悪役気取りのマリオネット
地軸
心を持った操り人形
《設定》
性別:女
年齢:十七歳
職業:高校生(二年生)
役割:悪役
運動もスポーツも出来る万能な生徒。スタイルも良く、学年の男子の大半からは好意を持たれている。スクールカースト上位で取り巻きもいる、いわゆる『勝ち組』キャラ。
物語の中盤、主人公が相手役の男子学生との出会いを通して明るくなった頃に登場。印象の変わったヒロインに友人が増えたことで自分の立場が揺らぐことを危惧し、ヒロインをいじめるようになる。
基本的には取り巻きを従えてヒロインに暴行、窃盗、陰口による嫌がらせを行う。ヒロインは助けを求めようとしないため行動はエスカレート。遂には不登校にさせてしまう。
その後、主人公が相手役と結託したことによっていじめが発覚。不登校になって物語から退場。主人公とヒロインは元の学校生活を続けられるようになる。
ヒロインと相手役が仲を深める最大のきっかけを作るキャラ。可能な限り悪辣に、非道に、読者に嫌われるように描写すること。
なるほど、私が生まれたのはこーゆー理由なのね。まあ、それが決められたことなら従うだけだし、文句なんて言えないし、せいぜい演じきりますよっと。まあ、それまで出番が無いのなら、目立たない程度に好き勝手やりますか!
まず、私の二つ前の席にいるのが相手役くん。窓際の列の一番後ろが主人公ちゃん。教卓の目の前が親友くん。私の右隣と後ろが取り巻きちゃんたち。この位置なら相手役くんや主人公ちゃんと絡むことは少ないだろうし、あんまり気を遣わなそうでよかった。
とりあえず、中盤まではメインキャラ以外の子たちと仲良くしていればいいかな。どうやら私は人気者みたいだしぃ?美人らしいしぃ?モテモテらしいしぃ?いっぱい友達がいそうだから出番まで楽しく過ごせそうかな?
……全然そんなことなかったや。私が悪役だってみんな知ってるから、全然近寄ってきてくれない。仲良くしてくれるのは取り巻き役の子くらい。つまらないや。私は、別にいつも酷いことをするわけじゃないのに。できたら主人公ちゃんとかとも話してみたいけど……流石に難しいよね。基本的にいつも『書かれてる』から、私が近くにいたら邪魔になっちゃう。しかも……後でいじめることになるし。関わらないほうが、私も彼女も傷つかないよね……。
やっぱり主人公ちゃんには近づけそうにないからいいや。そりゃそうだよ、だって主人公だもん。あの子がいないシーンなんて幕間以外であるわけないじゃん。作者さんも主人公のこと書きたいに決まってるしね。まあだから、私は出番まで書かれないから一緒にいられないし、出ない間はプロットに関係ないことしかできない。書かれない間は自由だし、これくらい制限されないとバランス取れないよね。
「うわああ!……痛たたた……」
ああ、変な考え事してるから転んじゃったじゃん!たまたま誰も居なかったからいいけど……。
「ねえ、大丈夫?手、貸そうか?」
……いたみたい、相手役くんが。
「あ……ありがとう」
私になんて構わなくていいのに、相手役くんは優しいなぁ。こうやって手を差し出して、立ち上がるのを手伝おうとしてくれてる。まあ、今はどうせ本筋に関係ない場面だろうし、甘えちゃいますか。
「よいしょっと!あっ!」
痛い〜!立ち上がっただけでこれ!?これ多分足挫いてるよね!?
「あっ、やっぱり大丈夫じゃない?どこか怪我した?」
「え?ああ、大丈夫だよ?ちょっと足捻っちゃっただけ」
「それを大丈夫とは言わないよ!ほら、ちょっと座って!」
「え?うん……」
言われたとおりに体育座りしたけど……どうするんだろう。
「じゃあ、ちょっと失礼するよ。このまま保健室まで行くから掴まってて」
「え!?ちょちょちょ、ちょっと待って恥ずかしい!」
お姫様だっこ!?私今、お姫様だっこしてもらっちゃってるの!?信じられない!こんなの全女子の憧れじゃん!しかも私は悪役だよ?本当は主人公ちゃんがしてもらうべきなのに、私がしてもらっていいの?
「……ねえ、こんなこと、私にしていいの?」
「したら悪いの?クラスメイトが困ってんなら助けるのが普通じゃない?」
「うーん……立派だね。いつもそんな感じなの?ただでさえ読者に好かれないといけないからって優等生なイケメン君してるのに。きっと今は書かれてないよ?気を抜いてもいいんじゃない?」
「え?ああ、そうか、まだ書かれてないのか。今は書かれてないよ、君の言う通り」
相手役くんは何回も書かれている。主人公ちゃんや親友くんと一緒に。一人のシーンとかも、多分。私はまだ書かれてないから、書かれる感覚を知らない。そのシーンが来る前に知っておきたいな。
「ねえ、『書かれる』って、どんな感じ?」
「う〜ん、一言で言えば『体が勝手に動く』って感じ。プロットに合わせて勝手に動いて、話す。その間も意識はずっと残ってる。書かれる時になったら勝手に体は所定の場所に行く。あと、書かれてる最中の人には干渉できない。だから、書かれてるときはハッキリと分かるんだよ。」
「あ、じゃあ今は確かに書かれてないや。ちゃんと自分で動かせるもん」
なるほど、じゃあ別に書かれてないときはどんな状態になってても問題ないんだ。でも、自分の意思でセリフを話すんじゃないんだ……。複雑だなぁ……。どんなに主人公ちゃんが泣いてても、酷いことしか言えないんだもん。
「そう、だからこれは僕が勝手にやってること。別に『いつ見られてもいいように』とか考えてない。僕がしたいと思ってしたことだよ」
「カッコいいこと言うじゃん。やっぱりヒーローはそうでなくっちゃね」
「あっはは!そんな凄い人間じゃないよ!いつも書かれてるような勇敢な行動も、浮ついたセリフも、今の僕だったら出来っこないね!」
「そうかなぁ。君は私が転んで怪我をしたときに駆けつけて、手を差し伸べて、今はこうしてお姫様だっこしてる。どう?これって書かれてるときの君がやってるようなことじゃない?」
「……確かに。やば、急に恥ずかしくなってきた。」
顔赤くしちゃって、面白いなぁ。『イケメン』よりも『かわいい』のほうが似合う気がする。
「あ、鍵は開いてるけど保健室の先生いないや」
「じゃあ、ちょっとこのベッド座ってて」
先生を呼びに行ってくれるのかな?ここまでしてもらって、すごく嬉しいけど申し訳ないなぁ。
「はい、じゃあちょっと足首見せて」
「え、もしかして治そうとしてくれてる?」
「だってこのくらいは出来るし、先生いないからさ。ちょっと痛むかもしれないけど、我慢して。できるだけ優しくするから」
「……わかった」
どうしよう、すっごく嬉しい。てか相手役くん、やっぱりかっこいいよ。私がみんなの役を知ってるように、私が悪役だって知ってるはずなのに。しかも、主人公ちゃんのことをいじめるのに。友達だって仲良くはしてくれるけど、取り巻き役の子以外は積極的には関わってこないのに。
「なんで、悪役の私に優しくしてくれるの?」
「……役は関係ないよ。書かれてるとき以外はみんな自由に生きてる。人柄だって違う。まあ、多少は役に引っ張られるらしいけどね。それでも、みんなが役どおりの性格じゃない。君だって、僕に憎まれ口叩いてないでしょ?」
……ダメだなぁ。絶対に、絶対にいけないのに、ダメなのに。私は相手役くんを、かっこいいって思っちゃってる。仲良くなりたいって思っちゃってる。……役にこだわらない彼に、興味を持っちゃってる。
「……ねえ、相手役くん」
「なに?」
「書かれてないときでも、こうやって話していい?」
「そりゃ、もちろん」
「やっほー!今日もお疲れ様!」
「勝手に動くから疲れるとかはないけど、ありがとう」
あれから一ヶ月は経ったけど、相手役くんは私とよく話してくれる。未だに私は書かれないままで、相手役くんはよく書かれる。彼がいないと話が進まないから仕方がないけど、ちょっと寂しいなぁ。
「あそういえば、そろそろ書かれることになるけど、心の準備はできてる?」
「ああ、そっか。主人公ちゃん、いっぱい友達できたもんね。そろそろかぁ……。ちょっと不安だなぁ。もし書かれたら、今まで以上に話してくれる子が減っちゃうよぉ……」
私は悪役。悪いことならなんでもするようなヴィラン。ひたすら主人公ちゃんをいじめるモンスター。そんな場面を見られたら、余計に避けられちゃうよ……。
「ねえ、相手役くん。もしも、もしもだよ!もしも私が主人公ちゃんをいじめる場面を君が見ても、今みたいに話してくれる?」
「うん。どんなことをしてても僕は嫌いになんてならないし、友達のままだよ」
不思議と彼の言葉には説得力があるなぁ。その言葉も、笑顔も、書かれてるものじゃないんだよね。
「……信じるからね」
『あっははは!なになに?泣いてんの?ばっかみたい!そんなことしても助けなんて来ないよ?ここは窓も無いし、校舎からも遠いからね!ねえ、聞いてるの?返事くらいしたら?』
やだやだやだ!こんな、こんなことしたくない!ねえ、止まって、お願いだから止まってよ!もう蹴りたくない、傷つけたくない!
『生意気だと思ってたんだよね、だいぶ前から。ただの陰キャでブサイクな子だと思ったら!急にイメチェンしだしちゃって!モテちゃって!人気になっちゃって!調子乗ってんなよクソビッチ!』
こんなこと言いたくない!嫌だ!嘘だよ?私は、本当は、もっと優しくしたいの!こんなに、こんなに酷いことすると思わなかったの!お願い、早く!早く止まってよ!私だって泣きたいのに、涙すら出ない!こんなに、こんなに書かれるのが辛いだなんて思わなかった!ねえ、これはいつ終わるの?早く止めてよ作者さん!嫌だ、物語に必要でも、私はこんなことしたくない!お願い……!止まってよぉ……!
「ねえ、主人公ちゃ……」
近づけない。やっぱりいつも書かれてるからだ。……そうか、私には、謝ることさえ許されないんだ……!あんなに酷い痣をつけて、怪我をさせて、それでもただ、嫌われることしか出来ないんだ……!嫌だ、嫌だよ……!誰か助けてよ……!
『あれ?どうしたの?裸足で教室に来ちゃって。もしかして上履き無くなっちゃったの!?うっわ〜最悪じゃん!心当たりは?』
『……ない』
『あちゃ〜、それじゃあ私も探せないなぁ。でも大丈夫!できる限り私も手伝うからさ!』
『……ありがとう』
『当たり前でしょ!私たち、
そんなこと、思ってもないくせに。場所だって知ってる、校庭の焼却炉。きっとそろそろ燃やされるころ。……とうとうクラスのみんなに見られちゃったなぁ。イジメとは知らないような顔してるけれど、それもみんな『書かれてる』からだし。意識はあるから、忘れてもくれないだろうし。
……もう、味方なんていないなぁ。……もう、悪役のままでいよう。私は悪役で、はじめから主人公ちゃんが嫌い。そのほうが気楽でしょ?
「ねえ、大丈夫?」
「え、何が?」
「書かれてること、みんなイジメのことなんでしょ?それに、最近書かれてないときは教室にいないし……やっぱり辛いのかなって」
「何?心配してるの?私のどこを見たらそんな言葉が出てくるのかな?目、付いてますか〜?」
ううん、嘘。本当は辛い。したくもないことをして、言いたくないことを言って、傷つけたくないのに傷つけて、謝りたいのに謝れなくて、みんなからは距離をおかれて……。こんな気持ちになるなら、最初から、悪役のままでいい。
「……前にも言ったよね、役は関係ないって」
「うわ、急に語り出さないでよ。キッモ」
「みんなが役とは少し違う性格で、自由に生きてるって」
「ねえ……話聞いてる?人のこと無視するのは良くないって知らないの?」
「今僕がここにいるのは、書かれてないからだよ。僕は僕の意思で、ここにいる。君が心配で、仕方がなくて……」
「ねえ!何が言いたいの!?こんな、こんな私を見て何が言いたいの!?慰めのつもり!?要らない、そんなの要らない!私は悪役なの、最低な人間なの!君は主人公ちゃんに構ってればいいの!私にはヒーローなんて要らないの!私なんて……もうほっといてよ……バカ!」
「……どんなことをしてても僕は嫌いになんてならないし、友達のままだよ」
「……え?」
「前に言ったでしょ、同じこと」
「……」
「どんなことをしても、君は君だよ。謝ろうとして失敗しても、それでも何回も試してること、僕は知ってる。書かれ終わった後、一人で泣いてるのも知ってる。……君は悪役じゃない。誰よりも優しい人だよ」
「うっ……ぐっ……うわぁぁぁぁん!もう、もう嫌だよぉ!なんで、なんで私ばっかりこうなの?あんなに酷いことしたくないのに!嫌なのに!それでも止められなくて、どうしようもなくて!辛いよぉ、やだよぉ!」
「うん、今までよく頑張ったよ」
「ごめんなさい!ひっぐ……ごめんなさぁぁぁい!悪い事してごめんなさい!酷いことしてごめんなさい!」
「うん……今は泣いていいよ。僕はずっと、君の味方だよ」
相手役くんの胸の中は、暖かくて、優しくて、安心する。こんな私でも受け入れてくれそうで、いつまでもこうしていたい。
ああ……気づきたくなかったなぁ。私、彼のことが好きなんだ。……最後には主人公ちゃんと一緒になるのになぁ。
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