第14話 こんなところで……
「大森組って、ここ?」
車を止めた後、あかねは目を見開いた。
「ああ、そうだ」
菅が言う。
真も車から、大森組のビルを見上げた。数を数えたら階数は五階というところだろう。オフィスがいくつあるんだろうというくらい、大きなビルだった。
「このビル、全部大森組ですか?」真は菅に聞く。
「ああ、そうだ。大したもんだろう」
窓が数えきれないくらいあるが、全てにブラインドが掛かっている。こちらからは何をしているのかは見えない。
車はビルの隣に止めたわけではなく、少し距離を取ってそこから双眼鏡を使って、入り口付近の人の出入りが何とか見える。
菅は双眼鏡を使って、入り口付近を見た。「いろんな奴らが出入りするな」
「はたからはヤクザのビルには見えないね」
あかねは呟くように言った。確かに近隣は畑や古びた一軒家が目立つところに大きなビルだ。中に流れ作業の工場があってもおかしくない。
「どうするんですか? 大森組に入ってみます?」真は菅に聞いた。
「ダメだ、そんなことしちゃ。一気に怪しまられる。例え、探偵だと名乗ったとしても、探偵が何を持ってウチに来たんだ、と思われたら、顔も覚えられるし……」
「そうだね。ここは慎重になった方がいい」と、あかね。
「ということは、様子を伺うということですか?」真は言った。
「そうだな。この入り口付近に出入りする人物から何か進展が得られればいいが……」
出入り口付近はやがて誰もいなくなった。大森組の隣になる、立体駐車場から、何人かが車に乗り込む。
「追った方がいいんじゃない?」あかねは菅に聞く。
「うーん、そうだな……。ん?」
菅は双眼鏡越しに驚きを隠せなかった。入り口付近に艶がある着物を着た女性が男と出てきた。女性がこの場所で姿を見せたのは初めてだった。その為、菅はよりインパクトがあった。
「何かわかったの?」あかねも、助手席に置いてあった双眼鏡を手にして、使って見た。
「何だ、着物を着たおばさんが、男と話してるだけじゃん。菅さんこんな女がタイプなんだ」
「違う、そうじゃない。あの女性は確か、舞子が働いてるクラブのママだよ」
「ママ? 何でこんなところに?」
「分からない。少なくとも大森組とは関係がある」
ママらしき人物は、男と一緒に出掛けるのかと思いきや、また中に入った。
「出かけていったら、追えるんだけどな……」あかねは独り言のように呟く。
「取り合えず、今車を出した男たちを追ってみよう」
「四、五台くらい出て行ったよ。もちろん一台だけ追うんでしょ」
「ああ、そうだ」
菅は双眼鏡を脇に置き、エンジンを掛けた。
唯一双眼鏡を持っていなかった真は、何のことかさっぱりわからなかったが、エンジンが掛かっていない車内は暑かったし、丁度エアコンから涼しい風が入ってくるので良かった。
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