再発や父のゆうしを子に語り

※さいはつや ちちのゆうしを こにかたり


子ども部屋の掃除。


あ、CDケースを床に置いてる!

踏んだらどうするの!

「あら、このCD……」


「お母さん、ただいま! ごめん、今から掃除するから!」

いつの間にか帰宅していた子どもが、慌てている。


「うん、なら、まあ、いいわよ。……で、このCDなんだけど」


「知ってるの? ドラマの主題歌! 昔のバンドなんだけどね、再発売だって!」

知ってるもなにも。


「このバンドの曲、お父さんが学生の時にカバーして、よく弾いてたのよ。かっこよかったんだから」

「お父さんが……バンド?」


……信じてないわね。


とりあえず、掃除は休止。

せっかくだから、子どもにお父さんの昔の話を聞かせてあげましょう。


「……へえ、大学の学園祭で大人気、ねえ」

やっぱり、あまり信じてなさそう。

あとでアルバムを見せてあげよう。


「そうよ、本当に大学では人気者だったんだから!」

そうだった。

付き合ってほしいって言われた時は、本当に夢見ごこちだったわ。


「……とにかく、思い出のバンドなんだよね。なら、コンサート行く?」

え、コンサート?


「チケット、取れるの? だったら、取って! チケット代おごるから!」


「うそ、じゃあすぐにチケット取るよ! 二枚だね?」


「……三枚で」


「了解!」


子どもは、すぐにスマホを使い始めた。


それなら、と私は少しだけ子ども部屋の片付けをしてあげることにした。


あの再発売のCDは、特に丁寧に扱う。


誰にも踏まれそうにないところにきちんと置いておく。これでよし。


そうだ、片付けが終わったら、私もこのCDを聴こう。


あの人と一緒に買った、旧盤を。


……あ。


一緒に聴こう、って誘ったら。


あの人、喜んでくれるかしら?



※ゆうし、には勇姿と雄姿を掛けております。


お子さんのお父さんが彼氏さんだった頃の素敵な思い出。


再発売のCDが、思い出させてくれました。


今日は旧盤を聴きながら、夫婦で会話、でしょうか。




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