Capella

佐々木敦也

シェルレアン童話・小さな雌山羊と少女

昔々、小さな山には、一人の心優しい女の子と、子山羊が住んでいました。

女の子は、カペラという、死んだお母さんにつけてもらった名前が大好きでした。

女の子は子山羊にも自分と同じ、お母さんからもらった大事な名前をつけ、つつましやかに過ごしていました。

穏やかで、優しい生活。

けれど、カペラのことを、山のふもとにある村の人たちはこころよく思っていませんでした。

彼女たちのことを見ていると、必死に生きている自分たちがみにくく思えてしかたがなかったからです。

カペラも、毎日必死に生きていました。

村人たちのために、薬に使う花や木を育て、村で飼っている牛の世話を一生懸命にしました。

けれど、村人たちにはそんなことはどうでもよかったのです。

村人たちは、カペラにいろいろないじわるをしました。

彼女が育てている花をつんだり、お母さんの形見である大切にしていたペンダントを川に投げ捨てたりしました。

それでも、心優しいカペラは村人たちのことを、ゆるしてあげました。

本当は、どうしてそんなことをするのか聞きたかったけれど、怖くて怖くて、とても聞けなかったのです。

自分が何かをしてしまった、とカペラは考えました。

心当たりはなかったけれど、優しいカペラはもしそうなら、いじわるされてもしかたがないとあきらめてしまいました。

毎晩毎晩、彼女は子山羊を抱き、一人で泣きました。

村人たちのいじわるは、どんどんひどくなっていきます。

とうとう、村人たちは心優しいカペラを殺してしまいました。

カペラは魔女だから村にいてはいけないと、自分勝手な理由で火にあぶってしまったのです。

ごうごう、と火はカペラをようしゃなく焼き殺してしまいました。

もえさかるほのおにむかって、子山羊のカペラがとびこみました。

大事な友だちが、たったひとりで神さまのところへいくのがさみしかったのです。

カペラの優しい心は、村人たちには通じませんでした。

それを見ていた神さまはたいそう怒り、村に大雨を降らしました。

大雨はやがて洪水になり、村をのみこみました。

村をのみこんだ大水は国へと広がりました。そして、たくさんの人々が苦しみました。

カペラはそんなことになるのが嫌だったのに、優しい心はとうとうむくわれませんでした。


『シェルレアン童話集』より。作者不詳。

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