第6話 正解の選択肢
放課後デートと言っても、要は一緒に帰るだけだ。
シャーッと風を切りながら、二人並んで自転車を
「………………」
「………………」
俺も高千穂も互いに無言。
何を話せばいいのかわからん。
何をしたらいいのかもわからん。
高千穂に告白しOKを貰えたまではいいものの、俺は学生同士のデート何て初めてだ。
それもただの学校からの帰り道でのデートって意外にハードルが高い。
デートスポットがなさすぎる。
今俺たちが通っているのはただの田んぼ道。
そしてその先にあるのは、観光名所なんか何もないただの住宅街だ。
ここが都会ならおしゃれなショッピングセンターに行ったり、カフェに行ったりと選択肢があるんだろうが、そんなおしゃれなものはここにはない。あるのはスーパーとコンビニとラーメン屋ぐらいだ。
何とかしないと。
緑広がる田んぼの下り道の先には、住宅街。しょぼいが一応店がある。デートスポットと辛うじて呼べる店がある。
「だけど、コンビニもスーパーもあれだしな……」
やば、独り言をつぶやいてしまった。
高千穂に聞かれたと思って隣を見ると、
「……
「高千穂? 何をブツブツ言ってんの?」
「え⁉ あ、いや違くて! 聞こえてた?」
「いや、全然……」
自転車を漕いでいるせいで、音量の小さかった彼女の呟きは、内容までは聞き取れなかった。
何で呟いていたんだろう……高千穂ってこんな独り言いうタイプだったっけ?
もしかして……、
「何か……気に
「え⁉」
高千穂がびっくりした顔をする。
もしかしたら、俺に対する愚痴を言っていたのかもしれないと不安になった。告白しておきながら、自分から話しかけもせずにろくに何処にこれから行くとも言っていない。
そんな俺の情けなさに対して不満を抱いてもおかしくないと思ったからだ。
「ゴメン、高千穂。実は俺女の子と付き合ったことがなくて緊張してるんだ……お前の方から放課後デートに誘ってくれたのに……何処に行くのがいいのか、何処に行けばいいのか考えるのに必死でさ……」
自分の情けなさを正直に告白する。
失望されるかと思ったが、高千穂は慌てたように大きく首を振り、
「全然! 悪いのは私の方。ちょっといろいろあって考え事をしててさ……私の方から誘っておきながら気持ちが入ってなかったね……ごめん……」
互いにしゅんと気落ちしてしまう。
「……とりあえずさ、高千穂。謝り合うのやめないか? せっかく……デートだって言って一緒にいるんだし」
このまま互いに落ち込んだままだと空気が悪くなる一方だ。
だから空気を変えようと提案する。
「そう、だね。ありがと、雨宮君」
ニッと笑う高千穂。
ただの誤魔化し笑い。自分の中のネガティブな感情をリセットするためだけの、切り替え以外の大した意味のない笑み。
それなのに———どうしても俺はドキッとしてしまう。
「………ンンッ。それでさ。更に正直に言ってしまうが、俺は放課後デートの仕方がわからない。何故なら今まで女の人と付き合ったことがないからだ———」
正式に言えば、学生時代限定の話だが。
「———だから、高千穂に教えて欲しい。どこに行きたいのか。前の彼氏とかとはこういう時どこに行っていたんだ?」
その瞬間———ガッと高千穂が体をぶつけてきた。
まるでレース漫画の荒っぽい選手のように、自転車の前輪を俺の方へ強く押し、肩をぶつけてくる。
おかげで若干ふらつく。
「危ねぇな! バカ!」
やば。
思わず未来の自分たちのノリのセリフが出てしまった。未来で高千穂と飲み友達になっているノリの。
実際のところ、さっきの彼女の行動は危なくもなんともない。
高千穂の体重は軽いし、力加減もわかっていた。
なんなら少し風が吹いて彼女の匂いが漂ってきていい気分になったぐらいだ。
これを言葉にしたらキモいと嫌われてしまうか。
心配していると高千穂は頬を膨らませていた。
「デリカシーなし!」
頬は赤くない。だからそこまで怒っているわけではないのだろう。
「へ?」
「前の男のことをデート中に聞くなんてデリカシーないよ。今は君だけのこと……」
今度は顔が赤くなった。
ごにょごにょとまた小さな声で呟きだしたので、聞き取れなくなった。
「え? 何?」
「何でもない! それに……私だって放課後デートなんて初めてだもん! 今までテニス部に時間盗られてたし、そもそも学生時代に彼氏作らなかったし!」
「え、マジ?」
「あ……」
高千穂が言っちゃダメなこと言っちゃったと口元に手を当てる。
「知らなかった。そうだったのか……」
「う、うん……実はそうなの……」
まぁ、知っているが。
念には念を置いて一応驚いた振りをしておく。
未来の高千穂本人から、この時代は男運がなくて彼氏を作ろうと思えなかったと既に聞き取り済みだ。
だがそのことをこの高校時代の俺が知っているなんておかしいので、知らないふりをしておく。
「高千穂、可愛いからさ。今まで何人も告白して、その誰かと付き合ってるのかと思ってた」
「付き合ってないよ。なんか変な目つきの奴らしか告白してこなかったし」
以前に聞いたことと同じようなことを言っている高千穂。
じゃあ、何で俺の告白はOKしてくれたのか? という疑問はまだ怖くて口にできない。
「なら———互いに恋愛初心者……か」
「だ……ね……」
そっか、そっか……じゃあ、どうしよう。
互いにノープランで放課後デートに決め込んでしまった。
このままじゃろくにデートスポットに寄ることもなく、気が付いたら自宅前となることも想像できる。
マズいマズいと焦り始める。
「公園とか行ってみる?」
冗談めかしたテンションで高千穂が提案する。
「公園? 小学生じゃないんだから」
やべ、反射的に否定しちゃった。
「はは~……だよね~……高校生になって公園はないよね~……」
しまったぁ~……! 高千穂を苦笑させてしまった。
これがギャルゲーなら、絶対に好感度が下がる音が鳴っていた。
どうしよう……!
正解が欲しい。正解の選択肢が欲しい。
何かいい提案ができればと思っていると、丁度学校周辺の田んぼ道が終わり、住宅街手前の交差点に差し掛かる。
キキッと前輪のブレーキが鳴り、信号前で止まる。
「…………………」
「…………………」
そして再び訪れる沈黙。
本当にどうしよう。
これから何処に行こうか、何処に行けばいいのか、考えることに脳のリソースが持っていかれて会話すらできない。
何か、何かを早く提案しなければ……正しい選択肢を提案しなければ……!
「アハハ……も~たっくんってば~」
「へへ……ごめんって、まり~」
ふと、信号待ちをしているのは俺達だけじゃなかったことに気が付く。
前にカップルがいた。
さっき昇降口で見た、学校内でも堂々とイチャイチャしているバカップル……。
「知ってる人?」
「いや、知らない人……」
俺がジッと彼らを見ていることに気が付き、高千穂が声をかける。
高千穂は俺の答えを聞くと「ふぅ~ん」と言い、
「多分、先輩だね」
「なんでわかる?」
「自転車の後ろの学校のシール。学年によって違うでしょ?」
そう言えばそうだった。
『長南第二』と書かれた学校側が通学に使用する自転車を把握するためのシール。それは学年によって違い、俺たち一年生は緑。二年生は青。三年生は赤。
そして彼らのシールの色は赤かった。
「先輩か……先輩か……」
「雨宮君? 何で何度も繰り返すの?」
イチャイチャしているバカップル先輩に俺はジッと見続けていると、正解の選択肢とは何なのか、わかった気がしてきた。
「先輩に
「雨宮君?」
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