第3話 車内にて
真は鳥取まで着くまでに、色々と、池田のことを考えていた。
池田もこの出版社に入社してから一年しか経っていないので、池田の性格からすると、仕事には興味がない、お金に無頓着、人を見下し、こき使う。その上、自分のことは棚に上げる。といった、いかにもマイナスな性格でしかなかった。
なので、気弱な真にしては、池田は少々鬱陶しい存在でもあった。
そんな池田が、鳥取の未解決事件に関しては凄く調べている。どういった意図で調べたのかは分からないが、きっとこれがジャーナリストになるきっかけだったのだろうと真は推測する。
実際に、その旨を伝えると、
「ああ、そうだな。俺がこの仕事をしようと思い立ったきっかけだったな。俺は何かを探すのが好きなんだ。目的がないとダメな人間さ」
と、一見熱く語っていたが。
「まあ、俺のことはあんまり調べないでくれ。プライベートに踏み込まない時代だろう」
と、拒絶された。
真はそれ以上に、池田のことは聞かなかったが、仕事上興味があった。いずれかはこの人の過去も調べたいと強く思っていた。
「しかし、暑いな」
東京から鳥取まで車で行くと、もう夕方になっていた。
「どうします? 一日目は市内で宿泊しましょうか?」
真は恐る恐る聞いてみる。が。
「いや、取り合えず村まで行ってみよう」
池田は目が本気だった。
「暗くなったら調査できないですよ」
「分かってる。でも、その時はその時だ」
池田の性格はすべて把握していない真だが、彼は一旦決めると、はっきりしないと納得いかない性格だ。
真もその気持ちはわかるが……。そう思って、池田が持ってきたノートパソコンを起動し、USBメモリを差し込んだ。
そこにはいろんなデータが入っていた。
今から十三年前の八月十八日、暑い夏に猛威を振るう台風が南西から鳥取を直撃、朝は晴れていたのだが、昼の三時から次第に曇ってきて、夕方から続く雷とともに、大雨に見舞われる。
という文章から、殺害された人物、その後に洋館を放火させたこと、も書かれていた。
動機は金銭のもつれ? 四人は資産家だった。犯人も資産家? 四人は金を所有していた。この村でなく、別の村で当時一年以上前に金が出るという噂があった。しかし、どこに存在するのかは知らなかった。この四人は金をたくさん所有していたので、金は掘り起こしたものなのだろうか。そして、犯人とそのことで揉めていたのだろうか……。
動画も残されていた。観てみると、放火した後の洋館の焼け跡が映し出されていた。警察や村がゴミと化した廃墟を撤去したのだろう、台風の影響なのか、周りの木々にも焼けて燃やされた跡がある
「何せ山奥の村だったから、警察やマスコミらがやってきたときは、村人たちは驚いたらしいぜ」池田は前を見ながら言った。
「そうでしょうね」
「マスコミに殴りかかろうとした奴もいる」
車は赤信号で止まった、池田は窓を少し開けて、煙草に火をつける。
辺りは少しずつ暗くなっていき、田舎道に入っていた。田舎にも信号があるのかと真は思った。
「田舎に信号があるんだと思ったんだろう。まこっちゃんは都会生まれ都会育ちだもんな」
まるで真の気持ちを読み取ったかのように、池田は笑った。
「池田さんの生まれはどちらなんですか?」
「俺は九州の田舎で育ったんだ。だから、こんな田舎の暗い夜道なんて平気だ」
信号が青になり、車は発進した。
その直後、山道になった。真は車がガタガタ揺れることに、徐々に酔いを覚えていった。
青ざめていく真、しかし、池田はそれに気が付かず、真っすぐ見つめる。
不意に、池田は真の声が聞こえないことに気づいた。
「まこっちゃん、元気ないじゃないか」
池田は進行方向を見つめている。
「すみません。気分が悪いです。村はまだですか?」
「後三十分くらい掛かる。大分調査したから、この辺の道はある意味詳しいんだ」
「そうなんですね。うわっぷ」真は手で口を押えた。
「大丈夫かよ。車酔いなんて聞いてないぜ。パソコンばっかり見てるからだよ。遠いところを見とけよ」
「見てるんですけど……」
目の前は木々しかない。
「あと、ノートパソコンとUSBメモリも返せよ。俺が必死で書き上げたものだからな」
「はい、分かりました」
そう言って、真は後ろに置いていた池田の黒いリュックサックを取り出し、中に入れる。
「いったん休憩してやりたいとこなんだけど。ここで止めちゃあ、後ろから車が来るかもしれないだろう」
「そうですね。我慢します」
それから、三十分弱、真は手で口を押えながら遠くを見ていた。
「この辺だと思うんだけどな」
池田はスマートフォンを取り出して、調べようとするが、
「しまった、この辺は、圏外だった」
「圏外って……」
真は相変わらず手で口を押えているが、次第に気分が収まっていく感じを覚えた。
車は大きな草原があるところに停車していた。当たりは暗く、道には何十年前に建てたかわからない街頭がほのかに夜道を照らしていた。
「しまったな……」池田は運転席の背もたれのクッションを巻き込みながら、頭を組んでいた。
「もう、帰って明日にしましょうよ」
真はこの暗闇に落ち着けなくて、言った。
すると、池田は真を睨んだ。「もう、まこっちゃんはすぐに諦めるんだから。取り合えず、この辺で、泊まれる宿を探してみよう」
そう言って、また車は発進して、山道を進む。
五分くらいしたときに、一軒の家に明かりがついていた。
「見事な家だな。いや、宿泊かな」
と、池田は口を開けて驚いた。
「そうですね」
真は相槌を打ちつつも、宿泊だったら、助かると思っていた。
車はさらに進み、宿泊らしきもの――洋館についた、
明かりはついている。窓を開けると、洋館から少し話声も聞こえてくる。何人か住んでいるのだろうか。
真は車内で一日過ごさなくてはいけないと思っていたので、内心安堵の気持ちだった。
「何人かいるようだな。車が二台止まってる」
池田は二台ある車の横に止めた。
他の車は軽自動車、外車と、来客がいるようだ。
池田はエンジンを切った。
「ちょっと、泊めてもらえるか聞いてみよう」
池田は車のドアを開ける。真も慌てて助手席から外へ出た。
池田は洋館のドアの前まで来て、ライオン型のノッカーを二回鳴らした。
真はドアとは真逆の方向を見ている。本当に何もない、森林に包まれている。確かに細い道路でここまで来たが、必ずしも一本線ではなかった。このまま帰れば迷子になるのではないのか。
そんな不安を払拭するように、ドアが開いた。
白髪交じりのひょろりとした老人が現れた。
「どちら様ですかな?」
池田は頭をかいて笑った。「いやあ、俺たち迷子になりまして、どっかこの辺に泊まるところないか探していまして……」
「それは、それは……。この辺では民宿もないし……」
顎に手を置いて考え事している老人に、後ろから五十代くらいの女性が言った。
「登坂さん。ここだったら、一泊ぐらいいんじゃない? 別に迷い込んだお客さんもいるし……」
「あ、そうじゃったな。ここじゃったら、泊まっていきなされ」老人は笑いながら言った。
「ああ、助かります」池田は頭を下げた。そして、後ろで周りの風景を眺めていた真に怒ったように言った。
「何してるんだ。泊めてくれるんだから、お前も頭を下げろ」
真は池田の声を聞いて、慌てて頭を下げた。
「すみません。お世話になります」
「ほほう。二人じゃな。君は男の子かね。背が低いから女の子かなと思ったわい」
「すみません。若い女ではなくて」
と、池田は真の頭を押すように、ペコペコ頭を下げさせた。
「ハハ、ハハハハハ」
真は苦笑いをしながら、池田に気づかれないように睨みつけた。
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