第18話 もう一度作れと?
「
それが俺のスキル【
ピエールの異名を使って話しかけてきた『キーナ』なる存在もいたがあれは例外中の例外。
「それはうちの従業員に僕の事を『腹黒エルフ』かと聞いていた事に関係あるのかい? 生焼けだった串焼き肉を魔法で炙ってくれてる手前、深く聞く気はないけど」
コンロの火が出る点火魔法も魔力操作で収束し、一点から放出するように発動させればバーナーの様になる。
「あると言えばある、ですかね。よく考えたら暴言、陰口でした。申し訳ない」
「いやいや、別に気にはしてないからいいんだけどね。事実だし」
「…………」
「ここは笑うところだよ?」
目が笑ってない。
「他言無用でお願いしますよ?」
「大丈夫。僕はこう見えて口が堅いし、探ってきた相手に偽の情報を掴ませるくらいは簡単だからね」
暴言、陰口を吐いてしまったお詫びも兼ねてノーウェンさんに【異名表示】スキルについて分かっている事を話す事にした。焼き直した串焼き肉を渡すついでに。
「——と、こんな感じですね」
「特定の条件を満たしたモノが周囲からどう思われているかと真名が分かる、と。冒険者より政治家か詐欺師向けのスキルだね。でもまぁ、使い方次第だよ、どんなスキルも」
「どう使えと」
「ふふふ。今さっきまさに使ったじゃないか。僕を指定して『腹黒エルフ』って」
なるほど、異名持ちのパーティメンバーがいるので対象を指して印象付ける事を言えは一時的にかもしれないがスキルが発動されそうだ。
「あ、『生焼けエルフ』です。『腹黒エルフ』じゃなくて」
「生焼け?」
「生焼け」
「生焼けの串焼き肉を食べてたから?」
「いえ、微妙な日焼け具合から」
「今もそう思うかい? 【
ノーウェンさんの褐色だった肌の色素が抜け落ちて白い肌へと変わっていく。
「今は……『白アスパラエルフ』ですかね」
「白アスパラか。あれは美味しいよね。ただ、うちだと気候と栽培方針が合わないから作ってないんだよね。遮光栽培をしている農場に伝手ならあるけど紹介しようか?」
もやしっ子と称するには筋肉質な体格をしていたので、もやしより太い野菜で思いついたのがアスパラだっただけなのだが。
「白ナスエルフって言うには筋肉が足りない」
「え、白ナス? 白ナスなら持ってきたはずだからうちの従業員が焼いてるはずだよ。白ナスは焼くとトロトロで美味しいからね」
そういえばまだ何も食べてない。
とりあえず、ノーウェンさんから受け取って手に持ったままだったサラダをつまむ。
青紫蘇が効いたドレッシングで着飾った鮮度抜群で小気味良い食感の野菜達。気付けば手に持っていたサラダの器は空になっていた。
「余計に腹が減ってきたな」
「それ君らのパーティメンバーでつまめる用に盛っ……うん、良い食べっぷり過ぎてどうでも良くなってきたよ。お代わりはいるかい?」
「サラダのお代わりもいいですが、今は焼いた白ナスを食べたい」
売り切れ間近のシチューを皿に装って自分が食べる分を確保してから白ナスを探しに野菜を置いてある机に向かう。
「あれ? ソラ、どこ行くの?」
「白ナス探して焼いて食べに」
「白ナスって美味しいの?」
「ノーウェンさん曰く、トロトロで美味しいらしい」
何人かの喉が鳴る音が聞こえた。
「「「私も行く」」」
「僕はいいかな。野菜だし」
「私は筋肉が肉を食べろと言っていますので、後で気が向いたらいただきますわ」
白ナスは他の野菜と色が大きく違うおかげで簡単に見つかった。煌刃で縦に裂いて、竈の網前に待機している嫁二人とリタに投げ渡す。
掛ける調味料は甘味噌でいいか。小鍋に味噌と砂糖、味醂を入れて焦がさないよう煮込む。
焼いた白ナスは口に入れた瞬間に蕩け、飲めた。塗った味噌と相まって食べる極上の汁物と化している。
俺達の食べた反応を見たせいか最終的に、この昼食に参加していた全員が白ナスを焼いて食べていた。
「ソラさん、一つご相談が」
シチューと串焼き肉に舌鼓を打っていると牧場主のオウナさんが話しかけてきた。さっきまでいなかった熊のような体格の男を引き連れて。男の顔は麦わら帽子を深く被っているせいで見えない。
「おっと! 抜け駆けはさせませんよ?」
自身のスキル【肌綺麗】によりすっかり色白となったノーウェンさんも用があるらしい。
「くっ、相変わらず羨ましいスキルですね」
「ええ。日焼けだけでなく小さな傷程度であれば簡単に治るので重宝してます。まぁ、個人的には貴女のような健康的な肌が好きなんですが」
見つめ合い、頬に朱が差す農園長と牧場主の二人。周囲からは農園と牧場の従業員達が「また始まったよ」とか「いい加減、早くくっつけ」などと呟く声が聞こえる。
「えっと、相談って結婚式に呼ぶから挨拶でもしてほしいとかですか?」
「「違う!」」
「まだ僕たちはそういう関係じゃ——」
「そうです、私たちはまだ——」
「「——え、『まだ』?」」
牧場主と農園長はまたも互いに見つめ合い、二人だけの空間を作り出していた。
「用件ってなんだったか聞いてます?」
二人はまだ戻ってきそうになかったのでオウナさんが連れてきた麦わら帽子の大男に尋ねてみる。
「いや、聞いてはおらんよ。定期巡回に来たら連れて来られただけじゃし」
隣に立って下から見上げた事で大男の濃ゆい眉毛をした顔が見えた。
「もしかして
「そうじゃよ?」
濃ゆく主張の激しい太い眉が情報精霊の唯一絶対な特徴で、それ以外は男性型である以外の共通点はない。
「あ、食べます?」
いい具合に焼けていた串焼き肉の何本かをゲンさんに手渡す。
「ふむ。頂けるのであればありがたく頂戴させて貰おう」
ついでにシチューもと思ったが既に売り切れて鍋が空になっていた。
「それです! それですよ、ソラさん」
「あ、結婚式の日はお決まりに?」
「と、とりあえずはお付き合いする事から始めました」
オウナさん、今回は怯まなかった。顔真っ赤だけど。
「おめでとう」
「あ、ありがとうございます。って、話はそれじゃないですから」
「話?」
「レシピ登録をしませんか?
レシピ登録をすれば情報精霊の
「俺が考えた料理じゃないですけど?」
「何を登録するかは知らんが、同じ料理の調理法が幾つも登録されるのはよくある事じゃ。閲覧したものに使うかを委ねればよい。登録するのであればステータス画面を表示してくれるかのう?」
言われた通りにステータスを表示するとゲンさんが表示されたステータスに向かって手をかざした。
//
ソラ
年齢 16歳
職業 新婚
ライセンス
・騎虎騎乗者トライダー
・煌式戦闘術
・その他
//
すると表示内容が変化していく。
//
登録者 ソラ
料理名 ————
材料
————
調理手順
————
備考
————
調理工程映像記録
[記録開始][記録再生][編集]
〈登録完了〉
//
「注意事項じゃが、〈登録完了〉に触れると編集できなくなるからの。
調理工程映像を記録する際はステータス画面越しに調理工程を映すこと。
レシピは情報精霊側で登録されたレシピに則って再現成功次第、情報録に記載されるので常人に再現不可な技能は使わんように」
まさか異世界に来てレシピ動画を撮る事になろうとは思わなかった。
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