現代日本にダンジョンが出現したので、スタダで最強目指します!
あろー。
第一章 迷宮出現
第1話 ダンジョンの出現とスタートダッシュボーナス
1.
「はぁ…」
右肩に食い込む竹刀の肩紐をぎゅっと握りしめて、腹の底からため息を吐き出す。
まるで仕事にくたびれたサラリーマンのようだ。
「つっかれたー…」
自分以外誰もいない通学路に、俺のつぶやきだけが落ちる。
「なんで、俺ばっかり…」
すでに高校も入学して2年が経過しようかというのに、今さらと言えば今さらな独白。
まぁ、なんで、と言えば、俺に才能がないのが悪いわけだけど…学校という狭い世界の中では、勉強、運動、容姿、コミュニケーション能力などを基として作られるスクールカーストがなによりも優先されるのだ。
そもそも、俺が所属している剣道部というコミュニティ自体が、あまりカースト上で上位とはいえない部類でもある。
その中でも実力、実績において底辺をはいずり、勉強、容姿においても平々凡々、さらにはコミュニケーション能力など望むべくもない。 それが俺、八島玲央だ。
サッカー部やらテニス部、野球部などのカースト上位グループに劣等感を抱く中位グループからすれば、見下して自己肯定感を満たすには格好の獲物だったんだろう。
「辞めよっかなぁ」
中学時代からかれこれ5年近く続けてきた剣道だけど、一向に上達したような実感がない。
家族、とりわけ姉からの猛プッシュがなければ、とっくに辞めていただろう。
『辞めたい』などと言おうものなら、また面倒なことになるのは目に見えている。
「はぁー…」
腹の底からため息を吐き出し、ここまでがワンセット。
もはや帰宅時のルーチンワークと言っても過言ではないと思う。
学校から家までは、徒歩で20分程度。
毎日毎日、こんなことばかり考えながら歩いている。
「…赤か」
片側3車線の大きな道路脇、横断歩道の信号が赤く灯ったのを確認して立ち止まった。
群馬県の片田舎、やってくる車もない。
見上げれば、夜空には満月が浮かんでいた。
(カッコー…カッコー…)
信号機が色を変えようと、鳥の声を模した電子音が無人の道路に響く。
遠くの田んぼからは虫やカエルの声も聞こえてきて、なかなかにさわがしい。
そのまま少しだけ眼を閉じてみれば、だんだんと、だんだんと声が遠ざかっていった。
閉じた眼の先に光を感じることもなく、静かな夜の中で…え、いや、静かすぎない?
「………は?」
疑問を感じて眼を開けたその先には、ついさっきとは全く別の光景が広がっていた。
2.
灰色の壁と天井、むき出しの地面。
さっきまで騒がしいほどに響いていた大合唱は一切合切消え失せている。
「…はぁ?」
頭が真っ白になる、というのはこういうことなんだろうか。
口からは純粋な疑問の声だけが溢れる。
…さっきまで、いつもの通学路だったよな?
え、どこ、ここ?
前を見ても、後ろを見ても、ひたすらに続く同じ景色。
眼を閉じたまま、我知らず歩いてたのか?
そのままどこかのトンネルにでも来てしまった、とか?
でも、こんなに長いトンネルなんて近所にあったっけ…?
ていうか、電灯なんてどこにも見当たらないのに、なぜか周囲はある程度見えている。
暗いは暗いけど、向こう数メートルくらいは見えているのだ。これは明らかにおかしい。
「あ…そうだ、スマホ!」
ズボンのポケットから型落ちのスマートフォンを取り出して、地図アプリを起動する。
これで現在の位置情報もわかるし、最悪ナビゲーションで家までも帰れるだろう…と、思ったのも束の間。
「…はぁ?」
表示された位置情報は、自宅から徒歩数分程度の距離。
正直はっきりとはわからないが、ついさっき眼を閉じた地点と変わらない気がする。
「いや…え? なんで?」
もう一度周囲を見回してみる…灰色の天井、壁と、土がむき出しの地面。
横幅は3メートルほどで、奥行きはまるで見通せない。
やはりどこを探しても光源は見当たらず、なのにある程度の視界は確保できている。
「………と、とりあえず、歩いてみるか」
思わず呆然としかけたが、それではなにも解決しない。
きょろきょろとあたりを見回しながら、俺は一歩踏み出した。
3.
歩き出して数分。
通路の先、薄暗がりの中から、妙な音が聞こえてきた。
(ぐちゃ…ぐちゃ…)
重い液体をかき混ぜるような、耳慣れない水音。
某有名ホラーゲームでゾンビに食われる時の音に似てるような気がするけど、気のせいだろう。気のせいに決まっている。
…絶対に気のせいだとは思うけど、一応、念のために肩の袋から竹刀を取り出して構えた。
(ぐちゃ…ぐちゃ…)
音はだんだんと大きくなり、明らかに近づいて来ている。
心臓がどくんどくんと騒ぎ始め、耳の奥から響いてくるようだ。
やがて暗い通路の先から丸みを帯びた影が現れた。
「…なんだ? これ?」
大きさはそこまででもない。
こちらの腰ほどの高さしかなく、動きもそれほど素早くなさそうな…ゼリーだ。
緑色の、巨大ゼリーとしか表現しようがない物体が、ぷるぷると震えながらこちらを見て(?)いる。
…見てるんだよな? なんか動き止まったし、たぶん観察されているんだろうと思う。
「マジで、なにこれ…?」
動くゼリー? そんな物見たことも聞いたこともない。
あれか? RPGゲームなんかでよく見かける、スライムってやつ?に、見えないこともない…かな?
とりあえずの仮称スライムは、こちらが通路の端に寄れば同じ方向の端に、反対へ寄れば反対についてくる。
どうやら、逃がしてくれる気はなさそうだ。
「な、なんだよ。 やるのか?」
竹刀の先を突きつけながら、こちらもスライムをじーっと観察。
すり足で少しずつ後退してみるが、それにもゆっくりとついてくる。
振りむいて全力疾走で逃げたい衝動に駆られるが、背を向けた瞬間襲われたら、と思うとそれもできない。
いやでも、ちらっとだけ確認するなら大丈夫か…?
と、ほんの一瞬視線を逸らそうとした瞬間、スライムの体が大きく震え、空中へと飛び上がった。
巨大なゼリーが空を舞い、こちらの顔面目掛けて飛び掛かってくる。
顔に飛んで来るとか、Gかよ!?
「うわ、わああああぁぁぁ!?」
恐怖のあまり情けない悲鳴が漏れてしまったが、体はしみついた動きをなぞっていた。
小さく切っ先を持ち上げ、小指に力を入れて振り下ろす。
感触は、水の塊を叩いたようだった。
(びしゃ!)
と派手な水音が鳴り、スライムの体が破裂。
慣性に従ってその緑色の体液が全身に降りかかる。
「・・・うぇ」
生臭い・・・魚とも微妙に違う、謎の生臭さが通路に満ちた。
「っと」
あわてて振りむき、スライムの結末を確認するが、そこにあったのはただの緑色の水たまり。
どうやら危機は去ったらしい。
「はぁ…なんだったんだよ…」
思わず竹刀を握りしめたまま、地面に座り込む。
制服が汚れる、などと気にする余裕はもはやなかった。
4.
『ぱぱらぱっぱぱーん! おめでとうございます、スタートダッシュボーナスです!』
「うわっ! え、なに!? だれ!?」
薄暗い通路の中、どうにかスライムを倒せて安堵した直後、女の声が響いた。
スタート…なんて?
『あ、どうも初めまして、神です!』
神らしい。
「あ、どうも…え? いや、いやいや」
そんなわけないでしょ。
『いやいやじゃなくて、神ですよー。 とにかく、八島玲央さん! ダンジョン開催初日討伐確認しましたので、スタートダッシュボーナスを差し上げます!』
「…はぁ、どうも?」
なんかもう、なにを言っても押し通られそうなので、受け入れることにした。
『まず、あなたのステータスを参照しますね! …ふむふむ、なるほどー』
ステータス? さっきのスライムといい、やたらゲームっぽいなぁ。
『とりあえず最速討伐記録らしいので、取得経験値5倍スキルと、あとは剣術スキルをお持ちのようなので魔力刃スキルを差し上げます!』
「はぁ…」
言っている意味がさっぱりわからないので、相槌を打つくらいしかできることがない。
…ていうかこの声、どこから聞こえてるんだろ?
当たり前だけど見渡せる範囲にスピーカーなんてないし、そもそもすぐ近くで話しているように聞こえる。
なのに、そのあたりに手を出してみても空を掴むばかり。
『それでは、引き続きダンジョンをお楽しみくださいねー!』
…一方的に言うだけ言って、その後声は聞こえなくなった。
「なんだったんだ? …スキルとかステータスとか…うぉっ!?」
名前 :八島 玲央
性別 :男
レベル:2
力 :4
魔力 :2
耐久 :3
素早さ:3
耐性 :2
スキル:剣術2(67%) 取得経験値5倍 魔力刃1(0%)
な、なんか出てきた…『ステータス』と口に出した瞬間、空中に半透明の板が浮かび上がり、そこに前述の文字列が浮かんでいる。
おそるおそる指で触れようとしてみても、そのままなんの抵抗もなく貫通してしまった。
ホログラムみたいなものなのか?
ていうか、これ。
「完全に、ゲームじゃん…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます