そうだ今日はビールを飲もう

スライム道

短編

そうだ今日はビールを飲もう


思い立ったのは25匹目のゴブリンを殺した後だ。

今日の仕事を終えれば、深夜に近い時間になっていた。


これまでの人生を思い返す。

当時最も夢のある職業として名をはせた冒険者、もとい害獣駆除の個人事業主。


夢のある職業に就いたのだからもっと夢があるように話してほしいだろう。

現実はそう甘くない。

肉を叩ききり、悲鳴を上げられながら骨すら叩き追っていくのをずっとやっていれば誰だって気がおかしくなるさ。


彼らだって生きている。

動物保護団体が減らないのがよくわかるよ。

でも、それが仕事なんだ。

悲鳴を聞いても、いやな感触があっても、その分だけの対価、給料をもらっている。

それに見合うかどうかは社会に決められている。

自分に見合って無くとも社会には見合っているのだから割り切るしかない。


それなりに行った後は疲れて寝てしまう。

元々人付き合いも下手で他人と絡むこと自体ほとんどない。

仕事の取引先の人だって俺を避けている。


血の匂いも取れないから、動物は俺を避けて通る。

猫カフェだって行けやしない。

動物は人間よりも利口だ。

何千と殺して来た人間は避けられるのだ。


途方にもない孤独を感じた時、人は無性に逃げたくなる。

身体がいくら走ってもたどり着くことのできない。

心の荒野から逃げ出せる道を探して走る。


心のうちをさらけ出したければキャバクラに

人肌が恋しければ風俗に


そして、俺みたいな金無しは缶ビールを積み上げるのさ

しがない思い出を思い出すためにやるのがメインかな。


「いらっしゃいませー」


夜遅い時間にやっているスーパーは少ないが、あるにはある。

節約を心掛ける独り身には絶対にスーパーに行く意思が必要だ。

つまみを調達するにもスーパーの方がコンビニよりも良い。


缶ビールコーナーを行くと先客が一名居た。

パジャマ姿の男性だ。

見たところ中高年サラリーマンだろうか、少し腹が出ている。

深夜のスーパーで近場であれば休日のときは大抵そんな恰好をする人が多い。


どうやら糖質オフにするかどうか悩んでいるらしい。

糖質オフと聞くとどうにも美味しくなさそうに思えてしまうから俺は敬遠しているが、年を重ねれば健康に気を使わないと行けなくなる。


っと、あまりじっと見るものではない。

さっとビールを手に取り持っていく。


するとパジャマ姿男性は一瞬こちらを見た後、俺と同じ糖質オフではない方を手に取った。


俺はそのままつまみを求め惣菜コーナーに向かう。

パジャマ姿の男性も同じくつまみを求めているのか一緒に行く形になった。


深夜ともいうこともあり、惣菜コーナーにはポテトが一パックのみ。

これではやや物足りない。

冷凍食品コーナーでからあげも追加するか。

と悩んでいるとパジャマ姿の男性が声をかけてきた。


「よかったら私の家で一緒に晩酌しませんか。」


見ず知らずの人にそういわれると思ってもいなかった。


「ええと。」


「いえ、なんとなく疲れていた目をしていましたので愚痴でも語り合えれば、楽しくなれるかなと。」


そんなにひどい顔をしていただろうか。

鏡は毎日見ているが、そこまで顔色が悪くなったことは無いのだが。


「実はですね、私もなんとなくお酒に走りたいんですよ。」


「え?」


「よろしければ酒と一緒に話させてください。

 家に枝豆もありますから。」


ならまあと思い一緒に飲むことになった。


男性の家には子どもや妻のものと思われる小物がたくさんあったが、男性のものがほとんどなかった。

それに、靴もない。


「妻たちは旅行中でね遊園地に行っているみたいです。」


慣れた手つきで枝豆をゆで上げる名も知らぬおっさん。

俺も独り身故に、何かしら手伝う。

ポテト一パックでは明らかに足りないのでジャガイモを追加で買ってきている。

ジャガイモを洗い、アルミホイルで包む。

他にアルミホイルを皿に味噌を載せたモノも魚焼きグリルに放り込んだ。


料理ができるまで互いに無言だ。


「あなたは、冒険者ですかね。」


「今まで一度も冒険したことないですけどね。」


料理を終えたのち、缶ビールを開ける音が鳴った。

愚痴の殴り合いのゴングなのか。

本音を打ち明ける祝砲なのか。


そんなことは全部ビールとともに胃に流し込まれた。

計12本の缶が積み上がり、日を跨いだ。


独り身も、結婚した身もどちらも大変であるという結論だけがその場に残った。

ただ、なぜか知らないが互いに名を明かすことなく抱き合って眠っていた。

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そうだ今日はビールを飲もう スライム道 @pemupemus

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