第2章

「今日は、僕の職場で訓練だったね。」

 スケジュールを確認しながら、紅葉に語りかける。

「うん!」

 今日も元気いっぱい。よろしい!

 紅葉とあってから約一年が経過していた。

 その間に紅葉は、いろいろと成長した。

 いや、急激に成長した。

 会った時は、4歳くらいの幼い印象だったが、今では9歳くらいの少し小柄なくらいにまで成長していた。

 刮目して見よ! と言われれば驚愕して見てしまったとみんないうだろう。

 それでも、彼女はおそらく生後3年くらい。

 つまり三歳くらいだ。

 今後の成長が楽しみだ。




 紅葉は、日替わりで予定が変わる。

 週三日は、防衛局『特務隊 零』の見習いとして魔法の訓練を兼ねている。

 後の四日間は、四乃宮家でメイド訓練をしていた。

 メイドの訓練として、静さんが教えてくれるのはいいことだと思った。

 ………のちに後悔した。

『四乃宮家のマスターキーは、散弾銃です。』

『四乃宮家の当主が逃げたら、地獄の底まで追いかけましょう。』

『四乃宮家のメイドは、完璧な制圧力を持たなければなりません。』

 僕が、この事実を知った後、緊急家族会議を開き、メイドを目指せるように教育方針を改めるように言った。このままだと、メイドではなく冥土様になってしまう。

 この家族会議で、円さんが猛烈に賛成したことで改善する流れとなった。

 具体的には、掃除、洗濯、料理、家計管理等できるようにしてもらうためだ。

 いずれ、僕のもとから紅葉は旅立たなければならないからだ。

 その時に、一通りできるようになってもらわないといけない。

 彼女の進路を考えるうえで、悔しかったのが普通の進学校に通わせることができない点だった。

 軍学校は、だれかれ構わず入れる。

 これには理由がある。

 防衛局は常に、人手不足に陥る。

 その理由が、防衛局配属後の初任務での死傷者数が格段に多いからだ。

 軍学校では、練習という保護があったが、実践では失敗は死を意味する。

 学生気分が抜けていない、もしくは学生のようにおざなりに任務を受けようとすると、死ぬことになるからだ。

 例えそれが、超人的な能力を持っていても、だ。

 だからこそ、防衛局の人員は常に人を欲している。

 だから、軍学校には募集規定がない。

 要するに、数多く投入すれば誰かしら生き残ってくるヤツがいる。それに、コロニーを防衛できるからいいよね、というシンプルなものだ。

 でも、コロニー内部にある進学校は違う。

 コロニー内部の運営にかかわる職業に将来、つかせるためにより能力の優れたもの、つまり頭のキレる人を育てるための機関だ。そこには募集規定もあるし、椅子取りゲームでもある。

 たとえ、四乃宮や甲斐田の名前を出したとしても難しい。

 募集規定には、コロニー出身であることが絶対の条件として設定されているためだ。

 紅葉は、この規定に引っかかる。

 ゆえに、進学校には進めない。

 行けるのは、軍学校のみ。

 しかし、軍学校では紅葉の能力は観測不可能。

 時間と時間の境界線の間に自分だけの時間を作り出す。

【停止世界】

 このコロニーで、彼女と対等に渡り合える人はいない。

 だから、軍学校ではなく防衛局の『特務隊 零』で魔法の訓練と実践を積ませる流れとなった。もちろん、僕は彼女の世界に干渉することができるから問題ない。

 でも今は、後悔がある。

 学校という教育機関は勉学に勤しむのとは別に友達を作るという機会を得る場面でもある。それを省いて、『特務隊 零』に入れてしまった。これは、完全に効率に重きを置いてしまった僕のミスだ。


 話を戻そう。

 いろいろ言ってきたが、問題がある。

『特務隊 零』の強さの序列と地位の序列が合わないのだ。

 強さの序列は以下の通りだ。

 甲斐田悠一。

 甲斐田紅葉。

 月下健吾。

 月下知里。

 北条蒔苗達。

 石永伸一。


 と、なっている。

 しかし、地位は以下の通りだ。

 隊長である、僕、甲斐田悠一。

 副隊長、月下知里。

 諜報員、北条蒔苗。

 一般隊員、月下健吾。

 同じく一般隊員、石永伸一。

 新人兼マスコット、甲斐田紅葉。


 これには、ちょっとめんどくさい要因が関わってきている。

 まず、紅葉の魔法は一般人が観測できないため力量判定ができない。

 健吾君の魔法は、あてられたら死んでしまうので力量測定不可。

 この二名の魔法特性が厄介だったため、相応の地位を用意できなかった。

 ただ、知里さんはイラつきながらも仕事に関してはまじめに取り組んでくれている。それに、フォローとして蒔苗さんもついている。

 さらにその工程を見ながら、石永君も事務仕事をこなせるようになってきた。

 また、健吾君に関しては、蒔苗さんと一緒に世界的な情報収集と精査をしながら脅威分析、および人的派遣の順番を整えてもらっている。その脅威レベルに応じて、誰を向かわせるのか、もしくは誰と誰を組み合わせて対処させるのかを決めてくれている。


 そんな激務でも水曜日だけは、別だ。

 この水曜日だけは全員揃うようにみんな調整されている。

 それは、全員の力量を引き出すために定期的に特訓試合をするためだ。

『特務隊 零』は、今はそれぞれの特色に合わせて派遣されているが、今後はどんな場面においても臨機応変にこなしてもらいたいからだ。




 全員で、練習場行くと毎回、防衛局員がそろって見に来ている。

 中には、防衛中の待機組に中継を回すために、【ゼロシフトスクリーン】を展開する始末だ。中には、軍学校の教官が中継器を設置しているところが見えた。

 仕事しなさいよ。

 それに、組み合わせは絞られる。

 知里さんや石永君、蒔苗さんは健吾君と紅葉とは組ませられない。

 だから、総当たり戦はできない。

 でも、最後は僕との対戦が待っているからどちらにせよ、覚悟してもらうことになる。




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