02 sideユーイン
「――――何故、フラれた」
「あ~暴れないでね。お前に暴れられると、止められる人いないから」
「……」
「むすって、するなって。格好いい顔が、台無しだぞ~」
「……」
「だから、そんな顔するな。ユーイン」
フラれた。
なんで僕はフラれたんだ。
そればかりが頭の中を巡る巡る。最悪だ、こんな最悪なことないだろう。
怒りにまかせて拳を振るえば、机においてあった花瓶にぶつかり、花瓶はバランスを保てず床に落ちて散らばった。水と、陶器の破片と無惨に散らばる花。僕はそれらに意識を向けることが出来なかった。
(僕は、ステラに振られたんだ――――)
ただその事実だけが、僕に突き刺さっていた。陶器の破片のようなものではなくて、もっと大きなものに切り裂かれたような痛みだった。
そんな僕を見て、兄ことソリス・ウィズドムは、やれやれといった感じに眉を曲げる。
「何だ、その顔は」
「いーや、ユーインのやり方は間違ってるよ」
「何だと」
口を開いたかと思えば、兄貴は僕のやりかたは間違っていると言う。
何がだ、と言い返そうとしたが、それは出来なかった。何故なら、それは正論で、反論の余地もないからだ。
兄の言っていることは正しい。それは分かっているし、理解しているつもりだが、僕にはこんな方法しか思いつかなかった。僕が素直じゃないと誰かがいったから、素直にストレートに伝えたら、ステラに振られた。それが結果だった。
最悪だ。
「……クソ」
「だから、落ち着いてよ。ユーイン。そんな風に怒っていても仕方がないだろ」
「怒っていない」
「いや、どう考えても怒っているだろう」
「だから、怒ってないと言ってるだろ――――!」
兄の言葉が耳障りで、思わず魔法によって浮かせた無数陶器の破片を兄に向かって飛ばす。
勿論、本気ではない。本気だったらこんなのじゃ済まされないだろう。自分の力は、自分がよく知っている。それに、本気だったとしたら……そもそも殺す気でやるから。それに気が付いたのか、兄は慌てて避ける。避けた先には、壁に飾ってある絵があって、それに突き刺さる。
「危ないなあ。感情ぐらい自分でどうにか押さえてよ」
「……」
「俺を殺す気か?」
「……ッチ、殺すわけないだろう。お前を殺したら、ステラが泣くだろう」
「あー、そういうこと?」
と、兄は今理解したといわんばかりに手を叩いた。
何だと思ったのか。まあ、それを聞く理由もないし、俺にとっては何でもいいのだが。この苛立ちを押さえられるのなら。
(感情的になってはいけないと分かっている。だが、上手くいかなくて苛立っている自分がいる……情けない)
だからか、ステラはそういうのを見透かして、俺のプロポーズを蹴ったというのだろうか。いいや、あのステラのことだ。そこまで考えていないだろう。
最愛の人に失礼なことを思いつつ、俺は大きなため息をつく。
「まあ、でも、会いたいって手紙来たんだし、ステラも別に嫌いになってるわけじゃないんじゃない?」
「……だが、僕は拒絶された」
「いつもは自信家なのに、どうして、そんなに弱気になんのかなあ」
そう言うと、兄は肩をすくめる。
だって、本当にそうだから。いつもなら、こんな風にはならない。もっと冷静沈着に物事を進めて……何故か今回はそれが出来ない。
何故だ?
相手がステラだから。
「……勝手が分からないんだ。どうやったら、振向いて貰えるか……とか。ステラは、そういうの疎いだろうし」
「確かに、ステラはそうだね。だからといって、あのやり方はないんじゃないかな」
「……方法が見つからなかったと言っている」
「でもねえ」
「……そもそも、兄貴がステラは可愛いもの好きだと言ったんだ」
「だからって」
「……僕だって、成人しているのに、子供のフリするなんてキツかったんだからな!」
僕は耐えきれなくなって兄を指さした。
兄は堪えきれなくなったのか、プッと吹き出すとそのまま腹を抱えて笑い出した。
でもも、だからも、何もない。
そもそも、兄が言い出したことなのだ。一応これでも、兄のことはしたっているつもりだし、兄のアドバイスを真に受けて実行に移している。今回のこれだって、僕はやりたくなかった。それでも、ステラと距離を縮められるのならと、実行しただけ。ただ、それだけなのに。
「笑うな、クソ兄貴」
「ごめん、ごめんって、本気でやると思わなかったんだ」
「……チッ」
「舌打ちするなって。でも、ユーイン。本当にステラのこと好きなんだね」
「……」
「照れるなよ。こっちまで恥ずかしくなるじゃん。あ~、本当に面白い。お前のそんな顔初めて見たかも。いや~、ステラに感謝だね」
と、兄はニヤリと口角を上げた。
感謝だと? ふざけるな。
僕は、兄貴を睨み付ける。
兄は、僕の視線など気にも止めず、僕に向かって手を差し出してきた。意味が分からず、首を傾げると、兄は僕の手を掴んで無理矢理握手させる。
そして、兄はこう言ったのだ。まるで、子供に何かを教えるように――
「頑張れよ、ユーイン。お前ならいけるって、信じてる」
「何だそれ。嫌味か、嫌味なのか」
「そろそろ、ステラが来るだろ? それで、どうするんだ? そのまま会うのか、それともまた『子供のフリ』をするのか」
「……」
「まあ、俺には関係無いことだから。好きにしなよ」
と、兄は言う。
それは、先ほど僕が兄に思ったことだった。兄の事なんて関係無いだから、勝手にしろと。それを、兄は僕に返してきたのだ。
時計を見れば、約束の時間。ステラがもう少しで尋ねてくる。高鳴る胸、それと相反するようにわき出る冷や汗。今度拒絶されたら立ち直れないかも知れない。
(……僕は、ステラが好きだ。だからこそ、どんな手を使ってでも、彼女の心を掴んでみせる)
ステラは忘れているだろうけど、僕はずっとステラが好きだったんだ。本当に、小さい頃から。
「お前を見ていると本当に面白いよ。ユーイン」
「……兄貴も、ステラのこと好きなくせに」
「ん? 何でそう思うの?」
「ことあるごとに邪魔するから」
何それ。と、兄は笑った。そうして、扉の方を見て呟いたのである。その声色は何処か嬉しそうなものだった。
「俺は、ユーインもステラも好きだよ。大好きな弟の恋が実るなら、当て馬だろうが何だろうがなってあげるよ。恋にはスパイスが必要だろ?」
「……」
「その顔好きだなあ。俺に嫉妬してるって顔」
じゃあ、そう言って兄は部屋を出て行ってしまった。
「……クソ」
俺はもう一度、拳を机に叩き付けた。
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