40話「薫無双」

「な! そ、そんな!」


 斉木の驚愕の声が聞こえてきた。


 俺は大雨でぬかるんだ地面にうつ伏せになって、全てを諦めて目を閉じていたのだが、うむ、なにやら事態が動いたようだ。


 顔を上げると、そこには――。


「か、薫――」


 土砂降りに打たれながら斉木たちを睨み付ける、金属バットを持った薫の姿が!


 ブレイカーズの連中はなかなか手を出さない。いや、出せない。金属バットを持った薫は、まさに鬼に金棒という表現がぴったり。


「ひぃぃ! 八ツ崎薫じゃないか! ど、どうしよう総長!」


 ブレイカーズの連中は震えあがっている。


「落ち着け貴様ら!」と斉木は一喝する。「八ツ崎薫、確かにヤバい相手だが、こっちは数で圧倒している。恐れることはない! 総員、戦闘配備!」


「来るんだったら別にいいけど、ほんと、今日は容赦しないわよ?」


「くっ……!」


 薫の邪眼に睨まれ、やはりブレイカーズは動けない。

 

 薫、やはり只者ではない。


「八ツ崎薫! これでも食らえぇ!」

 

 斉木がドッジボールを投擲とうてきする。吹き付ける暴風をものともしない、凄まじい速度のストレートだ。


 ボフッ、という音が鳴り響き、ドッジボールが斉木の元に返っていく。薫がバットで打ち返したのだ。


「んなぁ!」

 斉木は打ち返されたボールを間一髪でかわすが、その後ろにいた構成員はモロに顔面に食らってしまい、気絶した。


「ノロマでヒネりもない、つまらない球ね」


 薫は挑発的に言った。

 そして再びバットを構えた。


「きっさまぁぁぁ!」


 斉木はまたボールを投擲した。今度は凄まじい回転がかかった変化球。


 薫は軽快なステップで数歩移動し、また打ち返した。

 そしてまた一人、構成員を撃破した。


「これならどうだぁぁぁぁぁぁ!」


 斉木がまたまた投擲。もはや薫にぶつける気はないのだろう。完全に明後日の方向に投げた。


 薫はダッシュでボールに追いつき、またまた打ち返した。

 そしてまたまた構成員を一人撃破した。


「総長! あいつやっぱバケモノですぜ!」


「くっそぉ……!」

 斉木は唇を噛みしめる。


「八ツ崎さんが来たからにはもう安心だぜぇ!」


「八ツ崎薫! これはこれは!」


 ブレイカーズの蹂躙じゅうりんから逃れた俊吾と玲が、薫の横に並んだ。


「五月。さぁ、ミチルちゃんのところに行ってやれだぜぇ」と玲。


「五月よ、行け」と俊吾。


「五月。行きなさい」と薫。


「みんな、すまない!」


 俺はセグウェイを立て直し、疾走した。


 背後でときの声があがった。

 薫たちとブレイカーズの本格的な戦闘が始まったのだ。


「みんな、無事でいてくれよ……」

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