★ふして詫ぶ我らを助く音盤よ

※ふしてわぶ われらをたすく おんばんよ


「申し訳ございません!」

「すみません!」


部下と一緒に、取引先にお詫びに。


そもそも、私のせいでも、部下のせいでもない案件。


今どき、同じ大学卒だからって、使えない社員を贔屓するか? 課長よ。


「君達なら、あの取引先も許してくれるさ」


そんな訳ないだろう!

再発防止策、手土産。


お渡ししたけど、許して頂けるとは……。


「全くねえ、君達のせいじゃあないんだろうけど」


理解して頂いてる! 

申し訳なさすぎる。


「誠に失礼を。こちら、よろしければ」


いや、部下よ。

何か、用意してくれてたのか? でも……。


「……これは」


「はい、社長が大学時代に演奏されていた曲のレコードです」


「再発売の……限定版じゃないか!」


「はい。ですが、まずはお詫びを申し上げるのが当然でございますので」


「さすが、君の部下だなあ。よし、私が直接君のところの部長に話すから、今日は帰りなさい。この案件は君達以外とはやり取りしないことにするよ」


まさかまさか、の展開。


「ありがとうございました!」

とりあえず、二人で礼。


帰り道。


「ありがとう」

「ああ、いいんですよ、係長。あの課長が、俺がパソコンいじってた時に何も知らないくせに『無駄なことすんな』って言ってきたの、『業務上必要なんです』って言ってくれたじゃないすか。俺、恩返ししたくて。無駄じゃないっすよね、あの社長さんの履歴も調べられたんだし。あ、公式のだけですよ!」


それは、心配していない。


この部下は、意外と真面目なのだ。


それにしても。

そんなことも、あったかも知れない。


だが、ここまでしてもらうようなことでは。


「俺が感謝してるんだから、いいんですよ。で、これ。なんとか経理に了承してもらえるように手伝って下さい」


示されたのは、あのレコードの領収書。


少し、高いな。


けれど、まあ。


仕方ないな、とその時は思った。


しかし、翌々日。 


部長が直々に課長とその腰巾着の課長補佐を締め上げているのを見て。


俺と部下は、思い切り溜飲を下げたのだった。


領収書? 部長が経理に掛け合ってくれたよ。


手土産の銘菓代と一緒にね。



※ふして、には 伏して、と 付してを掛けております。


係長さん、本当に伏してはおりませんが、気持ちの問題です。

本人が思っている以上に、相手には感謝されている。そんなこともありますよね。


再発のレコード。


取引先の社長さんの、思い出の曲です。


ロカビリーバンド? ロック? ジャンルはなんでしょうか。

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