーは答えない。


「沈黙は肯定と見なすぞ」


速度をさらに上げ、目的地へと走り出す。








───────────────────


俺は誰なんだ。


ここは何処なんだ。


思い出せない。


目の前には無数の死体。

地面が赤く染まる。

雨と混じり、更に広がっていく。


右手には血のついたナイフ。

服には誰のか分からぬ大量の返り血。


感覚はある。

けれど、記憶は無い。


───殺して。


誰かの声。

ずっと、頭の中で響いてる。

油みたいに取れない。

縛られているように、うなされている。


ふと、地面を見ると赤く染まった文字。


───ウィル


それが、俺の名前なんだろう。

殺人鬼に相応しく無い、人の名前。


ふらついた足取りで俺は歩き始める。


「誰か、教えてくれ」


「誰か、聞かせてくれ」


───俺は、誰なんだ

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