クラスで1番カワイイ娘とのやり直し ~後悔から始まる青春タイムリープ~
あおき りゅうま
第1話 後悔から始まるタイムリープ
初恋というのは後悔の味がするものだ。
今年で30歳ともなると、学生時代のことを振り返ってそう考える。
男にとって初恋とは幼馴染だったり、隣に住んでいるお姉さんだったり、美人の先生だったりする。
だけど、一番多い初恋の相手というのは、クラスで一番カワイイと言われている女の子なんじゃないだろうか。
なんて———当たり前のことを考えたりする。
皆に囲まれている彼女を———遠目で眺めていた日々。
生まれつき顔が他の女子より整っており、気さくで明るくはつらつとしていて誰からも愛されるそんな女子。
あの子は一昔前だったら「高嶺の花」とか「マドンナ」とか言われたりするんだろうか?
クラスの男子、みんながカワイイと思っている女の子。
クラスの男子、みんなが狙っている女の子。
それの事実を知った瞬間———俺は諦めた。
どうせ俺なんかはあの子と付き合えない。
そう思って告白すらしなかった。
そのことをずっと後悔し続けている。
今も、まだ———これからもずっと。
◆
「それもっと早く言えよ! このバカァ!」
バコーンと頭を
「痛ってなぁ! 何すんだこのバカ女!」
俺は頭を押さえながらスーツ姿のポニーテールの女に抗議をする。
「アハハハハ! うるさい、ばぁ~か! あんたが高校の時告白してたら、あたしもあんたも、お互いに今頃30歳で
ビールを片手に真っ赤な顔をして、身体を左右に揺らしながらも俺を指さす彼女の指を俺はパシりと握りしめる。
「だったら、今告白したらOKしてくれるのかよ———
真剣な表情で、
昔と変わらない大きな瞳に桜色の唇に小さな鼻。
昔と違って校則違反で茶色に染めていた髪は黒く戻され、連日の残業の疲れが残っているのか目元に若干の隈がある。
胸も少しあのころと比べて大きくなった。
高校時代から12年の時を経た美人の
「………………今、ここで告白するの?」
がやがやがや……。
酒を飲んだオッサンたちの声が響く店内。
金曜の夜の居酒屋。
そこに俺と高千穂花恋はいた。
「いや、やっぱやめた」
「だよね」
パッと彼女の手から手を放すと、なんだか気まずい気持ちになった。それが伝わったのか、高千穂も同じような気持ちになったようで互いに示し合わせた様にジョッキをグイっと傾けた。
「プハ~……でも、あの時はこんな関係になるとは思わなかったわよね」
ビールの泡でついた髭を手の裏で拭きとりながら、高千穂は遠い目をする。
「まさか、雨宮くんと飲み友達になるなんてね……」
「俺も、そんなこと想像もしていなかったよ」
数年前、俺と高千穂花恋は偶然再会した。
互いに同じプログラミングという業種に進み、
それから流れで二人だけの同窓会と称して近くの居酒屋で飲み証し、それをきっかけに毎週金曜日の夜は必ず「高千穂と二人きりで飲む」という予定が組まれてしまった。
「小学校、中学校、高校と……一緒のクラスだったのに、ろくに話さなかったのにね。皮肉だよね~、卒業してからの方ががっつり話すなんて……」
「まぁ、身分が違ったからな。俺はオタクで陰キャだったし、オシャレでテニス部に入っていた高千穂さんとは住む世界が違ったからさ」
「……それ禁止って言ったじゃん」
「え?」
高千穂の指が俺の唇にぴとりと当てられる。
「さん付け禁止。距離作らないでよ……」
「……人の唇に指当てんなよ。汚いだろ?」
「別にいいよ。雨宮くん相手だし、何ならこの指についたあんたの
俺の唇から手を放して、ニヤニヤと笑う高千穂。
「やめろ。バカ女」
「うわ~……ひっど、何その口の利き方。私は初恋の女なんでしょ?」
「こんな性格の女だと思わなかった。もっと、清楚でおしとやかな女の子だと思っていた」
「ひどすぎない? 殴っていい?」
「まぁ、そんな理想通りの女の子だったら疲れてすぐに別れていたと思うけど……」
「まぁ、そうだよね」
そういって高千穂は自分の人差し指にキスをした。
「おい! だから舐めとるなって!」
「舐めてないもぉ~ん! キスしただけだも~ん!」
生意気なことを言ってきたので、俺はそういう振りだと思って彼女の隣へ移動し、彼女の首根っこを掴む。そして「きゃ~きゃ~」言う高千穂花恋の頭に拳を当てて、全く力を込めずに彼女の頭の上でぐりぐりと回す。
「きゃ~犯される~」
「犯すか! 危ないこと言うなこのバカ!」
そう笑い合う俺達。
冗談を言い合いながら笑い合う。
そうやっているとだんだん悲しくなってきた。
———どうしてこれが12年前はできなかったんだろうか。
◆
「じゃあな」
「うん、それじゃあね」
夜の商店街。
飲み会が終わって互いに赤い顔をしながら、手を振り合う。
いつも通りだ。
金曜の夜にひたすら飲んで、また一週間、間をあけて再会し飲み明かす。
初恋の相手———高千穂花恋との関係性はそういう時間を繰り返すだけだ。
彼女に背を向ける。
さぁ、来週を楽しみにまた一週間頑張ろう。
そう思ってネクタイを締めなおした時だった。
「ねぇ!」
背中に声をかけられる。
「さっきの話! 私が本気にしてたらどうする⁉」
さっきの話———?
「何の話だよ⁉」
彼女に向き直り、声を上げる。
「私が雨宮くんの初恋の人だって話ぃ! 私が本気にしてたらどうする⁉」
商店街のアーケードの下。
互いの少し距離を開けて、声を響かせながら話している。
「お前が初恋の人だっていうのは、本当だよ!」
「そ……! そう……なん……」
高千穂の顔は赤い。それは酒のせいか、それとも何か別の理由があるのかはわからない。
彼女は少し黙って言葉を探すように目線を泳がせた後、
「じゃあ! 告白すればいいじゃん⁉ 今———ここで‼」
…………今、ここでか?
夜の商店街でか?
俺たちの近くに運よく人はいないが、遠くの方ではへべれけになっているおっちゃんが歩いている。
誰かに聞かれるかもしれない。
まぁ……でも、後悔するよりは……いいか。
あの時に抱いた後悔をするよりかは――—!
「……たか……ち!」
あれ……言葉が……出ない。
勇気が———出ない。
「…………今更だろぉ!」
「……え?」
あれ……俺、何言ってんだ?
「……今更だろ? ……もう互いに大人なんだし……もう、手遅れだって」
思ってもないような言葉が、言いたくもないような言葉がスルスルと口を突く。
「だ———だよねぇ!」
そして———高千穂は悲しそうに笑った。
彼女は「タハハ」と笑い軽く手を振ると、
「……そうだよね。今更、青春は帰ってこない……よね」
決して大きな声ではなかったけどそう言った。
その言葉は———確かに俺の耳を突き刺していた。
「……じゃあ、またね」
「あぁ———じゃあ、またな」
改めて手を振り、別れる。
――—その日。俺は泣いた。
枕に顔を突っ込み、わんわん泣いた。
自分のダメさ加減に嫌になり死にたくなった。
泣けばなくほど、喉の奥からアルコールの不快な味と匂いがこみあげてきて、トイレで何度も吐いた。
後悔を感じた。
二度と重ねないと思っていた後悔を重ねてしまった。
もう———死にたかった。
やがて泣き疲れて布団の上で目を閉じる。
転生したい。
転生して今度こそ後悔しない生き方を貫きたい。
それが無理なら———数時間前でいいから時間を巻き戻して欲しい。
今度こそ、高千穂に……好きだって……。
神様……。
◆
残酷なことに朝は来る。
ピピピピピピピ………!
目覚まし時計がベルが鳴る。
「ん?」
ベッドの横にある目覚ましの上のボタンを押し、アラームを止める。
目覚まし時計のベル……使ってたっけ?
俺は、身体を起しながらそれだけで違和感を覚える。
なぜなら、最近はスマホのアラーム機能を使って朝起きていたからだ。
「あれ……ここって……」
見慣れた景色だが、いつもの景色じゃなかった。
壁にハンガーでかけているスーツがない。電気屋で買ったパソコン机がない。テレビもなければ、俺の背丈を超える本棚もなかった。
あるのは勉強机と漫画本が入ったカラーボックスと———高校の制服が壁にかけられていた。
「実家だ……」
高校の時に使っていた、俺の部屋だ。
どういうことだ……今って何年だ……?
携帯に手を伸ばし、年月日を確認しようとする。
パカリと携帯が開いた。
「ガラケーだ……」
高校の頃に使っていた、折り畳み式の携帯。俺のはデザイン重視で正方形をしていて、ボタンを押して開閉するタイプだった。
「今は令和じゃない……平成だ……!」
部屋に置いてある鏡を見る。
「若い……!」
だが、歳を重ねていくにつれて刻まれたほうれい線と肌の目の隈が消滅している。
「俺……高校時代にタイムリープしたってことか……?」
2009年6月1日、月曜日、午前6時31分……
クラスで一番かわいい子に告白できなかった男———
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