第4話 ハラハラの幕開け~今日から、魔女の卵です! ①

セイラは、一般家庭の人間である。

家は、特に金持ちの家柄ではない。

 両親は離婚し、母親は他界。

セイラは、母方の叔母夫婦の元で暮らすことになる。

 しかしながら、愛情をいっしんに受け友達にも恵まれていた。

 勉強は得意ではなかったし、容姿は華がある方でもなかった。

 

 こんな平凡で魔法とは無縁の世界で生きてきた自分が、魔女学校の入学試験を受けるだなんて、思ってもみないことだった。



 聖マリアナ女学園ー。


 そこは、創立1000年の由緒正しき良家の魔女が通う伝統的な魔女学校である。


 その学校は、世界的に有名であり、毎年、2500から3500人程の魔女の卵達が応募する。

 しかしながら、この学校の応募条件は厳しく、一定の条件を満たさないと入れない。


 そして、魔女の卵達は競争倍率25倍前後の、難関の入学試験のふるいに掛けられるのだ。

 今回の応募者数は3000人で、合格率は僅か4%。

定員は、たったの120人。

 


 しかしながら、この学園はかなり人気の高い学校であり、応募者数は年々うなぎのぼりで倍率が上がってきている。




 高等部に進級したら、まず就職活動の手厚いサポートがなされており、進学を選んだ卒業生は魔法省への就職が約束されているのだ。



 セイラは、亡くなった母親がこの学園の生徒だったと聞いて、興味本位で受けてみたら、なんと合格してしまったのだ。

 


入学試験は、3次選考まであった。


 

 一次選考は、謎のペーパーテストであった。応募書類を提出した2週間後に、書類が届けられた。魔法に関する基本知識100問と論文1200文字程度、性格診断を100問程受けた。魔法についての基本知識知識は、ほとんど未知でありセイラは適当に答えた。



 二次選考は、奇妙な骨董屋で私服姿の奇妙な格好をした謎の人達と待ち合わせした。

 その奇妙な人達は、何処となく悪魔のような案山子のような不気味さを漂わせたな感じであり、セイラはら不安と恐怖に掻き立てられた。



 そして、最終選考は、実際にこの城に来て実技試験を受けた。

この時点で、400人近くが残っていた。


 そこで、得意な魔法を1つ披露することになった。セイラは何すれば言いのか困惑していた。一応、母親が使っていた形見の箒に跨ると、ポーズを取った。

 箒はふわりと浮き、窓を突き破り激しく不規則な弧を描き急上昇した。

 そして、隼のように猛スピードで上昇すると、再び急降下しセイラは軽く尻もちをついた。


微妙な空気の流れる中ー、

校長だけは大受けし、セイラは合格してしまったのだ。


 最終選考では、280人がふるい落とされたのだった。



 この、T塚を彷彿とさせる難関の試験に、この魔女ではない平凡な自分が合格するだなんて、夢にも思わなかったー。



「良いですね?その鳥は私が預かります。」

先生は、声を張り上げるとセイラから鳥を取りあげた。


 城の中は、薄暗く歴史のある荘厳な雰囲気を感じられた。

高さ3メートル程ある天井から、白鳥をモチーフにしたような感じのお洒落なシャンデリアが吊るされていた。

 創立1000年の歴史のある趣のある建物の中で、セイラの胸は高鳴った。



 先生達が、生徒をホールへと案内した。



すると、姿見が、ふわりと宙を浮きセイラの前に現れた。

「え、あ…」

セイラは赤くなり、襟元やボタンを掛け直した。


ホールは、広く優雅な空間だった。


ステージの両端には、ギリシャ神話を連想させるかのようなお洒落な銅像がある。


ステージに校長先生が上がり、祝辞を述べた。



先生の祝辞が始まると、セイラは何処となく軽く寒気を覚えた。

セイラは、その寒気の感じる方へと視線を移す。


 すると、ドライアイスから発せられる冷たく白い煙のような物が足元を覆いつくした。


辺りをキョロキョロ見回すと、自分から見て右端の方に、ポツンと人影が見えた。

 全身黒ずくめの男が、腕組みながらポツンと壁にもたれ掛かっているのが見えた。

 背中からは大きな黒い奇妙な翼が生え、床には無数の黒い羽根が散らばっていた。

そして彼は、目が完全に萎れており、何処となく陰鬱そうな表情をしていた。


「ねぇ、あの人…」

セイラは、ブリギットの袖を強く引っ張るとその謎の男の方へ顎を向けた。

「え、何…?」

「ほら、この人、あの、隅の方にいる人…」

セイラは、そう言うとその男の方を指差した。

「…」

ブリギットの顔は、急に強張った。そして、彼女は、何かを悟ったのか強く首を横に振るとセイラの襟元を強く引っ張った。



「では、生徒会長より直々のご挨拶があります。」

校長先生が手を叩くと、前列中央の方から上級生が姿を表した。

「こんにちは。生徒会長のエメリアです。」

エメリアは、優雅に階段を上がるとステージの上で祝辞を読み始めた。

上品な顔立ちの女性だ。 

プラチナブロンドのウエーブヘアに、エメラルドグリーンの瞳ー。

陶器のように白く透き通った肌をしていた。まるで、天使のような優雅で繊細な美幌の持ち主だ。

「綺麗な人だね…」

「彼女は、上流貴族の家系で親がエリートなのよ。母親が有名な、リリアナで偉大な魔女らしいよ。」

「お母さんは、何した人なの?」

「例の、アルカナの13人の魔女のうちの1人を葬ったのよ。」

「『アルカナの13人の魔女』…?何それ。そんなに、凄いの?」

「彼女達は、かつて、土に葬られし13人の魔女よ。最恐の魔女と魔法界で恐れられてるの。彼女達は、魔女裁判に対する強い恨みの念があったみたいでね。それで、教会を次々と襲撃したらしいの。人間界は、混沌の渦よ。そんな、彼女達が蘇ったらしいのね。それから、110年程経ったけど…ほぼ姿をくらましてる状態だからで皆手を焼いているのよ。」

ブリギットは眉を寄せ、この世の終わりと言わんばかりの深刻そうな顔つきで話した。

「…その内の、1人をエメリアのお母さんが…?」

「ええ、そうよ。重症を負ったみたいだけど。」

「へぇー。」

セイラは、感心した。

全てが、新鮮過ぎるのだ。初めて城の内部に入ったあの日から、セイラはワクワクが止まらなかった。勿論、強い不安もあるが、ワクワクの方が勝ってしまっていたのだ。

新鮮な情報が、滝に打たれたかのようにセイラの脳を強く刺激していたのだ。

「そこの二人、ここはお喋りの場ではありませんよ!」

先生が、厳しく声を張り上げる。


「「あ、すみません…」」


二人は、ハッとし口を閉じた。 



「では、組分けを発表する。呼ばれた者は、指定された組のテーブルに行くように。まず、Aクラスから。エスメラルダ、イザベル、アナスタシア…」

校長は、声高々と新入生の名を読み上げた。

「一緒の組だといいね。」

「うん。」

セイラは、テンションを抑えようとブリギットに話しかけた。

 


 先生の振り分けが終わり、生徒は各クラスの上級生らに引率され寮の方へと向かって行った。

「わー、一緒だ、これから宜しくね!」

セイラは、ハイテンションでブリギットの肩を軽くた。

「うん、宜しく、ね。」

ブリギットは、驚いたように頷いた。

「どうしたの…?元気ないみたいだね…。私達、合格したんだよ?倍率25倍だよ。凄いことじゃない?」

「これは、当たり前だもの。肝心なのは、これからよ…」

ブリギットは、顔を曇らせボソッと言った。

「え…?」

「ううん。なんでもない、宜しくね。」

ブリギットは、軽く溜息ついた。彼女は、猫背でしおれた花のように項垂れており元気がない感じであった。



「校長は、一体、どういう思いがあって、あんな子受からせたのかしらね…一次選考、魔法の基本知識、35点。『ハリポタという本を全シリーズ見ていたから。』と、豪語してましたよ。しかしながら100点満点中、この点数。性格診断は、冒険家タイプ。あの子、新しいことに自信があったみたいで…」

薄暗い広い廊下で、丸渕眼鏡の長身の痩せた先生は、溜息つきながらカツカツヒールの音を響かせた。

「まあ、確かにそういう気になるカ所は所々にありましたね。確かに、論文は誤字脱字だらけで幼さはありました。ですが、内容は前向きで希望に満ちてましたし、二次面接は怯える素振りはあったものの、勇敢でエネルギッシュではありましたから…」

ふくよかな先生は、穏やかにに宥めた。

「それにしても、何なのですか?あの、飛行術は…全くもって基本のきの字すらなってませんよ。優雅ではありませんし、いかにも乱暴な飛び方で野蛮という言葉がお似合いですわ。」

丸渕眼鏡の先生は、声をキンキン張り上げた。相当、セイラが気に食わないようだ。

「まあ、校長がお気に入りなささっていたのですから…私共は、校長を信じるしかありませんわ。」

「まあ、それは、そうなんでしょうけど…」

丸渕眼鏡の先生は、何処となく不服そうな感じであった。

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