日常の中に潜む非日常を望む僕らの夢のような何か

春夏秋冬

第1話 非日常を望んだ日常

 オレの人生には華がなかった。そう。悪くいってしまえばゴミみたいな人生だ。

 オレにはこれといった趣味がない。人をあっと驚かせるような特技もない。何か特別なことをやっているわけでもない。平凡中の平凡。凡人に埋もれているただの一人。もしかすると、凡人以下なのかもしれない。

 オレはただ何となく今まで生きていただけに過ぎない。いわゆる、惰性だ。なんで生きているんだろうな、と疑問を持ちつつ、だらだらと、生きてきた。その疑問を解消させようとはせずに、だらだらと無題に日常を過ごしていた。

 漫画を読んだり、ゲームをしたり、音楽を聴いたり。誰と遊ぶわけでもなく、一人で家の中で、なんとなく時間が過ぎていくのを待っていた。

 朝起きて、朝食をとって、学校へ行く。つまらない授業をぼーっと聞き、適当に休み時間をつぶして、学校が終われば誰かと一緒に帰るわけでもなく、部活動を行うわけでもなく、そのあたりをプラプラし、ゲーセンへ行ったり、家でゴロゴロしたりする。そうして眠くなり、一日を終える。そんな毎日をただただ過ごし、無意味に生を消費しているだけなのだ。特別な変化もないその毎日を。

 登下校。どこかへと歩く道の街並みも普段通り。ちっとも変わらない。まるで時でも止まってしまっているかのように。奇麗さのかけらもない、まるで灰色のようなつまらない世界。オレはそんなところを歩いている。毎日の変わらぬ日常がオレを殺そうとするのだろうか。

 だから、オレは変化を望んでいた。この退屈でくだらない日常がおかしな非日常へと様変わりするような変化を。

 オレはそんなことを夢見て、妄想して、願って、くだらない日常をリピートしていくのだ。

 そんな人生は毒だ。その毒が体中に回っていく。

 オレはそれに絶望していた。

 何かないか。オレは考えていた。こんなクソみたいな日常の中のどこかに潜んでいるはずの非日常を。夢のような何かを……。


 オレはある日の学校終わりに、プラプラと散歩をしていた。なんか、家に居づらかったからだ。それに、このまま家にいても、ただの日常の中に溶け込んでいってしまうような気がしたからだ。オレは……これは気まぐれというやつなのだろうか、変化を望もうとしていたのだろうか。だから、このように行動を移したのだろうか。いや、それもあるがそれだけではなくもう一つ理由がある。家に帰ると、母親が机に突っ伏して泣いていた。その理由はわからないし、知ろうとするには勇気がなかった。だから、オレはある種、逃げるかのように、出ていった。

 しかしながら、どこへ行こうにも目的地もなく、ぶらぶらするのは退屈であった。

 オレはため息をつきながらとりあえず、誰もいなさそうなところへ向かった。

 大体は一人でいるから、一人でいられる場所を羨望した。

 そうなると、ということで、近くにある廃墟へと足が向かった。

 昔あった団地で、今は誰も住んでいない。

 ここならなんとなくいい暇つぶしになるのかなと思い、到着した。

 閑散としていた。もともとここでいろんな人が住んでいたとは思えなくらいに、さびれていた。水を打ったような静けさだ。もう死が萬栄してしまった滅んだ世界のような気がした。その中にただ一人生き残った人間のような気がした。

 オレは少しにんまりとした。普段のやかましい世の中から真逆な世界だったからだ。オレが望んでいるような非日常がそこに潜んでいるような気がしたからだ。そもそも、ここはいわくつきの廃墟である。いつだったか、誰かがここで自殺をしたとかどうか。だから、幽霊が出るっていうオカルト染みた空虚な空間。いわゆる心霊スポット。オレはこんなところに、望む非日常感を体感しようとした。怖さと期待感。楽しさと探検心が芽生え、辺りを探索しはじめたのだ。

 しかし、目新しいものはなく、とても暇だった。屋上まで登りそこからの景色を眺めたりもしたが、オカルトも何も見られなかったし、感じなかった。静寂なこの空間にはそれ相応な体験しか生まれないということだ。

 オレは肩透かしをくらった。ため息をついて、頭をだらんと垂らす。

 下に降りて、もう帰ろうかなと思った。太陽も沈みかけていて、これから暗くなって危険になるからだ。

 すると……

「危ない!」

 上から声が聞こえた。少女の声だった。

 その声にびっくりし、振り返った。

 そうすると、たぶん、さっきの声の主だろうか。

 瞬時だったので、どのような少女か描写ができないが、いや、本当にできない。

 振り返ったオレの目に、この世のものとは思えぬ光景が焼き付いた。

 ぐしゃ――

 つぶれた音。飛翔する脳しょう、血。

 びしゃりとオレに飛びつく。

 そう。目の前で彼女が頭をぐちゃぐちゃにし亡くなった。

 オレは硬直し、動けなかった。

 恐怖。というのもあるが、別の感情も芽生えていた。

 オレの片頬が横に広がっていった。

 オレの望む非日常が空から降ってきたのだった。

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