世界はない

闇之一夜

世界はない

 ついに超能力に目覚めた。さっそく自殺に使う。まずは、自分の骨をすべて折ってみた。

 明日という人間が消えた。



 青春とは、まっ赤な遠吠えである。かまして逃げた乞食の行方が、最後まで生きていた子供のように、落盤100%! で、誰も助からプーチン。

「うっ、暗いな」

 糞シャレかますな、禿げタコチュウ汚物カビ。以上が預言者ラストプーチンによる「恐怖の大王到来」である。



 まだ息があるので、ナイロン心臓ごっこをする。自分を刺し殺してみた。鼓動ばかりが俺のなしている術を嘲笑う。

 成し遂げるでもなく座りすくむ僕の骨の、延長パイプ椅子。冷たく、きしんで、よどまないドブ川は、どす緑黄色い。




 夜になった。街の明かりは、まるで豆腐屋の笛。見ながら俺のガキがはしゃぐ。

「すごいぞ、手が器用だと、なんでもできるんだ! でも、君の気持ちはグランドキャニオン。この広大に、いったい僕のなにがはまるというのだろう」


 これを、「翼を縮めて羽ばたく若さの浪費」という。「誰もそんなことしてないから」と残ったのは、とくに問題のない、気にしても臭いだけの毒ガスだった。


「あーしろ! こーしろ! こーしなけりゃ殺すぞ!」

 などとメディアは恐喝に忙しい。またバカを追い詰めて大儲けだ。だから息をするのはやめたんだ。もう騙されるのはキリスト御免だ。




 なかなか死ねない体を持って考える。死んでも、消えるか、地獄だ。振り子、ビデオ、やじろべえ。みんな時代遅れで、君の仲間だ。

 なのに歳も食えず、成長しないと「クズだ」「クソだ」とうるさくて、いじめとかパワハラとか、なんやかや理由つけて自殺してやる。


 殺人鬼は夢の中でしか殺せないという。奴らがすぐ眠そうな目をするのは、人の痛みがわかると何もできないからさ。


 これをリア充ドブネズミという。食い散らかしてカースト、逆らえば毒蛾。羽ばたくだけで、みんな死ぬのは勝ち組だ。


 ついに超能力で隣人の首を折った。超能力なのにバレてしまった。なのに死刑はギロチンだ。今どき切断はSNSより受けた。きっと、いくら首を斬っても生えてくる陽気な奴らが、超新星でやってくるんだ、この星に。


 地球にいながら、地球の穴から、そっと地球を覗く。世界はなかった。なにもなかった。




  xxxxxx




 刑場からマフィアの親戚の助けで逃亡できた俺は、南米に潜伏した。俺の超能力は最高調に達した。今度こそ自殺に使う。包丁で、自分の細胞をすべて刺してみた。


 とたんに愛という名の人類がすがってきた。俺に泣きながら必死にすがってくるのは、「こんなありえないことが出来るなんて、きっと救世主に違いない」と思われたせい。インスタに上げなきゃよかったな。



 逃げまくる俺は、まだまだまだまだずーっとずーっとこの先死ねない、と悟った。

 こうなりゃ開き直る。足元に、また地球の穴だ。きびすを返し、無数の子羊どもに頭から突っ込む。笑いながら。叫びながら。


「どけ! 世界なんかねえ! 全然ねえ!」

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世界はない 闇之一夜 @yaminokaz

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