第21話 脅迫状

「今日はありがとう。あたし結構……。いや、この話は止めておくよ」

 あかねは探偵事務所の前で、車を止めて助手席の真に言った。

「あの、ママとのやり取りで機嫌が落ち込んでいた話ですか?」

「だから、何でもないって言っただろ。ホントにまこっちゃんは、変なとに首突っ込みすぎなんだよ。そこだよ、女の子に好かれないところ」

「はい……」

「あ、今日は明かりが付いてるね。つむぎ帰ってきてるかな?」そう言って、あかねは窓越しに三階を見上げる。

「妹さんはこの時間帯に帰ってくるんですか?」

「まあね、あの子は茶道部に入ってるんだ。五時半に終わるらしいから、そこから徒歩で歩いて十分。六時くらいには帰宅するんだ。まあ、帰宅するようにあたしが言ってるんだけどね」

 相変わらず妹愛が強いなと、真は思った。このままだとつむぎがしんどくなるんじゃないかと心配になる。

「じゃあ、明日ね」

 と、あかねが言って、真は「お疲れ様です」と言って、車のドアを開けた。


 あかねは事務所のドアを開けた。晩御飯のハンバーグの匂いが一気にあかねの鼻を刺激する。

「お、今日の晩御飯は豪華じゃん」

 あかねはそう言ってはしゃぎながら、手を洗った。

「今日が豪華だったらいつも豪華じゃない。お姉ちゃんはホントに褒め殺しするね」

 つむぎはフライパンで焼いた、ハンバーグを大皿によそった。

「けなすよりも褒めた方がいいでしょ。どっちも機嫌が良くなるし……」

 やけにテンションが高くなっているあかねに対し、つむぎは冷静に彼女を見ていた。

 あかねは奥にある食卓の椅子に座った。

 つむぎはフライパンをコンロの上に置いて、小さい収納ボックスの引出しから茶封筒を取り出した。

「そう言えばさ、家に帰った時に、こんなものが郵便物に入ってたんだけどね。心当たりある?」

 つむぎは茶封筒をあかねに渡した。

 あかねはきょとんとした顔で、裏を見た。

「差出人何も書いてないね」

 そう呟いて、中に入ってある四つ折りの紙を取り出して広げた。

「……何、これ?」

 その紙にはこう書かれてあった。


 “今すぐ篠原舞子の捜査を止めろ。さもないとコロス”


「気持ち悪いでしょ。それが入ってあったんだよ」つむぎは両腕をさすった。

 宛名も書いていない、もちろん消印も押されていない。あかねは顎に手を当てた。

「この封筒は単純に考えると、あたしの探偵事務所の場所を知ってて入れたんだ」

「そうだろうけど、お姉ちゃん心当たりあるの?」

「うーん」

 あかねはその文章をもう一度見た。手書きで書かれている。

「丁寧に書いたつもりだけど、ちょっと癖があるよね。丸文字とか……」

「女の人の可能性高いってこと?」

 つむぎは青ざめた表情で聞く。彼女は大変な怖がりなのだ。

「その可能性が高いよね。しかも、結構焦ってこの文面を書いて、事務所のポストに入れたんじゃないかな……」

「どうして?」

「だって、手書きだもん。手書きなんて筆跡鑑定ですぐに分かることだよ。普通新聞紙で切り取って文面にしたり、パソコンなんかで文章にするじゃない。誰だか分からないように」

「ああ、確かに」

 つむぎもいつしかあかねと同じように顎に手を置いていた。

「と、言うことは、結論からすると、犯人はもうすぐあたしが解いてしまうくらいのところまで来てるってことなのかもしれないよね。それで、いても経ってもいられなくなって思わず投函したってわけ」

「お姉ちゃん、犯人の心当たりあるの?」

「ううん」

 と、即答で首を横に振るあかねに、思わずつむぎはずっこけそうになった。

「それじゃあ、その推理間違ってるんじゃない?」

「いや、そうとも限らない。さっきも言ったように犯人は焦ってこの行動を取ったんだよ。だから、墓穴を掘ってしまった。これによって分かることは、犯人はあたしと会っている人物じゃないかなって思う」

「女の人だったら、それほどいないよね」

「うーん……」

 早く解決して欲しいと願うつむぎとは裏腹に、つむぎの気持ちも気になるが変に闘争心を燃やしているあかねはこの文面を楽しんでいる。

「心当たりもないし、誰かわからなかったら、あたし怖い……」

 つむぎが心配そうにその手紙を見ている。あかねはようやくつむぎの気持ちを読み取って言った。

「大丈夫だよ。あたしが解決するから」

 と、ニコッと笑った。

「もう、お姉ちゃんはいっつもそう言って、すぐに解決しないじゃない」

「今回ばかりは大丈夫。助手がいるから……。あ、そうだ、つむぎがそんなに怖かったら学校まで送り迎えしようか?」

 つむぎは少し戸惑ったが、コクンと頷いた。

「分かった。とっておきのボディガードを用意するから」

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