第4章 ディエラ帝国での救出劇
地下牢での会話
「一騎当千の猛者を確実に始末する方法は、分かるか?」
地下牢で、高価な鎧を着たエルフがチャロに語り掛けてきた。
手には水とナッツの入った皿を持っている。
「わざわざ、帝国の近衛兵隊長が来てくれるなんて、光栄だね」
徽章から身分を判別したのだろう、チャロはその近衛兵隊長を見ながら悪態をついた。
「お前たち『天才』を相手にするには、通常の看守では力不足だと、陛下のご意思だ。……で、先ほどの質問には答えられるか?」
「ま、暇だし答えてあげるよ。そんなの、もっと強い奴をぶつければいいんでしょ?」
「なるほど。では、その国にそのような実力者がいない場合は?」
「……力以外の方法で倒すしかないよね。一番手っ取り早いのは、飢え死にさせること……つまり、通商破壊ってわけだね」
「そうだ。たとえ百万の兵に打ち勝てる英雄も、飢えと病には無力だからな。……とりあえず、お前は最低限の知性はあるようだな」
その回答に満足したのか、隊長はうなづき、皿をチャロの牢屋に差し入れた。
チャロはナッツを雑につかんでリスのようにほおばりながらかじる。
「これだけじゃ全然足んないよ。あんたの国も食料が足りてないの?」
「そうではない。『天才』に食料をあまり与えるな、と言われているからだ。……まあ、お前の場合はあまり意味はない気がするがな……」
チャロの牢屋の中には大量の袋が置かれていた。中にはすべて菓子の類が入っている。
「兵が相当差し入れを入れているようだな。……まあ、お前の容姿ならそうなるか……」
因みにチャロの身なりも、囚人にしては大変身ぎれいな姿をしている。これも兵士たちが濡れた布巾を差し入れてくれているからだろう。
だが『薄幸な美少女だから』と言う理由でえこひいきをされるのを何より嫌うチャロは、うんざりしたようにつぶやいた。
「いつものことだけど、こういうのって嫌いなんだよ。……私を特別扱いしない分、あんたの方がマシだね」
「それは光栄だな。……お前の話はロナから聞いている。通商破壊の証拠を探しに来たんだな?」
口ぶりから、それがカマかけではないことは見て取れた。その為、チャロは隠そうとせずにうなづいた。
「そうだよ。……ま、情報を掴むどころか、潜入すらできずにこのざまだけどね。けど、なんで通商破壊なんかしてるの?」
隊長は当然のように答える。
「決まってるだろう? 通商破壊により国力を弱らせたところで、食料と引き換えにお前の国を接収するための条約を出すためだ」
「私たちの国を?」
「そうだ。人間の多いお前たちの国を接収し、人間を完全に我が国が掌握する。そして、われらエルフによる国家を盤石にすることを目的としているのだ……と、陛下のお言葉だ」
「……そんなに人間が怖いの?」
隊長は、当然と言ったようにうなづく。
「お前たち『天才』がどれだけ、脅威になったと思う?『天才狩り』を行わぬ他国の気が知れん……と、陛下はおっしゃっている」
「陛下は?あんたは違うの?」
含みのある発言に、チャロは疑問を投げかけた。
「人間が怖い、という点では同じだ。だが、お前たち人間の持つ最大の脅威は『天才』の存在ではないと私は思っている」
「天才の存在じゃない?」
「ああ。お前たち人間は短命だ。以前お前たち人間が大陸を支配していた時も『天才』の死と共に滅んだのだからな。だから『天才』は一時の脅威にこそなれど、長い目で見ればさほど恐れるものではない。……私が本当に恐れているのは、お前たちが持つ価値観だ」
「価値観?」
ふう、と少し息を付き、隊長は水筒に入っている水を一口含んだ。
「……お前たちは、一人の人間を救うために大勢が危険にさらすことを疑問にすら思わないだろう?時に、その人間がお前の嫌う人間であっても、だ」
「そうだね。別にそれが普通じゃないの?」
「それを普通と思う思想こそが人間にしかない『ヒューマニズム』だ。これこそが、われらエルフの統治する国家を滅ぼした直接の原因とすら思っている」
「ふうん。……けど、人間に触れてくうちに、他の種族も私たちと同じ『ヒューマニズム』を理解していってた気がするけどね」
チャロはスラム街の住民や弓士団の隊員のことを思い出しながら、そう答えた。
「で、私はこれからどうなるの?処刑でもするつもり?」
「処刑する理由にしては、お前の罪が軽すぎる。加えてお前への減刑嘆願が何通も住民から届いているからな」
捕まる前に、意図的に住民の目に留まるような立ち回りをしたことも幸いしたのだろう、そのことを思い出し、チャロは少し照れるような表情を見せる。
「おそらく、遠方での強制労働……程度で落ち着くだろう。最も、移送は早くとも来月だがな」
「そう……。とにかく、ここから出たいから、早く行先決めてよ?」
菓子を食べ終えたチャロは退屈そうに腕をぶんぶん回した。
「そう騒ぐな。……そうだな。せっかくだから希望を聞いておこう。どんな労働を希望する?」
「頭使う仕事は苦手だから、力仕事かな。けど、私が『天才』なのは知ってるよね? 悪党をぶっ倒す仕事とかでもいいよ?」
これは半分本音だが、半分は嘘だ。
チャロはセドナ達の救出を信じている。だが、その気配を悟らせてしまえば警戒を強められてしまう。
その為『助けは期待していない』ことをさりげなくアピールをしていた。
チャロの話を聴き終え、隊長は立ち上がった。
「……検討しておこう。それでは、またな」
そう言うと、地下牢を後にした。
(セドナ……。早く来てね、待ってるから……)
その様子を見ながら、チャロはそう心に誓いつつ、追加の菓子の袋を開け、のんきにぼりぼりと食べ始めた。
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