第19話 【5月上旬】朝日向火乃香と二人三脚
今年の
カレンダー的にもそうだが、
休みが明けても息つく暇は無かった。
ただでさえ連休明けは御来局される患者様が多くて忙しいのに、そんな仕事の合間を縫ってでもやるべき大切なことが、俺にはまだ残っていた。
ひとつは、ウチの親父と火乃香のオフクロさんが入るお墓について。
親父達が事故に遭ってから間もなく。行政から火乃香宛てに死亡通知が届けられた。
身内に不幸があった際、残された家族は役所に死亡届を提出する必要がある。これは未成年でも届け出が可能なので、火乃香も役所だか警察だかの人に教えて貰いながら書いたという。
本人は『よく覚えていない』と言っていたけど、当然だろう。まだ高校生だと言うのに唯一の肉親が亡くなったのだから。俺が彼女の立場なら、きっとショックで死亡届どころじゃない。
葬儀は市が主催する民生葬(市民葬)で行われ、ほとんど直葬と変わらなかったらしい。お金の面でも役所の人が計らってくれたらしく、葬費は助成金などで
そうして、火乃香はなんとか二人を見送ることが出来たようだ。
だけど、そんな風に火乃香を慮って色々とフォローしてくれた行政機関が、未成年の彼女に事後手続きを依頼するとは考え難い。
これは邪推だけど、恐らく彼女の祖父母にも連絡が行ったはずだ。だが取り付く島もなく突っぱねられたか、あるいは……どちらにせよ、俺以外に頼れる人間が居ないのは間違いないらしい。
話を戻そう。
今考えるべき問題は納骨先……お墓についてだ。
遺灰は火乃香に預けられたらしく、彼女の実家に安置されていた。
「朝日向さんは分からないけど、ウチのお母さんはお墓とか要らないと思う。家の近くの海にでも撒いたら」
どこまで本気か分からない雰囲気で、火乃香はそう言っていた。映画みたいでロマンもあるけど、流石にそれは
余談だが遺灰を散布する行為は違法に当たらないらしい。埋葬や埋蔵は墓地以外で行ってはいけないのに、散骨はその限りでないという。
悩んだ挙句、俺はオフクロに相談を持ち掛けた。
「私は別にお墓どこでもエエし、火乃香って子ぉが良いなら、その子のお母さんも朝日向の家のお墓に入れたげな」
そう言ってくれたのは意外だった。
今更だが俺の苗字は父方の姓だ。オフクロも旧姓には戻していない。というのも、氏名を変更すると
朝日向の姓に思い入れや執着があるのかと思っていたけど、そういう感情は一切ないらしい。だから自分の墓も実家だろうと共同墓だろうと、
その言葉が本心かどうかは、俺には分からない。
だから俺は、ただ「ありがとう」と頭を下げる事しか出来なかった。
愛犬(トイプードル)のキキちゃんに、下げた顔をこれでもかと舐め回されながら。
「いつか、アンタのお母さんにも御礼しに行く」
納骨を終えた帰りの電車内。窓の外に流れる景色を見つめながら、火乃香がポツリと呟いた。
その願いが実現されるのは、多分もう少し先の事になるだろう。だけど俺も、オフクロには火乃香の事を受け入れて欲しいと思う。
「いつか、3人で飯でも食いに行こうか」
艶やかな髪を撫でて言うと、火乃香は少しだけ恥ずかしそうに頷いた。
◇◇◇
GWが明けて
火乃香の
面談内容は俺の生活状況や心身の状態、職業や経歴など素行調査が中心だった。正直、面談というより取り調べや圧迫面接という印象だった。
だがそれも仕方のない話。なにせ俺と火乃香は、
それも俺は、未婚で一人暮らしの異性。
後見人になるにしても、祖父母を始めとする血縁者や同性者、既婚者より調査が厳しくなるようだ。
よもや申請が受理されないのではと一抹の不安が脳裏を過った――その矢先。
「血は繋がってないけど、
訝しげな調査官に火乃香が念押ししてくれた。俺を信頼してくれている事もそうだけど、火乃香の口から「
意外にも
そうして俺は名実ともに火乃香の
俺達の、長い長い二人三脚走の始まりだ。
-------【TIPS:水城泉希の服薬指導メモ】-------
今更だけどウチの薬局は日曜日と祝日がお休みよ。お盆と年末年始に長期休暇もあるけれど、その日程は病院さんの都合に合わせることが多いの。平日は木曜の午後がお休みだから、私も悠陽も用事がある時は大体いつも木曜日に済ませているわ!
朝日向調剤薬局の営業日時は以下の通りよ!
月・火・水・金 09時00分〜19時00分
木・土 09時00分〜12時00分
日・祝 定休日
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます